May 21, 2016

ニッチを探して

キーワード:
 島田雅彦。ニッチ、ホームレス、サバイバル、正義
大都会サバイバル小説。以下のようなあらすじとなっている。
背任の疑いをかけられた大手銀行員・藤原道長は、妻と娘を置いて失踪した。人目を避けた所持金ゼロの逃亡は、ネットカフェから段ボールハウス、路上を巡り、道長は空腹と孤独を抱え、格差の底へと堕ちてゆく。一方、横領の真の首謀者たる銀行幹部たちは、事件の露見を怖れ、冷酷な刺客を放つ―。逆転の時は訪れるのか。東京の裏地図を舞台に巨額資金を巡る攻防戦の幕が開く!
(カバーの裏から抜粋)
書店でなんとなく手に取って、読んだことのない作家だったので読んでみたらなかなか面白かった。

主人公は妻子持ちで大手銀行のそれなりの地位にあるが、支店長の不正融資を告発し、自身にかけられている横領の疑惑から逃れるために妻子には告げずにひっそりと都会に身を隠していく。逃走資金を用意し、サバイバルグッズをそろえてから、都会でサバイバルする前に銀座の高級寿司店で腹ごしらえし、マンダリン・オリエンタル・ホテルに泊まり、添い寝嬢を手配し、日常からの決別の前夜祭のように楽しむ。

そして、次の日からは安いネットカフェに泊まったり、食費を削減するために試食コーナーを回ったり、ホームレスの炊き出しに並んだりする。公園のホームレスの長老的な存在に諭されてここを出たほうがいいと言われ、単身別のところに行き、野宿する生活までに落ちていく。大都会東京の中で警察や追手から逃れ、正義を執行する日が来るまで、自分のよりどころとなる『ニッチ』を探して。

なんだかこれを読んでいると、明日から安心して東京でホームレスになれるような気がしてくる。食事に困ったらどこの炊き出しに並ぶべきかや、図書館に行って食べられる野草を確認し、また料理本を眺めてフルコースを食べた気になる『空食』を実施し、スーパーで試食コーナーをスーツ姿で回り、ショッピングのカゴの中に残っていたキャベツの葉や畑にある大根を失敬したり、はては金に困ったときは中野のゲーセンにあるフィギュアをUFOキャッチャーで取ってまんだらけに売れば2000円になるとか(これは真偽不明だけど)、寝床の探し方(特に川の中州がニッチらしい)などなどがとても参考になる。

ある意味大都会でのサバイバル本のような、そんな感じでも読める。そしておやじ狩りとの闘い、追手との攻防もあったりで、読んでいてハラハラする展開もある(そこらへんは後半少しだけ)。ほとんどは主人公、藤原道長視点でのいかに大都会で他人にあまり頼らずに1人サバイバルしていくかに焦点があてられていて、自堕落に転落していったのではなく、自分の正義の意思で一時的にサバイバル生活をしているので、不思議と主人公に肩入れして読んでしまう。

そして文章がすんなりと頭に入ってきて、違和感もなくリズムがよく、大都会東京のところどころに変わる舞台の歴史的背景などの薀蓄もありで、読んでいて勉強になる。さすがにベテラン作家、そして小説指南書を書くだけはあるなぁと思って読んでいた。読みやすく面白く、割とさくっと読めると思う。

明日からいきなり路頭に迷ってしまったらどうしよう?という最悪のパターンを想像することはよくある。そうなったときも、まぁ、何とかなるんじゃないかというよく分からない安心感も得られた気がする。大都会でのホームレスサバイバル生活をシミュレーションできた。

あと本作品のテーマである『ニッチ』に関して、自分の『ニッチ』はどこだろう?と考えた。物理的な部分はあまりないかもしれない。ある意味このブログが電脳空間上の自分の『ニッチ』のような気がする、と思ったのであった。



ニッチを探して (新潮文庫)
島田 雅彦
新潮社
2015-12-23

読むべき人:
  • ホームレス生活を疑似体験したい人
  • 妻子ありで自分の正義を貫きたい人
  • 自分のニッチを探している人
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