February 28, 2016

帝国ホテル厨房物語

キーワード:
 村上信夫、フレンチ料理、自伝、仕事、フルコース
帝国ホテルでフレンチシェフとして働いていた著者による自伝。以下のような目次となっている。
  1. 1 十二歳の旅立ち
  2. 2 元気な小僧、調理場に立つ
  3. 3 日本一の調理場へ
  4. 4 戦場のカレーライス
  5. 5 料理人として再出発
  6. 6 至高の味をパリで学ぶ
  7. 7 料理長は大忙し
  8. 8 帝国ホテルの味を守って
  9. 9 終わりに―夢持ち続けて
(目次から抜粋)
本書は日経新聞の『私の履歴書』の連載が書籍になったもので、著者は18歳から帝国ホテルで働き始め、専務取締役総料理長まで上り詰められたフレンチシェフとしての一生が自伝的に示されている。以下の本でプロフェッショナルの本質が学べる本として取り上げられており、気になったので買って読んでみた。最近はこの本が次に読む本のハブになっている。

著者は、1921年に神田の食堂で生まれるが、12歳ごろには両親を早くに亡くし、自立する必要に迫られて、洋食の軽食やお菓子を出す「ブラジルコーヒー」というところで住み込みで働き始めるところから料理人人生が始まる。そこから18歳になって運よく帝国ホテルに移って鍋磨きから始め、専務取締役総料理長までに至るまでの過程が、著者の示すようにまさに人生はフルコースという感じで波乱万丈である。

終始著者ならではの体験による面白いエピソードやフレンチシェフ、料理人として示されている鉄則などがとても勉強になり、それぞれたくさん線を引いた。それらをたくさん引用して紹介したいのだけど、あまりにも多すぎるので、控えめにしたい。

著者は帝国ホテルのシェフで出世すると同時に、日本のフレンチ業界を近代化した功績を残される。例えば、大型冷凍庫をうまく活用し、冷凍食材で調理工程の効率化を図ったり(しかもそのヒントを戦時中のシベリア勾留時に得たとか)、それまで帝国ホテルには共有されるレシピがなかったが、著者の働き掛けでレシピを共有し、それを今風にアレンジしていったり、NHKの「きょうの料理」に出演することで高級なフレンチを家庭料理にまで浸透させるきっかけになった。

また、後進の育成時には、楽しく働けるのが一番であるということもあって、私的鉄拳制裁の禁止で言葉で丁寧に教え、よいところを褒めていくという人材育成方法を取っていたらしい。さらに感情的にものを言ったり、怒鳴り散らしたりしないようにしていたのは、料理の味付けに影響するとのこと。なので、後輩には「朝、出社前に、奥さんとケンカするなよ」とアドバイスをしていたようだ。人財育成的な観点からもとても勉強になる。

さらに東京オリンピック開催時には選手村の料理長に就任したので、一度に大量の食事を作る必要があり、そのためにはも多くの料理人たちと協働する必要がある。それぞれの料理人の流儀があるが、調理手順を統一し、百人単位の大量調理マニュアルを作り、食味上の指令を徹底し、職場間の連携にも気を配り、効率的に無駄なく運営するシステム作りもされたようだ。大プロジェクトのマネジメントの観点からも学べる。

以下特に勉強になった部分をいくつか引用しておこう。
どんなことでも十分に準備しておけば混乱はしないで、お客様に喜んでいただけることも分かった。事前の用意や段取りがとても大事なのだと、身に染みて感じた。私はそれから、「段取り八分」が口癖のようになった。事前に用意しておけば、八割方は成功という意味で、たとえ小さな仕事でも、周到な準備が何よりも大切ということを協調している。
(pp.163)
いつも準備ができずに結果的になんだか微妙なことになるので、これは意識的に変えていきたい。といいつつも、完全に準備ができるまでやっていたらチャンスを逃すという側面もあるのだけどね。

また、若い料理人へのアドバイスとして以下のように示されている。
 若い料理人に与える言葉は何か、とよく聞かれるが、私は何よりもまず、「欲を持て」ということにしている。そして、もう一つの助言は、「急ぐな」である。
 流行に追われ、先を走りたがる若いコックが多いが、最も大事なのは基本だ。基本に尽きる。それをおろそかにして、目先の流行ばかりを追いかけていると、必ず中途半端になって、お客様に飽きられる。焦らず、慌てず、じっくりと一生懸命に勉強することだ。そして、現場を踏み、経験を重ねながら、お客様が喜ぶ料理を絶えず考え続け、工夫することが大事だ。
(pp.203-204)
ここは『料理』を変数として、自分の仕事に置き換えて考えておきたい。また、流行ばかりを追いかけていると、流行に左右されない真髄を見落としがちで、結局うまい料理は時代はやりを超えて生き残る、というのが著者の料理人人生の結論と示されている。

あと一つ最後に左右の銘についての引用しておこう。
 私の座右の銘は、「果報は寝て待て」をもじって「チャンスは練って待て」。コック人生は幸運の連続だった。人にも恵まれた。しかし、それは準備し、努力した結果でもある。新館料理長になって数年後から三十八年間、帰宅してから一日一時間、料理の勉強を欠かさない。八十歳の今も練って待つ夢があるのは幸せだと思う。
(pp.226)
著者の不断の努力は見習いたいと思うと同時に、今までの自分の勉強不足を反省せざるを得ない。

全体を通してまず感じるのは、著者の料理人としてのひたむきな姿勢、貪欲に研鑽を怠らない意識、そして常に前向きな考えや、謙虚で人柄の良さが現れているところだろう。料理人としての実力や文章からにじみ出るような人徳もあわさって、若くして総料理長に抜擢されていったのだと思われる。やるべきことをしっかりやって、努力を続けていれば必ず誰かが評価してくれて、よい方向性に導かれていくのだなと思った。

これらは料理人だけではなく、他の職業の人、一般的なサラリーマンにとっても学ぶべきことがとても多い。また特に僕のように明日の方向性も分からないときに、どうしようか?と道に迷っている人にとっては、何か方向性のヒントが得られ、元気な気持ちにもなれるし、何よりも著者のように身の引き締まる境地で明日からも仕事を頑張ろうと思える。

帝国ホテルで著者のフレンチ料理を食べてみたいと思わされるが、残念ながら10年ほど前に亡くなられているようだ。しかし、著者の料理の神髄を受け継いだシェフたちが今も働いているはずなので、いつか帝国ホテルでフレンチを食べたいと思う。

どのような職業の人であろうと本書を読んで何も学ぶこともなく感じることもない、ということはあり得ないほどに中身が濃く、そして著者のフレンチシェフの一生としての自伝としても面白くかつとても勉強になる良書だった。




読むべき人:
  • フレンチの料理人
  • フランス料理が大好きな人
  • 自分の仕事の方向性を見失っている人
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