書評総数(日付順)

May 14, 2017

その「エンジニア採用」が不幸を生む

キーワード:
 正道寺雅信、エンジニア、採用、評価、組織づくり
IT系エンジニアを効果的に採用するための仕組みが示されている本。概要と目次内容は以下の出版社の紹介ページを参照。去年の3月に転職し、Webサービス的な業務をやっているのだけど、十数人の部署内でITエンジニアは実質自分1人しかいない状況であったりする。当然一人でできることなどたかが知れているので、エンジニアを追加採用する必要がある。そこで、転職後の早い段階から部署内でどういうエンジニアが必要かを考えて、一次面接にも出て採用活動をしている。

しかし、この1年でそれなりに面接をしたが、結局誰も採用できておらず、依然として1人システムチームの状況である。はて、なぜ採れないのだろうか?もちろん、そもそもイケてるWebサービス的な企業ではないし、ITエンジニアが活躍できそうな業界でもないという部分はあるし、中小企業という企業規模でそこまで知名度があるわけでもない。なので、応募自体も少なく、まぁ、そんなに簡単に採れないだろうということは予想できていたし、実際その通りだった。

ごくまれによさそうな人材が転職エージェント経由で応募してくれるが、2次面接に行く前に他社に内定が決まって結局選考はスルーであったり、最近では上層部がもっともらしい理由をつけて本当にこの人は絶対必要だ!!という候補者を見送ったりということもあった(愚痴)。もはやすがるように、どうやったら理想的なエンジニアを採用できるのか!?を知りたくて読んで見た。

ある程度は予想できた内容だけど、改めて論理的に示されていると、なるほどなぁ、と思うと同時に、自分自身と自社の部署そのものあり方について、反省するところが多かったなと思った。そして、あまりにも納得できるところが多すぎて線を引きまくった。

本書の概要を恣意的にものすごく大雑把にまとめると、ものすごくできるA級クラスのエンジニアは、A級同士で働ける環境に魅力を感じ、そもそも転職エージェント経由で転職をすることはなく、SNSや勉強会、カンファレンスなどの自分自身の人脈を活かして人づてで転職先が決まる傾向がある。また、うまくそれなりによいエンジニアを採用できたとしても、その部署なり会社なりがITをコストとしてみなすのではなく、それなりの高給で待遇を保証し、エンジニアの志向性や生態?に対する理解があり、評価尺度、働く環境についてエンジニアを適切に受け入れる体制が必要だ、という内容である。

現状の採用方針を継続していけば、何年たってもエンジニアは採用できない可能性が高いし、採用できたとしてもあまり技術力が高くなく、それこそその採用自体がコストになってしまうな、と思った。プライベートでは絶賛婚活中だけど、採用活動はある意味婚活と同じだなと思った。一部の人気のある人以外は待ってても相手から来るが、そうではないので狩りに行かなくては!!と思った。

まず、個人的にやるべきことは、自分自身がA級クラスのエンジニアになること(そもそも何をもってA級といえるのか?はいろいろあると思うけど)。そのためには仕事でちゃんと実績を作り、技術ブログで情報発信し、カンファレンスや勉強会などに参加して人脈を築いておき、自分自身と一緒に働きたいと思えるような存在になること。そして、よさそうな人がいたら、転職エージェントに頼るのではなく、自分でスカウトしていくことだなと。

今年から技術ブログを始めたのだけど、更新停止している・・・。最近は毎朝5時台に起床してLaravelの技術勉強や技術書読み込みをやっているけど、もう少しアウトプットをしていかなければなと。一応自分の技術ブログは以下と。また、社内、部署内の組織もエンジニアを迎える体制を整えていかなければならないなと。自分自身だけではなく、部署、組織の上層部にもエンジニアの評価体制を提案していく必要があるし、ITそのものに対する理解を深める啓発もしていかなければならないなと。システム開発がどれだけ工数がかかり、すんなりうまくいかないということを理解してもらうのに本当に苦労する。

エンジニアに対する扱い方、考え方は以下の本と大体本質は同じだなと思って読んでいた。こっちは小説だけど、年功序列ではなく技術力があるエンジニアが高給を得るべきだし、ITが分からないものにエンジニアを正しく評価できるわけがないというようなことが書いてある。まさしくその通りなのだけど、それをどう実現していくかが課題である。

ITエンジニアの採用は難しい。もちろんほかの業種もいろんなことがネックになって難しいのだろうけど、ITエンジニアはそれなりに特殊な傾向があるのかもしれない。また、これから転職しようと考えている人も読めば参考になるところが多い。

本書を読んで、効果的なエンジニア採用ができればいいなと思う。まずは、本書を上司にも読んでもらおうと思う。




読むべき人:
  • エンジニアを切実に採用したい人
  • 転職しようと思っているエンジニアの人
  • できるエンジニアの生態を知りたい人
Amazon.co.jpで『正道寺 雅信』の他の本を見る

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May 05, 2017

上弦の月を喰べる獅子

上弦の月を喰べる獅子 上 (ハヤカワ文庫 JA ユ 1-5)上弦の月を喰べる獅子 下 (ハヤカワ文庫 JA ユ 1-6)

キーワード:
 夢枕獏、SF、螺旋、仏教、宇宙
夢枕獏の仏教SF小説。以下のようなあらすじとなっている。
あらゆるものを螺旋として捉え、それを集め求める螺旋蒐集家は、新宿のとあるビルに、現実には存在しない螺旋階段を幻視した。肺を病む岩手の詩人は、北上高地の斜面に、彼にしか見えない巨大なオウム貝の幻を見た。それぞれの螺旋にひきこまれたふたりは、混沌の中でおのれの修羅と対峙する……ベストセラー作家、夢枕獏が仏教の宇宙観をもとに進化と宇宙の謎を解き明かした空前絶後の物語。第10回日本SF大賞受賞作。
(カバーの裏から抜粋)
人は、幸福せになれるのですか? 野に咲く花は幸福せであろうか?――螺旋蒐集家と岩手の詩人、ふたつの孤独な魂から成る人間、アシュヴィンは、いくつもの問を胸に、果てしなく高い山を登りつづけていた。長い修羅の旅を経て、彼がその答にたどりついたとき、世界を驚嘆させるなにかが起きる……進化とは? 宇宙とは? 人間とは? 究極の問に対する答を破天荒な構成と筆致で描きあげた、これは、天についての物語である。
(カバーの裏から抜粋)
あらすじを補足すると、舞台は安保闘争が終わって、ベトナム戦争があったと思われる時代に、売れない戦場カメラマンであった螺旋蒐集家は、あらゆるものに螺旋を見出し、しまいには幻覚まで見えるようになってしまっている。あるとき新宿の高層ビルに奇妙な螺旋階段を発見し、それは設計図上あったが、現実には存在しない螺旋階段であった。そこに足を踏み入れて・・・。

時代は変わり、岩手のイーハトーブの詩人は病床に伏している妹を思いながら、出かけた先にアンモナイトの螺旋を発見し、そこに取り込まれていき・・・。

目覚めた世界で主人公はアシュヴィンとなり、蘇迷楼(スメール)という世界で海よりはい出て、そこからその世界の頂上を目指すことになる。そこで出会った人間や、足のある魚のような生き物、原人のような存在もあり、それらはみな頂上をめざす過程で人間になっていく。そこで出会う螺旋師から主人公の行き先を先導し、主人公を含め、そこに存在するすべてのものは『汝は何者であるか』と問い続けなくてはならない。

夢枕獏の作品は改行が多く、一文が短いのですらすら読める。そしてそれが仏教的な印象を強めている。作者のあとがき曰く、この作品は宇宙を文学作品、物語として表現したかったというようなことが示されていた。それを主人公が蘇迷楼の世界で様々な苦難に見舞われながら修行し、頂上を目指して悟りの境地に至ることで表されていた。

禅問答のような観念的な描写も多く、理解できたようなできなかったような部分もある。しかし、物語として、格闘シーンやサバイバルシーン、血みどろの描写もあり、主人公が次にどのようになっていくのかが気になる要素がちりばめられている。さらに、仏教的な精神世界が舞台であり、魚やカエル、トカゲのような生き物から人間になるまえの原人なども出てきて、やはりこれはSFでもあり、冒険小説的でもあった。

螺旋が一つのモチーフ的になっているので、あれだ、グレンラガンも螺旋だ!!と思って読んでいた。間違いなくこの作品に影響を受けたのだろうと思った。螺旋力、螺旋王なども出てくるし、物語的にも螺旋的な構造を持っていたのが似ているし。Wikipediaを見ると関連作品に示されていた。グレンラガンはまだ、Amazonプライムで20話までしか見てないけど、合わせて鑑賞推奨だ。GW中に読み始めて割と夢中になって読めた。その間はずっと夢を見ているような不思議な読書体験だった。





読むべき人:
  • サバイバル小説を読みたい人
  • 仏教的宇宙観を体験したい人
  • 螺旋に引き寄せられている人
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April 16, 2017

