March 13, 2016

村上春樹 雑文集

キーワード:
 村上春樹、雑文、小説家論、牡蠣フライ、物語
村上春樹のさまざまな種類の文章がまとめられた本。内容詳細は新潮社のページが一番わかりやすいので、そちらを参照。群像新人賞の受賞のあいさつから数年前話題になったエルサレム賞の『壁と卵』の全文、ジャズの話、しょうもないギャグ的なフィクション、翻訳について、にしん、アイロンのかけ方までいろいろ雑多な文章が1冊になっている。短い文章から割と長い文章まで。

以前図書館通いをしていたときに、これは借りて読もうと思っていたら昨年に文庫化されたので買った。特に村上春樹のエッセイなどはかなり好きな方なので、大体は読んでいる。すべてではないと思うけど。本書に収録されている文章は種類が多く、書かれている対象が多岐にわあり、全体像をまとめて紹介しようと思うとぼやけてしまうので、特に印象に残ったところだけを簡単に紹介しておこう。

その一つが一番最初の文章である『自己とは何か(あるいはおいしい牡蠣フライの食べ方)』について。これは小説家とは何か?というテーマに関しての文章となっている。細かい内容は省略するが、「自己とは何か?」について小説家は物語の形に置き換えていくことを日常の仕事にしているようだ。そしてあるとき読者から就職試験で『原稿用紙四枚以内で、自分自身について説明しなさい』という問題が出てしまい、自分自身を説明できなかった、村上さんはどうしますか?という質問が来た。

それについて以下のように回答している。一部抜粋。
自分自身について書くのは不可能であっても、たとえば牡蠣フライについて原稿用紙四枚以内で書くことは可能ですよね。だったら牡蠣フライについて書かれてみてはいかがでしょう。あなたが牡蠣フライについて書くことで、そこにはあなたと牡蠣フライとのあいだの相関関係や距離感が、自動的に表現されることになります。それはすなわち、突き詰めていけば、あなた自身について書くことでもあります。それが僕のいわゆる「牡蠣フライ理論」です。今度自分自身について書けと言われたら、ためしに牡蠣フライについて書いてみてください。
(pp.25)
別に牡蠣フライではなくてもメンチカツでも海老コロッケでもよくて、単に著者が牡蠣フライが好きだからのようだ。そしてそれは「牡蠣フライについて語る、故に僕はここにある」ということにつながるようだ。

奇しくも僕も牡蠣フライが大好物で、冬季はほぼ週1回ペースで牡蠣フライを食べている。そしてここを読んだ当時はまだ休職中で今後の方向性について模索していた時だったので、自己とは何か?と自問自答していた時でもあった。牡蠣フライについてぜひ書くべきだ、と催促されたような気がした。ということで、自分なりに牡蠣フライについて書いた。例え好物の牡蠣フライについて書くといっても、原稿用紙4枚以内に抑えて書くのはなかなか難しいものだと思った。雑記ブログに書く文章はたいていはそんなに推敲はしないのだが、この文章は日をまたいで推敲を重ねた。それだけ間接的に自分自身について書くことは、なかなか難しいということを体感した。

この牡蠣フライ理論の話の文章そのものは、ここだけを読むと漠然としすぎてよく分からないと思うけど(恣意的に取り上げているだけだし)、この本全体に通じる村上春樹の思考の核の片鱗を示すような重要な文章なので、ここだけのために本書を買って読む価値はある。もちろん牡蠣フライ好きな人ならなおさらだ。

雑多な文章が短いページ数で区切られているので、電車の中で読むのに割と適していた。もちろん、家でリラックスしながらジャズとかかけて、ソファにゆったりと座り、サイドテーブルにウィスキーを準備して読むのもいいと思う。僕はジャズもウイスキーもそんなに詳しくないけれど、まぁそんな雰囲気で。



村上春樹 雑文集 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社
2015-10-28

読むべき人:
  • 雑多な文書で気分転換したい人
  • 正しいアイロンのかけ方が知りたい人
  • 牡蠣フライが好きな人
Amazon.co.jpで『村上春樹』の作品を見る

bana1 牡蠣フライ理論クリック☆  にほんブログ村 本ブログへ



トラックバックURL

コメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価:  顔   星