レッドビーシュリンプの憂鬱

キーワード:
 リーベルG、IT小説、エンジニア、評価、改革
IT小説。以下のようなあらすじとなっている。
業績不振のWebシステム開発部に突然コンサルの男――ソフトウェア・エンジニア労働環境向上推進協会、通称「イニシアティブ」の代表を名乗る五十嵐――が現れる。五十嵐が実行する思い切った改革に、若手エンジニアは賛同し成果を出す一方、ベテランエンジニアたちは反発し、五十嵐と対立していく。チームリーダーに抜擢された女性エンジニア箕輪レイコは、板挟みの立場になりながらも問題を解決しようと奮闘するが……。

エンジニアを通してビジネスパーソンとしての働き方や組織の在り方について問題提起する、異色のIT小説。
(Amazonの内容紹介から抜粋)
この本はいろいろと現状のIT業界、エンジニアの処遇に対する問題を提起しているのが主なテーマとなる。それは、エンジニアの技術力がないのに年功序列で評価され、実装技術よりも要件定義や仕様調整、プロマネ的なものばかりが評価されるプログラマーの上位職としてSEが存在することを是正し、年齢に関係なくプログラミング、実装技術を持つものが正当に評価されてそれに見合った報酬を得るべきだ、というものである。

中堅SI企業を舞台に、イニシアティブという外部コンサルタントがやってきてからいろいろと変化が起き始める。良い点は若手エンジニアが新技術、新プロジェクト、Web系サービスに対して意欲をもって働き始めたこと。よくない点は、これまで技術に対する研鑽を怠っていた古株メンバーがリストラ候補に挙がってしまって軋轢を生んだこと。一見エンジニアが正当に評価される制度を取り入れていけば、何もかもがうまくいくようには思えるが、古株メンバーは家庭もあり、新技術のキャッチアップする体力も意欲もなくなっていくので、まぁ、そうかもしれないなと思うのだけどね。

小説としてはそこまで面白いものではないけど、IT業界、特にSI業界ではあるある!!という部分がいろいろとちりばめられていて、線を引きつつ共感しながら読んでいた。たしかにイニシアティブのコンサル、五十嵐のIT業界を変えたいという理念は納得だな、と思う。その反面、自分自身がそのような技術力だけで評価されるところで、生き残れるだろうか?と自問自答せざるを得ない。僕はどっちのエンジニアだろうか?と。もちろん、技術力を高めてそれで評価されたいと思う。それを少なからず望んでSI的なところから転職したのだし。

一点だけITエンジニアを正当に評価すべきという主張に対して本書で抜けている視点、あまり言及されていないものがあって、それは『人月』に対する考え。現状のIT業界の工数見積もり、エンジニアの単価は役職ベースの人月稼働時間で算出されており、それが結局システムの値段、エンジニアの評価となっている。その人月ビジネスを根本から変えないと正当な技術力評価はできないのではないかと思う。

しかし、人月は発注側にも受注側にも便利な尺度であり、人月意外に代替でき納得のいく評価尺度がいまだにないのだから、どうにもならないのかもしれない。ソフトウェアそのものが不可視であり、バグがなく完全なものを作ることはほぼ不可能だし、エンジニアの技術力によって生産性が10倍くらい違ったりするから。

本書はITエンジニアが読めば共感するところはたくさんあるので読んだほうが良い。やはりSI的な評価尺度、正しく自分の技術力で評価されていないのは納得がいかないと思う人は、本書を読んで思い切って転職をするのもいい。また本当はこれはエンジニアを評価する上長的な立場の人もぜひ読んでおくべきだ。正当な評価ができないと、本当にできるエンジニアはその組織で長く働き続けることはないだろうし。

IT小説といっても難しい技術的な話はそこまで出てこない。もちろんIT用語、技術用語がところどこに出てくるが、注釈が載っている。重要なのは些末な技術用語よりも、本書で提起されている問題の本質を把握することだ。

読めばいろいろと考えさせられるIT小説だった。読了後の後味は若干苦いけど、良書の部類。




読むべき人:
  • ITエンジニアの人
  • ITエンジニアを評価する立場の人
  • 正当な技術力で評価されたい人
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January 29, 2017

Laravel リファレンス[Ver.5.1 LTS 対応]

キーワード:
 新原雅司、Laravel、PHP、フレームワーク、リファレンス
PHPのフレームワークのLarvelについての本。本の目次等は出版社のページ参照。仕事でLaravelを使ったWebアプリケーションを作ることになって、読んで見た。あまりほかに日本語書籍がないので、これが一番ボリュームがあってよくまとまってはいると思う。

しかし、とてもわかりにくい書籍だと思った。そもそも自分がそこまで現状バージョンのPHPと他のフレームワークに精通しているわけではなかったので、基本的なところが理解できていないと読み通すのがしんどい感じがする。できれば本書の対象読者、前提知識がどういうものが必要かは示しておいてほしいと思った。

あとはリファレンスという形式でもあるので、わかりやすく説明しようという意図はほとんどない。何よりも図解がないので、Laravelの全体像がよくわからない。特に最初はComposerとLaravelの関係が地味にわかりにくいし、Laravelでインストール時に作成されるディレクトリ群とそれらがどのような動きをするのかが分かりにくい。さらにもっといえば、サンプルコードが書籍内に載っており、GitHubからcloneしてサンプルを実際に見ることができるが、書籍内でそのコードのパスが示されていないところがあって、うーん、となった。

あとは日本語説明がそっけなさ過ぎるし、ところどころ間違いがあるし(正誤表もあるが、それも完全ではなさそう)とにかく全部読み進めるのがかなり大変な技術書であった。本当にわかりやすい技術書は適度に図解があって、さくさくと読み進められるが。リファレンスなので、随時該当箇所を調べながら使うのが良いか。といっても、この本の初版は2015年で、PHPのバージョンも56までしかカバーしていないし、Laravelも5.2までしか対応していないので、若干内容が古くなっているところがある。

特に自分のような初心者にとってこの本から学習をするのはおすすめしないかな。以下で学習するのがいいかもしれない。ある程度学習が進んでから本書を読むと割とすんなり理解できるかもしれない。

なんとか1月中に初回更新ができてよかった。今年も冊数はあまりこなせない可能性が高い。ちなみに27日誕生日で33歳になって、そこで技術ブログをはてなで始めることにした。こっちもよろしく!!




読むべき人:
  • Laravelについて調べたい人
  • PHPをある程度理解している人
  • Laravelのまとまったサンプルコードを見たい人
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December 28, 2016

この世界の片隅に

キーワード:
 こうの史代、日常生活、ご飯、人間関係、普通
このエントリも漫画と映画両方をまとめた内容となる。映画の予告を見たときは、なんだか古臭い感じの映画だなと思ってスルーする気だったけど、facebook上で見た人の感想が絶賛に近いものだったので、見ないわけにはいかないと思って、初回は予備知識なしで見に行った。

映画はとてもよかったなと純粋に感じだ。戦時中の何でもない呉市で生きる人たちの日常風景がとてもいとおしく思えた。また配給制なので食料もまともにない中で工夫して食事を食べていき、終戦後に食べる普通の白いご飯がとてもおいしそうだった。そして、終わったあと、新宿の寒空を歩きながら一人で見に行ったことにとても寂寥の気持ちで満たされてしまった。つなぐもう一つの手がないと。

映画を見たときには、どうしても完全に理解できていないことがあった。ストーリーとしては冒頭のもののけ?の存在や座敷童がいる!?というようなところとか、呉市の方言が微妙にわかりにくかったり、「吊床」や「モガ」といった言葉の意味することが何なのか正確にはわかっていなかった。

漫画も絶賛されているので、読む必要があると思って読んで見た。そしたら映画だけではわかりにくかった部分がちゃんと描写されていて、ようやく全容を把握できたと思った。と同時に、映画と漫画で受ける印象が少し違ったと思った。

映画は原作の作画にかなり忠実に映像化されており、またのん氏の声もよく合っており、日常生活、特に『ご飯』がキーワードのように思えた。しかし、漫画のほうを読んで見ると、終戦後に食べる白米のシーンはなく、また映画にはカットされていた周作と白木リンとのエピソードがあり、すずさんが嫁に行った家族、周作、水原哲たちの間で揺れ動く『人間関係』が描写されている気がした。

また、初回の映画を見たときに水原哲が一時入湯上陸に周作の家に来た時に語っていた『すず、お前だけはこの世界で普通でいてくれ』というようなセリフには特に何も感じずに、わざわざ周作家にやってきて邪魔な奴だなぁと思っていたけど、再度映画を見たときはここはとても重いセリフだなぁと感じた。戦地に赴いて殺し合いをすることになり、常に死と隣り合わせの水原哲にとってのすずの何でもない『普通』が救いだったのだなと感じた。

漫画は特にセリフのないコマの使い方がとてもよい。昔サザエさんの原作を読んだことがあるのだけど、その雰囲気にとても似ている。語らずともコマだけで伝わる部分もあるし、微妙な間があって情緒豊かに感じる。そういうのがとてもよい作品で、ゆっくりと読みながら心地よい時間が流れる。

結局、初回予備知識なしで映画鑑賞 ⇒ 漫画を買って読了 ⇒ 2回目の映画を見るというプロセスを経て、『この世界の片隅に』を本質的に鑑賞できた。2回も見たのは今年は『シン・ゴジラ』くらいだ。そして2回目があった大きな理由は、2人で見に行ったからだった。見終わった後、手はつなげなかったけど、居酒屋でご飯を食べに行った。

作品そのものは絶賛されているだけはあったなと思った。日常生活がとてもいとおしく思えて、こういうなんでもない生活ができることが人生で大切なこと、優先すべきことなんじゃないかとも思った。

イベント補整も少なからずあるけど、この作品はきっと思い出に残るものになるはず。




読むべき人:
  • ご飯が楽しみで生きている人
  • 日常生活を大切にしたい人
  • 幸せな気分に浸りたい人
Amazon.co.jpで『こうの史代』の他の作品を見る

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December 23, 2016

聲の形

キーワード:
 大今良時、障害、贖罪、青春、コミュニケーション
聴覚障害を持つ少女、西宮硝子とその子をいじめていた石田将也の関係性が描かれている作品。漫画は漫画喫茶で読んでいて、そして9月ごろに京アニで映画化されたので見てきて、そしてやはり原作も買ってもう一度読むべきだと思って読んだ。このエントリは漫画単独というわけでもなく、映画も含めた作品評、感想となる。

まず、映画については、これは本当にすごかったというか、いろんな感情を喚起させられて、感動してボロ泣きしてしまうほどの作品だった。映画はそれなりに多く見ているけど、そこまでになるようなものは本当に300本ほど見て1つあるかどうかなのだけど、これはその1作だった。

京アニによって本当に綺麗に映像化されているなぁと思ったし(まぁ、美化されすぎという側面もあるし、客観的にいじめていた人間に好意を抱くことができるのか?と思ったりもするのだけど)、aikoのエンディングテーマ曲もよかったし、漫画原作7巻を130分ほどによくまとめたなぁと感嘆した。必要なシーン、そぎ落とすシーンをうまく取捨選択し、映画だけで完結して映画独自のテーマを提示していたように思える。

ボロ泣きしたのは、もちろんこの作品特有の泣かせようという意図があるという要因も大きい。特にそれは西宮硝子の境遇に対する同情心のようなもので、漫画と同じく独特の魅せる表情で泣かれていると、こっちまでつられて泣いてしまう。しかし、どうしてもボロ泣きした理由がそれだけでは説明できない部分があった。

感動して泣いた理由の内訳は大体以下のようなものだと思う。
  • 辛い、痛々しい、憐憫のような感情・・・5割
  • 結末に対するよかったねというさわやかな気持ち・・・3割
  • 自分でもよくわからない心の内奥をかき乱される気持ち・・・2割
やはり感動といってもいじめのシーンは漫画よりも見ていて辛いものがあるし、半分くらいはそんな気持ちであって、結末は石田が最後にみんなと和解して学園祭を回って、よかったねで終われる。でもそれだけでは普通は泣いたりはしない。もっと描写的には辛い実写映画とか、さわやかに終わる映画を見たりしているが、泣くほどではない。最後の2割はいったい何だったんだろうか?というのが見終わってからもいまいち確信が持てなかった。

そういうのもあって、漫画を速攻で買って読み返した。そしたらそれはコミュニケーション不全を起こしていた主人公たちに自分のことのように感情移入していたんじゃないか?となんとなくわかってきた。それは、伝えたくても伝えられない感情があって、それが心のうちに渦巻いており、そしてそれをどう表現していいかわからない、伝える手段がなくて苦悩して、自分の精神がずっと牢獄に捕らわれて外に出れないようなもので。それがこの作品で聴覚障害と手話、いじめなどによって表現されている、コミュニケーションをテーマとした作品なんだとなんとなく思っていた。

そして、映画公開後に発売された著者インタビューなどが載っている公式ハンドブックを読んで見ると、まさにその通りだった。その部分をほんの少しだけ引用する。
「人と人とが互いに気持ちを伝えることの難しさ」を描こうとした作品です。
(公式ハンドブック pp.170)
なので、『聲の形』というタイトルでかつコミュニケーションがテーマとなっていると語られていた。この部分を読んで、やっといろいろなことが腑に落ちたと思った。自分のこの作品への感じ方は間違っていなかったのだなと安心した(もちろん、作者の意図通りに受け取ることだけが絶対的に正しいということではないし、いろいろな感じ方、受け取り方があってよい)。

おそらく普通の人よりもそれなりに多く映画を見ているけど、これほどに感情を動かされた映画は稀有だなと思った。なので、今年は他にもいろいろな邦画の当たり年であったけど、この作品が今年一番の映画である。

さて、次は漫画について。漫画はやはりいじめのシーンがしんどいというのはあると思う(でも改めて漫画、映画両方見てみると映画のほうがしんどい描写のように思えた)。しかし、いじめそのものは小学生の頃の回想として入っており、1巻がメインで終わる。2巻以降は主に高校3年生になった石田と西宮たちの人間関係の軋轢と修復で進む。なので、1巻を読み終えられたらきっと最後まで読み終えることはできるはずだ。

この漫画が特にスゴいと感じている部分は主に2つある。
  1. 絵柄というか、キャラの表情の描写
  2. 主要キャラのほぼ全員に共感と嫌悪感を抱かせられること
もちろん、いじめや手話、贖罪、青春の物語の側面からもいろいろと示すことができるのだけど、特にこの作品に対して秀逸だなと思ったのはこの2点だ。

まずキャラの表情については、これは作者の前作(原作は冲方丁氏だけど)の『マルドゥック・スクランブル』の主人公、ルーン・バロットの喜怒哀楽がとても豊かに描写されていてよいと感じていた。『聲の形』では、画力が向上しており、よりキャラの表情に磨きがかかっているなと思った。特に声を発することができない西宮の戸惑っている表情、辛そうな泣き顔、照れている顔、嬉しそうな笑顔など、セリフのないコマでとても引き付けられる。個人的にはセリフのないコマが効果的にかつキャラの表情を魅せられることが漫画の良作の基準だと思っている。これが本当に同情心を誘ったり、本能的に感情移入してしまう。ちなみに他の漫画作品で特にキャラの表情がよいなと思うのは『ヴィンランド・サガ』。

そして、次は主要キャラの共感と嫌悪について。これはこれでまたよくキャラを描いているなと思う。石田そのものは小学生時代にいじめていた部分にたいしてひどい奴だという嫌悪と同時に、高校3年生になったときの贖罪の気持ちと、学校で他人が×に見える部分とかに共感した。西宮に対しては、一見憐憫の情だけが占めているようでもあるけど、よく冷静になってみると、意外に意地っ張りで思い込みが激しく植野が指摘するような部分に同族嫌悪のようなものを感じさせられる。

さらには植野のように西宮に対して敵愾心を抱いているところは表面的にはとても嫌な女だなと思ってしまうけど、時折石田に対するかなわない気持ち、切ない表情を見せたりするところにあぁ、わかると共感してしまう。あとは特に西宮の母親の立場も、硝子に対して強く当たりすぎだろと思うけど、父親がいなくなる背景や親としての立場上、そうなってしまうのもわかる、と思えるし。さらには川井は、当事者意識がなく他人事で自分がかわいいと思っている感じで、地味に嫌なタイプだなぁと思うし(作者的には作っているのではなく常時素であるらしい)、かといってそう保身になってしまうのもわかる、と思うし。

石田と西宮をとりまく群像劇で、そのキャラたちの表情や行動それぞれに感情移入や嫌悪を抱かされて、著者自身の何気ない日常生活でよく観察されているのだなとも思った。

映画だけ、漫画だけ鑑賞しても本質的なことはなかなかわかりにくいというのはあると思う。また、いじめや聴覚障害というところで受け入れられる、好き嫌いがはっきり分かれる作品でもあるので、万人受けするものでもないし、絶対見ろとも言い切れないところがある。

なので、できれば、もしこの作品を鑑賞するのなら、映画を見て、漫画もすべて読み、さらに公式ハンドブックまでぜひ読むべきだと思う。公式ハンドブックは著者インタビューやキャラの裏設定やあのシーンはこういう意図があったといったことが示されているので、ある意味作品解釈に対する模範解答的なものになってしまう。それでも、よりこの作品を深く理解するには、作者の意図をくみ取ったほうがよりよいと思った。



この作品を通して自分自身の抱えていたわだかまりが消化(昇華)されたような、そんな感じがした。別にいじめ当事者であったり、聴覚障害があるわけではないから、そういう観点からの共感はそこまでないのだけどね。そして、主人公たちと同じような高校3年生くらいのときに読みたかったと思った。そしたら、もっと違う高校生活を送れていたのかもしれない。

ということで、映画と漫画、両方含めて、『聲の形』はかなりの良作だ。




読むべき人:
  • 高校生くらいの人
  • 贖罪の気持ちがある人
  • コミュニケーション不全を起こしている人
Amazon.co.jpで『大今良時』の他の作品を見る

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October 02, 2016

ザ・プラットフォーム

キーワード:
 尾原和啓、プラットフォーム、共通価値、B to B To C、リクルート
IT企業のプラットフォームビジネスについて解説されている本。以下のような目次となっている。
  1. 第一章 プラットフォームとは何か?
  2. 第二章 プラットフォームの「共有価値観」
  3. 第三章 プラットフォームは世界の何を変えるのか?
  4. 第四章 プラットフォームは悪なのか?
  5. 第五章 日本型プラットフォームの可能性
  6. 第六章 コミュニケーション消費とは何か?
  7. 第七章 人を幸せにするプラットフォーム
(目次から抜粋)
著者はマッキンゼー、NTTドコモでiモード立ち上げ、リクルート、Google、楽天と数々の企業を渡り歩いてきており、そこでプラットフォームビジネスを体感してきている。著者の定義によれば、プラットフォームは、ある財やサービスの利用者が増加すると、その利便性や効用が増加する「ネットワーク外部性」が働くインターネットサービスと示されている。

その具体例が大多数の人が使っている、Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft、Twitter、Yahoo!などのグローバルIT企業となる。そして、著者がIT系プラットフォームビジネスに注目する理由は、社会や我々の生活を大きく変える可能性があるからとある。ここは先ほど挙げた企業を使い始める前と後について少し考えれば難しいことではない。

本書の前半戦はAirB&BやUberなどのグローバル企業を具体例に挙げてプラットフォームビジネスの本質について示されているが、改めて解説されてみるとまぁそうだよねと思う反面、特に新たな知見が得られるわけではないかな。しかし、後半戦は著者のキャリアの経歴がないと説明できない部分が示されていて、そこは特に参考になった。

特に5章の『日本型プラットフォームの可能性』の章は、日本型プラットフォームビジネスはゼクシィなどのリクルート系のビジネスを例にB to B to Cに独自のポテンシャルがあると示されている。B to B to Cは参加する企業と顧客の間に立ち、取引を円滑に行うことを手助けするためのモデルと示されている。

リクルートの最大の強みが「配電盤モデル」として示されており、特に参考になった部分を引用しておく。
プラットフォームが拡大するために最も重要なのは第二章でも書いたとおり、「収穫逓増の法則」がうまくまわることです。図で説明するならば、ユーザーが増えれば増えるほど、サプライヤーが増え、またユーザーも増え……というように、企業(B)と顧客(C)の両方を同時に相手にする「B to B to C」というモデルは、ループすることでより加速します。
 さらにこの基本ループの上に、「幅」と「質」のループが合わさることで、「配電盤モデル」はさらに加速し、プラットフォームは拡大を続けて、「さらにもうかり続ける」のです。
(pp.143-144)
リクルート系の先行ビジネスを研究すればプラットフォームビジネスのヒントがたくさんありそうだなと思ったので、ここら辺を気に留めておこうと思う。まぁ、ビジネスモデルはよくてもリクルートのサービスそのものは一利用者からしてみてどうよ?と思うものは無きにしも非ずなのだけど。

特に日本型のプラットフォームのビジネス事例について知りたい場合には、本書は有益と思われる。




読むべき人:
  • プラットフォームビジネスに関心がある人
  • リクルート系の強みを知りたい人
  • 起業してガッツり儲けたい人
Amazon.co.jpで『プラットフォーム』の他の本を見る

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September 22, 2016

遺失物管理所

キーワード:
 ジークフリート・レンツ、遺失物、鉄道、暴走族、仕事
ドイツの小説。以下のようなあらすじとなっている。
婚約指輪を列車のなかに忘れた若い女性があれば、大道芸に使うナイフを忘れた旅芸人がいる。入れ歯が、僧服が、そして現金を縫い込まれた不審な人形が見つかる。舞台は北ドイツの大きな駅の遺失物管理所。巨匠レンツが、温かく繊細な筆致で数々の人間ドラマを描き出す、待望の新作長篇。
(カバーのそでから抜粋)
主人公は24歳の青年で、ドイツの鉄道会社の末端の部署、遺失物管理所に新たに配属になった。そこでは列車内で忘れられた遺失物が届けられ、管理されている。遺失物管理所の棚には無数の傘やスーツケース、人形、僧服、入歯まで様々なものが管理されている。主人公ヘンリーはどこか空気が読めない言動をしがちだったりで、同僚の既婚女性に好意を抱きつつも、訪れる遺失物管理所の人たちとのやり取りで少し普通とは違う対応をしてしまう。

例えば、大道芸人が小道具を忘れてそれを引き取りに来たときは、持ち主であることを証明してもらうために自分を的にして投げナイフをやらせてみたり、スーツケースの落とし主の荷物の中身をチェックし、そこにあった履歴書からその人物が若くして博士を取得していることに関心を持ち、持ち主のところに届けに行ったりする。その博士はロシアの地方の村からやってきたパシキュール人で、その人物との交流が始まったりする。

特に際立った物語の起伏があるわけでもなく、事件らしい事件もない。取得物から大きなドラマが始まるでもなく、どちらかというとあまり出世欲がなく、ここで定年を迎えられたらいいなと考えている主人公とその姉バーバラや交流のある博士、同僚とのやり取りがほとんどである。主人公があまり空気を読まないような感じで若干違和感があり、最初は変な奴だと思うけど、正義感や友情を大切にする人物として描写されていて後半は好人物のように思えた。

物を落としたりどこかに忘れてきたということはほとんどないので、実際の遺失物管理所がどういうところなのかはわからない。しかし、社会の末端のような職場のお話しなのだけど、そこに集められる遺失物が読む人にとっての何か暗喩のようなものを感じられるかもしれない。

割と時間的にも精神的にも余裕がないとあまり読めないかもしれない。読んでいて若干眠気を誘うし、お話としてはとりわけ面白いわけでもないし。それでも不思議と最後まで読めた。



遺失物管理所 (新潮クレスト・ブックス)
ジークフリート・レンツ
新潮社
2005-01-26

読むべき人:
  • 遺失物管理所に行ったことがある人
  • 出世欲がない若い人
  • 忘れ物がある人
Amazon.co.jpで『ジークフリート・レンツ』の他の作品を見る

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September 11, 2016

Amazon Web Servicesではじめる新米プログラマのためのクラウド超入門

キーワード:
 WINGSプロジェクト/阿佐 志保、AWS、クラウド、基本、入門
AWSの基本的なことが解説されている本。目次は長いので翔泳社のページを参照と。仕事で自社のデータンセンターで運用しているWebサービスをクラウドに移行しようということになって、クラウドってなんぞ?というところから始まって、まずは以下の本を読んだ。この本はどちらかというと移行前に考えることを詳細に示された本だった。AWSの全体像と概要を理解したので、次は実際の使い方とWebサービスの構築方法が知りたいと思って、書店のAWSコーナーを見ると、これが一番初心者向けで分かりやすいと思って買って読んだ。

『新米プログラマのための』とタイトルにあるが、別に新米プログラマが対象でなくても読むべき内容で、とても分かりやすくAWSの基本的なことが示されている。各サービスの概要、そもそものインターネットやネットワーク、IPアドレスの仕組みなども示されている。また、各サービスの構築手順がキャプチャつきで示されているので、この本を読みながら一通り試しながら学習できる。

WebサービスはEC2インスタンスがAmazon Linuxで、そこにApacth Tomcatを設定し、RDSにMySQLを組み合わせてJavaで作るものを想定されている。Javaを使う人にはそのまま参考になると思われる。また、仮想化環境でアプリを管理、実行するためのオープンソースのプラットフォームのDockerについて、インストール方法から示されている。

自社のWebサービスはWindows Serverを使っているので、MS系の技術は本書には書いてなく、そこはあまり参考になるところがなかった。例えば、RDSにSQL Serverはあるが、EC2のWindows ServerインスタンスにもSQL Serverが標準搭載になっているものがあるので、初心者にはどっちを使うべきなのかとか、そもそも両方の選択肢があることなどは分からなかったりする。

AWSでWindows系のシステム構成になっている本があまりないので、そういうのが個人的にほしいなと思った。まぁ、そもそもAWSじゃなくて、Azure使えばいいじゃないかという気もするのだけどね。

とはいっても、AWSの基礎的なことが分かって重宝した。他のAWS本はぶ厚すぎたりある程度基礎が分かっている人向けだったりするので。本書を読めば最低限のAWSのシステム構築方法が分かるはず。あとは、地道にAWSのWeb上のドキュメントを読んで、お試し環境で試行錯誤していくのが理解の早道と思われる。




読むべき人:
  • AWSの基礎が知りたい人
  • JavaでAWSを使う必要がある人
  • Dockerも考慮したい人
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September 03, 2016

逃亡のSAS特務員

キーワード:
 クリス・ライアン、SAS、特殊部隊、アルカイダ、停電
特殊部隊ものの冒険アクション小説。以下のようなあらすじとなっている。
SAS隊員ジョシュ・ハーディングは、アリゾナの砂漠で銃弾を受け、意識を失って倒れていた。そばには射殺された少年が横たわっていた。ジョシュは美しい女性ケイトに助けられる。が、彼の記憶はすべて失われていた。しかも追跡者が次々と迫ってくる。折りしも世界の大都市で大規模な停電が続発していた。追っ手と闘いながら徐々に記憶を取り戻していく彼は、やがて驚くべき真相を知る!謎に満ちた会心の冒険アクション。
(カバーの裏から抜粋)
主人公はイギリスのSAS所属の兵士で、アルカイダの重要指名手配犯暗殺の任務を負っていた。しかし、上司の命令によりアルカイダの指名手配犯の狙撃に失敗してしまう。そのあと舞台は変わり、アリゾナの砂漠で首と足を撃たれたて記憶が飛んでいる状態で目が覚めて、世界ではテロ犯によると思われる停電が起きていた!!という状況。

ハリウッドアクション的で割と疾走感のある内容。アリゾナ砂漠を激走するバイクとマスタングのカーチェイスあり、ヘリで追撃されるシーンもあり、荒野のカウボーイのように撃ち合うシーンもあり、手製の釘入り火炎瓶の爆発もありでページがすらすらと進む。

拷問シーンがあって、結構えぐいというか、残虐ではないけど、リアルだなと思った。殴る蹴るは序の口で電気攻め、毒蛇にかませる、ナイフで刺すなど痛々しい。主人公はSASの兵士ということもあり、拷問に耐えるための講義を事前に受けていて、その説明があった。一部抜粋。
五つの数えを、頭に叩き込んでおく。まず、”精神的な根城”を持たなければならない。絶望し、暗い気持ちになるのを避けることはできない。そういうときに逃げ込む心のなかの隠れ家だ。つぎに、”集中できる言葉”を持つ。お祈りでも詩でもいい。一日を切り抜けるためにすがりつくものが必要だ。痛みに耐えるには、見えないものを心のなかで映像化する”視覚化”を用いる。たとえば、痛みをどこかに蹴とばしてしまえるサッカーのボールに見立てる。ありとあらゆる妄想や想像力を駆使し、逃避できるような幻想の世界を創りあげる。また”魔法の箱”も作らないといけない。自分の心以外の場所に、恐怖、不安、苦痛をしまいこんでしまうのだ。
(pp.281)
まるで著者がこの講義を受けたような感じでもある。このリアルさは著者自身がSAS隊員だったことによる。冒険小説の主人公並みの経歴だなと思う。

あと、拷問講義の講師のよって最後に重要な言葉が示されている。それも引用。
「自分が生きる目的や理由を持たなければならない。それがなかったら、痛みに耐え抜くことはできない。」
(pp.282)
拷問ではなくとも、普通の生活でもしんどい状況に陥ることがある。その時はこの言葉を思い出そう。

特殊部隊ものが割と好きで映画とかもよく見ている。小説はあまり読んでなかったので、読んでみると楽しめた。また、特殊部隊ものを読むと、自分も強くなったような妄想とともにモチベーションが少しだけ上がる気がする。



逃亡のSAS特務員 (ハヤカワ文庫NV)
クリス ライアン
早川書房
2006-12

読むべき人:
  • 特殊部隊ものが好きな人
  • ハッキングものが好きな人
  • 拷問に耐え抜く知恵が必要な人
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August 20, 2016

WORLD WAR Z

WORLD WAR Z〈上〉 (文春文庫)WORLD WAR Z〈下〉 (文春文庫)

キーワード:
 マックス・ブルックス、ゾンビ、戦争、政治、群像劇
映画にもなった原作小説。以下のようなあらすじとなっている。
中国で発生した謎の疫病―それが発端だった。急死したのちに凶暴化して甦る患者たち。中央アジア、ブラジル、南ア…疫病は急速に拡がり、ついにアウトブレイクする。アメリカ、ロシア、日本…世界を覆いつくす死者の軍勢に、人類はいかに立ち向かうのか。未曾有のスケールのパニック・スペクタクル。大作映画化。
(上巻のカバーの裏から抜粋)
死者の大軍を前にアメリカ軍は大敗北を喫し、インド=パキスタン国境は炎上、日本は狭い国土からの脱出を決めた。兵士、政治家、主婦、オタク、潜水艦乗り、スパイ…戦場と化した陸で、海で、人々はそれぞれに勇気を振り絞り、この危機に立ち向かう。「世界Z大戦」と呼ばれる人類史上最大の戦い。本書はその記録である。
(下巻のカバーの裏から抜粋)
ときどき、1か月周期ごとにゾンビに追われるような夢を見る。ゾンビそのものはそこまでリアルではないのだけど、ゾンビらしき人間ではない何かに追われて不安になってうなされる夢。何かにとりつかれているように。そんな体質?なのだから、ゾンビ物にはどこか惹かれるものがある。

最初のゾンビの出会いは何だったろうか?小学校低学年ごろに見た『バタリアン』だったろうか?それからいろいろとゾンビ物映画を見たり、ゲーム(といっても『バイオハザード』は初期1,2だけだったり、最近だと『The Last Of Us Remasterd』)し、最近の漫画なら『アイ・アム・ヒーロー』を読んだり、アメリカドラマの『ウォーキングデッド』シリーズにドはまりしているという状況。しかし、ふと振り返ってみると、ゾンビ物の小説は読んだことがなかった。

以前2chのまとめスレか何かで映画化されたこの原作本がよいという情報を得ていたし、たまたま図書館で発見したので、借りて読んだ。

Amazonのレビューで『問題は、「麦茶だと思って飲んだらウイスキーだった」という違和感にある。』と評されているが、まさにそんな感じだった。特定の主人公はおらず、ゾンビパニックものの定番である、ホームセンターでの籠城もなく、なめた行動をとったヤンキー的な奴が速攻で食われるという感じでもなくw、お色気担当的な女性キャラも出てこない。

ネタバレではないけれど、これは人類が遭遇した『世界ゾンビ大戦』で生き残った人たちのインタビュー集という形をとっている。様々な国の様々な立場の人たちが、ゾンビパニックの終結間近で過去の惨状を振り返り、自分たちがその時どういう状況にあって、どのように行動し、生き残ってきて、大戦を振り返って何を思っているか?という内容である。

様々な登場人物として、最初に中国の地図にも載ってないような山奥でおそらく最初のゾンビ感染者を診た医者であったり、ブラジルの心臓移植手術の外科医が感染の瞬間を目撃したり(中国からの合法、違法な臓器移植で世界中に感染が広がる!!)、アメリカの女性空軍パイロットが掃討作戦時に飛行機墜落後に無事にパラシュートで脱出後のサバイバルであったり、京都の引きこもりコンピュータオタク少年が命からがらマンションのベランダ伝いに脱出したり、全面戦争時の軍隊所属の兵士だったり、CIAの長官的な立場の人だったり、ゾンビ大戦に人々を勇気づけるために映画を撮っていたアメリカの青年などなどが出てくる。また、北朝鮮が独裁国家で常に管理体制があったのでゾンビパニックに意外に対応できてたとかいろいろな各国の特性を活かした逸話がさも本当にあったかのように語られている。

やはり本作品は単純なゾンビパニックものという感じではない。国家が崩壊していく様子があったり、パニック下の国同士の利害関係が描かれていたり、各国がゾンビパニックにどう対処していくか、そしてゾンビと相対していった各個人たちはどうなっていくのか?(精神的に壊れて肉体的には感染していないが突如ゾンビのようにふるまう人や、軍人たちが突如自殺に走ったり)などがそれぞれの個人を通して軍事、政治的、群像劇的、有機的に描かれている。本質的なテーマはゾンビよりもタイトル通り『戦争』がぴったりな気がする。ただし、敵は不眠不休で痛みも疲労も知らず、ただ捕食しようと跋扈している不死の奴らというのが大きな違いだが。

そしてよくここまで有機的、網羅的にかつリアルに感じさせる世界情勢を描いているなと思う。京都が舞台の日本のインタビュー者の様子などもよく日本の特性を調べているなと思わされる(ダウンタウンの二人の名前が出てくる)し、他の国の人たちもリアルな感じがする。いろんな人に本当にインタビューしたのではないかと思わせられる。そしてそれぞれの個人が割とどこにでもいるような人でもあったりして、身近に感じる。

いろんな切り口から語れる本だと思う。インタビュー的な口語体なので、スピード感をつけて没頭して読める。そして、解説も秀逸で、本編のインタビューの形を踏襲しており、過去のゾンビ作品、ゾンビの由来、著者についてなどがわかってゾンビマスター?になるための読み物としても興味深く読める。また、まさにその通りと思うようなところがあったので、その部分を引用しておこう。
さまざまな地域のいろいろな階層・職業・年齢・性別の人間の証言をコレクトして時系列順に配すると、あら不思議、断片の集積から大きな物語が見えてくるという手法。実に、ネット情報収集時代にふさわしい形式だ。ただし、普通の小説を読みなれている人には、話を統一する役割の感情移入できる主要キャラがいなくて、もちろん心理描写などもなくて、魅力や深みにかけるなんて思うかも知れない。でも、リアリティは抜群だよ。数世紀後に人類の死滅した地球にやってきた異星人が本書を解読したら、ぜったいに歴史的事実を記録した文書だと思うにちがいない(笑)。
(下巻 pp.331-332)
ほんこれ‼!w

ブラッド・ピット主演の映画のほうはまだ見てない(劇場で見ようかなと思ったけど、ビビるかもしれないから結局スルーしたw)。借りてきてあるので、これからじっくり堪能する。

ゾンビ物が好きな人は読めば一味違ったものを鑑賞できるし、軍事的小説、政治的小説、世界崩壊的なSF作品が好きな人、ある事件のインタビュー集ようなものが好きな人は間違いなく楽しめる作品だと思う。

それにしてもなぜこうゾンビに惹かれるのだろうか?といろいろと考えたりもした。個人的にはどこかに再生、復活願望があるのかもしれないと思った。



WORLD WAR Z〈上〉 (文春文庫)
マックス ブルックス
文藝春秋
2013-03-08

WORLD WAR Z〈下〉 (文春文庫)
マックス ブルックス
文藝春秋
2013-03-08

読むべき人:
  • 世界崩壊的なSF作品が好きな人
  • 群像劇的な作品が読みたい人
  • ゾンビマスター?になりたい人
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August 11, 2016

微睡みのセフィロト

キーワード:
 冲方丁、SF、ハードボイルド、コースター、天使
SFサイバーパンク的なハードボイルド小説。以下のようなあらすじとなっている。
従来の人類である感覚者と超次元能力を持つ感応者との破滅的な戦乱から17年、両者が確執を残しながらも共存している世界。世界政府準備委員会の要人である経済数学者が、300億個の微細な立方体へと超次元的に“混断”される事件が起こる。先の戦乱で妻子を失った世界連邦保安機構の捜査官パットは、敵対する立場にあるはずの感応者の少女ラファエルとともに捜査を開始するが…著者の原点たる傑作SFハードボイルド。
(カバーの裏から抜粋)
夏休みは慣習的に青春小説やSF小説を読みたくなる。そこで久しぶりに図書館に行ったら、冲方作品である本書が目に止まって借りた。本書は『マルドゥック・スクランブル』以前に書かれた作品で、どこか共通点があるというか、漫画家にとっての連載デビュー作の前の読み切り作品のような感じでもある。

主人公であるバットは『マルドゥック・スクランブル』、『マルドゥック・ベロシティ』のボイルド的な位置づけで、重厚なキャラで寡黙だが、半不死で肉体を再生する特殊能力を持つ。また、17歳の少女ラファエルは警察犬よりも訓練されたヘミングウェイという犬を相棒とし、あらゆる特殊能力を備える超人的な存在であり、やはりバロットの原形のようでもある。つまり、バロットとボイルドが組んで、超次元的に標的を殺さずに虫の息にバラバラにした犯人を追うという物語になる。ストーリの重厚感はあまりなく、キャラのバックグラウンドも少し薄い印象があって、全体的な完成度は『マルドゥック・スクランブル』、『マルドゥック・ベロシティ』には及ばない感じか。また、サイバーパンク的な要素もわかりにくい感じがする。もっともらしい用語で雰囲気を出しているようでもあり、いまいち描写がイメージできないところもあるし、設定の説明不足感はある。しかし、解説に示されているような「ローラーコースター・アクション」は著者独特の緩急のつけ方が光っている。

嵐の前の静けさというか、アクションが始まる前の敵の出現の前の予兆があって、何かがきっかけに急激に銃弾が炸裂する音や肉が焦げ付く匂い、血みどろの肉弾戦が繰り広げられる。そして一気にコースターが急下降したと思ったら右往左往していろんな方向に疾走し、SFアクション映画を見ているような感覚になる。これがやはりすごいと思う。

冲方氏のサイバーパンク的な作品を未読の人はこれから読むのがいいのかもしれない。その次にマルドゥックシリーズに行くと、すんなりと世界観や登場人物に感情移入して、さらに完成度の高いローラコースター・アクションを楽しめるのではないかと思う。

また、最近『マルドゥック・アノニマス 1』が発売されたので買わなくてはだなと。その前に短編集である『マルドゥック・フラグメンツ』も読まなくてはだけど。

本作品は200ページくらいなので、スピード感をつければ1日で読了できて、割と楽しめると思う。




読むべき人:
  • 疾走感のある作品が読みたい人
  • 特殊能力を駆使するバトルが好きな人
  • 戦う少女の物語が読みたい人
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August 07, 2016

マシアス・ギリの失脚

キーワード:
 池澤夏樹、政治、日本、魔術、運命
幻想的な長編小説。以下のようなあらすじとなっている。
南洋の島国ナビダード民主共和国。日本とのパイプを背景に大統領に上りつめ、政敵もないマシアス・ギリはすべてを掌中に収めたかにみえた。日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消えるまでは…。善良な島民たちの間でとびかう噂、おしゃべりな亡霊、妖しい高級娼館、巫女の霊力。それらを超える大きな何かが大統領を呑み込む。豊かな物語空間を紡ぎだす傑作長編。谷崎潤一郎賞受賞作。
(カバーの裏から抜粋)
去年の9月に休職しているときに池澤夏樹の作品である『バビロンに行きて歌え』を読了したときに、『マシアス・ギリの失脚』もスゴ本だからとおすすめされたので、買っておいて、積んでおいた本。また、絶版になる可能性があるから見つけたら買っておいたほうがいいという助言もいただいた。Amazonで買ったけど。現時点で3冊在庫アリっぽい。

長い小説をなんとなく読みたかった。そろそろ読み時かなと思って読んだ。読了には2ヵ月も要した。2ヵ月もかかったらあんまり没頭できていないような感じもするが、そうではない。やはり文庫で600ページ超と長いからというのも大きな理由だけど、熱中して読みすぎると疲れるというのがあった。不思議な魔力が込められているような感じで、精神力を要する、そんな作品。決して読みづらいという感じではないのだけど。

主人公のマシアス・ギリは60歳過ぎの小柄なナビダード共和国の大統領であり、その国はかつて太平洋戦争時に日本軍が占領したとされている。日本から47人の慰霊団がやってきて、その慰霊団を乗せたバスがどこかに消え去り、島の民家そばや海の上を走る姿など不思議なところで目撃される。マシアス・ギリは日本からやってきた政府系企業の使者と会い、またほれ込んでいるアンジェリーナという女が経営する娼館に入りびたり、そこでエメリアナという少女と出会い、マシアスの運命は失脚に向けて動き出す…。

あらすじを示そうにもあまりにも重厚でいろんな要素が盛り込まれている作品なので、なんとも形容しづらい。この作品はマジックリアリズム的で、読んでいる途中でも日本人でもこのようなものを書けるのか!!と感嘆していた。間違いなく『百年の孤独』を意識しているというか、それをベースとした著者なりのマジックリアリズムを紡ぎだしている。『世界文学を読みほどく (新潮選書) [単行本]』で確か『百年の孤独』を傑作と称賛していたので(10年くらい前に読んだのでうろ覚え)。

200年前にこの国にいた幽霊がマシアスの意見役でいろいろと議論していたり、その島の神話的な話が挿入されたり、消えたバスの動向が示されているリポートも独立して存在したり、島の祭事をつかさどる巫女の存在、魔術的な力を持つ人物なども出てきて、現実的な政治の話と超現実的な見えない力に翻弄される話が入り混じっている。また、マシアスも含めた人物の背景描写も延々と長く続いていくので、物語を奥行きを演出し、そして超現実的な事象もさえもそこに当然のようにあるように仕立てられ、ナビダード共和国が構築されている。

1点読み始める前に注意が必要なのは、物語の終盤の盛り上がっているところに唐突に『薔薇の名前』と思われる作品のネタバレ的な内容があるキャラの会話によって示されていること。リアルでファッ‼!!?って声を出しそうになったwいくら著者が世界文学に精通されていても、ネタバレ的な要素で盛り上がりを演出するのはいかがなものかと思った。それは積読してて未読なんだけど…。もうしばらく塩漬けにしておく必要がありそうだ。しかし、未読なのだから本当にその作品のネタバレなのかは確信がないのだけど、十中八九そうだろう。

暑い南の島の話だから、夏休みに一気に読むのがいいかもしれない。はまれば徹夜本らしいので。速く読んでもゆっくり読んでも、どちらにしろ読むのには時間がかかるが、神話的で幻想的でもある物語の世界にしばらくダイブしたままになれる。




読むべき人:
  • 長い物語を読みたい人
  • 幻想的な物語が好きな人
  • 夏休みに運命を感じたい人
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July 18, 2016

旅をすること

キーワード:
 小林紀晴、旅、写真、カメラ、文章
写真家によるエッセイ。以下のような目次となっている。
  1. 1 旅をすること―アジア
  2. 2 そのいい加減さに身をゆだねる決心をした―ニューヨーク
  3. 3 誰が正しくて、誰が間違っていて―映画
  4. 4 三つだけ残った段ボール箱―東京・その他の風景
  5. 5 その盆地の中でその祭りの年に生まれた―諏訪
  6. 6 世界がささやかだけど違って見える―写真
  7. 7 『深夜特急』の熱心な読者だった―本・写真集
(目次から抜粋)
西新宿のブックファーストのフェアでおすすめされていたのが目に留まって買った。旅成分が自分には足りない、旅に出たいというような気分だったので。そして先日の黄金週間中に香港・マカオ旅行中のお供として持って行って、飛行機の中や帰りの飛行機が整備不良で欠航になって急きょ延泊したホテル(無料)で読んでた。

著者は写真家として若いころは写真学校に通い、そのあとアジアを旅しながら写真を撮り、911前後のニューヨークに住んでいたりもしたらしい。著者の生い立ちから写真に興味関心が出るまで、そして見た映画や読んだ本についていろいろなことについて飾らない文章で語られている。

著者のことは何も知らない状態で読んだ。写真家としてどんな作品があるのか、何をメインで撮る人なのかも知らないし、どういうバックグラウンドを持つ人なのかも知らなかった。それでも、読んでいると飾らない文章が心地よい気がした。海外、国外のいろいろな場所で、大小さまざまな事件や日常のちょっとした出来事に関して、著者の考えや志向性が垣間見える。先入観もなく読み始めて、そういう全く知らない人の意見や考え方、日常生活の気づきなどが得られるのがとてもよかった。

前半部分は一つのタイトルで2,3ページ(長くて10ページほど)で、ニューヨーク滞在時に語学学校に通っていた時のクラスの人たちや写真仲間たちとのやり取りが示されている。それが上質な短編小説を読んでいるような感じでもあり、短い文章の後に不思議と余韻が残るような感じがして、そのテーマについて自分ならどう考えるか?と自然と思索をさせられる感じだった。もしくは自分自身ならそのような出来事をどうとらえるか?といったことなども考えさせられる。そういうのがエッセイを読む効用というか、どこかで期待していることのように思えた。

テーマは旅でもあり、写真でもあるので、自然と写真を撮りたくなる。もちろん香港・マカオ旅行中はデジカメ(コンデジ)を持ち歩いて撮りまくった(700枚ほど)。撮っているときはこれはうまく撮れた‼と一人で納得しているのだけど、帰ってきてからPCの大画面で見てみるとピンボケしてたり、構図がいまいちだったり、撮りたかったものと微妙に違っているのが大半だったりして、自分が良いと思う写真を撮るのは毎回難しいなと思わされるのであった。

写真を撮るのが好きな人はいろいろと参考になると思う。撮り方などテクニックみたいな話は全く出てこない。著者が写真にはまるきっかけなどや、何を撮ってきて、写真をどうとらえてきたのか?などの考え方が参考になると思う。また、旅でもあるので、いろんな場所でいろんな人と出会うのが好きな人にも共感できることだろう。あとは、エッセイが好きで、飾らない、短編小説のような文章が好きな人にもよいと思う。

ページ数は多めなので、じっくりと日常生活の合間、もしくは旅の途中の休憩時間、移動時間に読むとより堪能できる。



おまけ。
sky100
香港・マカオ旅行中で唯一一番よく撮れたと思う写真。sky100というビルの展望台から。



旅をすること
小林 紀晴
エレファントパブリッシング
2004-10

読むべき人:
  • 旅行が好きな人
  • 上質なエッセイを読みたい人
  • 写真家になりたい人
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July 03, 2016

Amazon Web Services企業導入ガイドブック

キーワード:
 荒木靖宏、クラウド、AWS、移行、計画
AWSの導入時のポイントが網羅されている本。以下のような目次となっている。
  1. #1 [概要編] クラウドコンピューティングとAWS
  2. #2 [概要編] AWSのさまざまな利用シーン
  3. #3 [概要編] AWSのサービス
  4. #4 [概要編] AWSのセキュリティ概要
  5. #5 [戦略・分析編] クラウド導入のプロセス
  6. #6 [戦略・分析編] 現状分析の進め方
  7. #7 [戦略・分析編] クラウド標準化
  8. #8 [戦略・分析編] PoCによる事前検証
  9. #9 [概要編] クラウドにおけるTCOと費用見積り
  10. #10 [設計・移行編] クラウド利用時の開発プロセス
  11. #11 [設計・移行編] クラウドにおけるシステム設計
  12. #12 [設計・移行編] クラウドにおけるサイジングと性能測定
  13. #13 [設計・移行編] クラウドへの移行
  14. #14 [運用・改善編] AWSにおける運用監視
  15. #15 [運用・改善編] クラウド活用の最適化
(目次から抜粋)
自社のシステムがデータセンターで運用をしていて、月々の運用コストがかかっているのでコストダウンを図りたいよね、そしてその後のシステムの拡張性などを考慮するとクラウドに移行がいいよね、いろいろ調べたらAzureよりもAWSかな?、ということで移行よろしく!!という仕事が発生しとき、そもそもクラウドって何?AWSで何ができるの?、そんでいくらコストかかるの!?教えてエ〇い人!!みたいな状況だった。

普通はAWSについて調べようと思と、本家のサイトを見ればよいのだけど、S3、EBS、RDS、VPCなど独自の略語やタカナ語が多すぎるし、あまり構造化されてないのでどっから見ればよいのかわかりにくいし、サービス紹介動画を見ても激しく眠くなるしw、ブラウザ上で何時間も慣れない文章を読むのは疲れる。そんなとき、先月中旬に発売した本書がたまたま目に留まり、速攻で買って読んでみたわけだ。

本書はAWSのサービスの概要、AWSを導入時に検討すべきポイント、サービスのサイジング、クラウド移行の計画の立て方、移行してからの運用監視についてなどが網羅されている。

出回っているAWS本はすでに導入した後の使用時の設定について書かれていることが多いが、AWSを導入するときに何を考慮しなくてはいけないのか?、移行計画とか何を考えればいいんよ?とか導入以前のことがほとんど書いてなかったりする。しかし、本書は僕のような状況時に移行前に知りたいことがほぼ網羅されている印象で大変役に立った。

特に勉強になったのは、クラウド移行の目的を先に明確化すべきというところかな。いくつか示されているが、コスト削減、伸縮自在性や柔軟性の向上、インフラ調達効率の向上などがあり、その中でも優先順位付けをすべきとあった。そして、サービスレベル要件、性能要件、セキュリティ要件などクラウドで達成すべき要件を洗い出すと費用やスケジュールが明確になるようだ。

そして、移行が決定したらどの順番でどのように移行するか、どれくらいコストがかかるのかを判断するための現状分析が必要になるが、その流れが以下のように示されている。
  1. 移行対象の選定
  2. アーキテクチャ検討
  3. ロードマップ策定
  4. コスト試算
プラットフォームの全面移行などの仕事をしたことがある人にとっては、当たり前のことなのだけど、そういう経験がないと、どっから手を付けてよいのかわからないので、このように示されているのは本当にわかりやすくて、そのまま仕事に使える。

あとはAWSは使った分だけ課金するモデル(オンデマンドインスタンスの場合)なので、利用を変動させられるのが特徴である。そのため、固定作業と可変作業のコストを最適化できるので、サービスの直接コスト、間接コストを見積り、比較するための財務指標になるTCO(総所有コスト)をある程度の期間想定して評価することが重要らしい。まぁ、要はいろんなAWSサービスの構成を組み合わせた時にいくらかかって、ROI的にどうなるのか?をしっかり考えるべきと。お金は大事だしね。

実際の見積りには本書では以下のようなツールが示されている。あとは本書には載ってないけど、金額見積りをExcelベースで算出できる割と便利なものが以下にある。全部使ったわけではないけど、とりあえずExcelが楽かな。

本書はAWSの中の人が書いているので、内容としては間違いはないだろうし、何よりもユーザ企業がAWSを導入するときに何を検討すべきなのかがよく分かっているというか、そのような導入時に検討すべきことがナレッジとしてそれなりに蓄積されているのだろうと思われる内容だった。もうすでにAWSを利用して運用している人には、デジャブ感いっぱいの内容かもしれないが。しかし、AWSの移行前に何をすればよいかわからない!!、というときはまずはこれを読むのがよいだろう。

技術本は今抱えている仕事の解決策になるのか、ヒントを得られるのかどうか?を目的として読むので、使える、使えないが割とはっきり評価しやすいが、本書はかなり使える!!と思った。




読むべき人:
  • AWSの概要について知りたい人
  • IT戦略などの意思決定をしなくてはいけない人
  • クラウド移行を検討している人
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May 21, 2016

ニッチを探して

キーワード:
 島田雅彦。ニッチ、ホームレス、サバイバル、正義
大都会サバイバル小説。以下のようなあらすじとなっている。
背任の疑いをかけられた大手銀行員・藤原道長は、妻と娘を置いて失踪した。人目を避けた所持金ゼロの逃亡は、ネットカフェから段ボールハウス、路上を巡り、道長は空腹と孤独を抱え、格差の底へと堕ちてゆく。一方、横領の真の首謀者たる銀行幹部たちは、事件の露見を怖れ、冷酷な刺客を放つ―。逆転の時は訪れるのか。東京の裏地図を舞台に巨額資金を巡る攻防戦の幕が開く!
(カバーの裏から抜粋)
書店でなんとなく手に取って、読んだことのない作家だったので読んでみたらなかなか面白かった。

主人公は妻子持ちで大手銀行のそれなりの地位にあるが、支店長の不正融資を告発し、自身にかけられている横領の疑惑から逃れるために妻子には告げずにひっそりと都会に身を隠していく。逃走資金を用意し、サバイバルグッズをそろえてから、都会でサバイバルする前に銀座の高級寿司店で腹ごしらえし、マンダリン・オリエンタル・ホテルに泊まり、添い寝嬢を手配し、日常からの決別の前夜祭のように楽しむ。

そして、次の日からは安いネットカフェに泊まったり、食費を削減するために試食コーナーを回ったり、ホームレスの炊き出しに並んだりする。公園のホームレスの長老的な存在に諭されてここを出たほうがいいと言われ、単身別のところに行き、野宿する生活までに落ちていく。大都会東京の中で警察や追手から逃れ、正義を執行する日が来るまで、自分のよりどころとなる『ニッチ』を探して。

なんだかこれを読んでいると、明日から安心して東京でホームレスになれるような気がしてくる。食事に困ったらどこの炊き出しに並ぶべきかや、図書館に行って食べられる野草を確認し、また料理本を眺めてフルコースを食べた気になる『空食』を実施し、スーパーで試食コーナーをスーツ姿で回り、ショッピングのカゴの中に残っていたキャベツの葉や畑にある大根を失敬したり、はては金に困ったときは中野のゲーセンにあるフィギュアをUFOキャッチャーで取ってまんだらけに売れば2000円になるとか(これは真偽不明だけど)、寝床の探し方(特に川の中州がニッチらしい)などなどがとても参考になる。

ある意味大都会でのサバイバル本のような、そんな感じでも読める。そしておやじ狩りとの闘い、追手との攻防もあったりで、読んでいてハラハラする展開もある(そこらへんは後半少しだけ)。ほとんどは主人公、藤原道長視点でのいかに大都会で他人にあまり頼らずに1人サバイバルしていくかに焦点があてられていて、自堕落に転落していったのではなく、自分の正義の意思で一時的にサバイバル生活をしているので、不思議と主人公に肩入れして読んでしまう。

そして文章がすんなりと頭に入ってきて、違和感もなくリズムがよく、大都会東京のところどころに変わる舞台の歴史的背景などの薀蓄もありで、読んでいて勉強になる。さすがにベテラン作家、そして小説指南書を書くだけはあるなぁと思って読んでいた。読みやすく面白く、割とさくっと読めると思う。

明日からいきなり路頭に迷ってしまったらどうしよう?という最悪のパターンを想像することはよくある。そうなったときも、まぁ、何とかなるんじゃないかというよく分からない安心感も得られた気がする。大都会でのホームレスサバイバル生活をシミュレーションできた。

あと本作品のテーマである『ニッチ』に関して、自分の『ニッチ』はどこだろう?と考えた。物理的な部分はあまりないかもしれない。ある意味このブログが電脳空間上の自分の『ニッチ』のような気がする、と思ったのであった。



ニッチを探して (新潮文庫)
島田 雅彦
新潮社
2015-12-23

読むべき人:
  • ホームレス生活を疑似体験したい人
  • 妻子ありで自分の正義を貫きたい人
  • 自分のニッチを探している人
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April 29, 2016

ブラッド・ミュージック

キーワード:
 グレッグ・ベア、パニック、パンデミック、細胞、救済
パニックSF小説。以下のようなあらすじとなっている。
伝子工学の天才ウラムは、自分の白血球をもとにコンピュータ業界が切望する生体素子を完成させた。だが、会社から実験中止を命じられたウラムは、みずから創造した“知能をもつ細胞"を捨てきれずに、体内に注射して研究所からもちだしてしまった……この新細胞ヌーサイトが人類の存在そのものを脅かすことになるとも知らずに! 奇才が新たなる進化のヴィジョンを壮大に描き、新時代の『幼年期の終り』と評された傑作
(カバーの裏から抜粋)
久しぶりにSF小説を読みたいと思っていたところ、年初に読んだ『戦略読書』にお勧めされていた本書を買って読んでみた。

あらすじは↑に示した通りで、研究者が偶然作成してしまった知能を持つ細胞、ヌーサイトがパンデミックのように世界中に蔓延していくというお話。前半戦は徐々に感染が広がっていくパンデミックものパニック映画的。主人公は特に限定されておらず、いろいろな登場人物に視点が変わる。その一人がスージーという若い少女で、家族全員が感染して別の存在に成り替わったのだが、スージーだけは元の生身の状態で誰もいない都市部を歩き回り、崩壊前のワールドトレードセンターのビルにまで行く。

この誰もいない街を闊歩していく描写は、ウォーキングデッドや28日後などのゾンビパニック映画的でもある。とはいっても感染者は別に襲ってくるわけではなく、ヌーサイトと同化して別次元の存在になりつつも元の人格を保持し、同化するように対話してくる。

結末は『幼年期の終り』的と評されているが、幼年期はオーバーロードによる世界の変革に巻き込まれる人類を描いており、あまり救いがない結末だけど、こちらはミクロの世界で人類そのものの救済のような結末になる。それが抽象的で精神的な描写が多く、情景を脳内再生するのが若干難しいのだけど。

テーマ的にも情景的にもデジャブ感いっぱいな感じがしたのは、これを元にしたと思われるアニメ、映画などが多いからのような気がする。なので、あまり驚きや新鮮味がなかった。描写はそこまで難しくはないのだけど、登場人物の視点がころころ変わるので、一気に読まないと全体像がぼやけてしまうなと。

面白くないわけでもなく、テーマ性もよいのだけど、ところどころの抽象的な描写、ヌーサイトとの対話の部分が若干かったるい感じがした。しかし、『幼年期の終わり』とともに傑作と評されるSF作品なので、読んでおいて損はないかなと思う。




読むべき人:
  • パニック映画が好きな人
  • 生物的なSFが好きな人
  • 人類の救済について考えたい人
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April 24, 2016

リーン・スタートアップ

キーワード:
 エリック・リース、MVP、仮説検証、ピボット、スタートアップ
リーン・スタートアップというビジネスの開発手法について解説されている本。以下のような目次となっている。
  1. 第1部 ビジョン
    1. 第1章 スタート
    2. 第2章 定義
    3. 第3章 学び
    4. 第4章 実験
  2. 第2部 舵取り
    1. 第5章 始動
    2. 第6章 構築・検証
    3. 第7章 計測
    4. 第8章 方向転換(あるいは辛抱)
  3. 第3部 スピードアップ
    1. 第9章 バッチサイズ
    2. 第10章 成長
    3. 第11章 順応
    4. 第12章 イノベーション
    5. 第13章 エピローグ ― ムダにするな
    6. 第14章 動きに参加しよう
(目次から抜粋)
リーン・スタートアップというのは、『リーン(lean)』、つまり「余分な肉がなく細い」意味の語源からきているビジネス上の開発手法であり、元シリコンバレーのエンジニアである著者によって提唱された。詳細については以下参照。ソフトウェアの世界では開発手法としてアジャイル開発手法がある。本書そのものは、どちらかというと著者のアジャイル開発経験をもとに、プロダクトそのものの開発や企業の在り方までに対象を広げ、起業という分類にとどまらず、企業の規模や発展段階を区別せずアントプレナー的に何か製品開発をする人に向けてリーンスタートアップとして再定義されたものとなる。

著者はインスタントメッセンジャーの開発をするときに、事前に練った事業戦略と製品開発の無駄をなくせるはずだ、と信奉していたアジャイル開発手法で作っていった。しかし、そもそもの仮説が間違っており、実際の顧客となる人に使ってみてもらったところ、顧客が欲しいと思っている機能ではなく、6か月分に及ぶコード量は無無用の長物となってしまった。その経験から、リーン・スタートアップの中核として以下が示されている。
リーンな考え方における価値とは顧客にとってのメリットを提供するものを指し、それ以外はすべて無駄だと考える。
(pp.69)
言われてみれば、まぁ、そうだよねと思うのだけど、実際に製品開発時の始まりでは何が顧客にとっての価値か、メリットか?などは分かるものでもない。なので、以下のように仮説と検証を随時やっていくことが重要になるようだ。
 一番のポイントは、どのような業界であれスタートアップは大きな実験だと考えることだ。「この製品を作れるか」と自問したのでは駄目。いまは、人間が思いつける製品ならまずまちがいなく作れる時代だ。問うべきなのは「この製品は作るべきか」であり「このような製品やサービスを中心に持続可能な事業が構築できるか」である。このような問いに答えるためには、事業計画を体系的に構成要素へと分解し、部分ごとに実験で検証する必要がある
(pp.79)
検証には定量的にデータを取っていく必要があるようだ。

そして、次のステップで構築フェーズに入り、実用最小限の製品(minimum viable product)、通称MVPを作っていく。これは、最小限の労力と時間で開発できるもので、最低限必要な機能のみを実装し、すぐに顧客に見せて反応を得るというフェーズである。XPなどの開発手法ではYou Aren't Going to Need It.(必要なことだけ行う)やオンサイト顧客ですぐ見せられる状況にしておくなどが近いプラクティスとなる。

そもそもなぜ本書を読んだかというと、転職してそうそう所属部署での新規事業プロジェクトの中核要員としてアサインされて、このリーン・スタートアップの考え方で行こう!!となったので、プロジェクトメンバーの共有認識としての必須図書となったからである。2011年提唱なので、あまりまだ一般的に浸透していないのもあって、あまり知らなかった概念ではあるが、XPベースのアジャイル開発を少し経験したことがあり、ケント・ベック本を読んだことがある身としては、割とすんなり受け入れられる概念だったと思う。

ただアジャイル開発手法は、ある程度要件が固まっているもの(もちろん変化を受け入れつつ柔軟に対処するのが前提だけど)に対して『どう作るか?』に主眼に置いているが、リーン・スタートアップはどちらかというとビジネスモデルやアイデアの部分の『何を?』をメインで扱っているのが異なる。そのため事業がある程度進んでスケールできず収益が見込めないとなると、思い切って『Pivot(方向転換)』が必要になってくる。そういうソフトウェアの開発とビジネスの開発の微妙な違いがあったりする。

本書の内容自体は著者の実体験やその他シリコンバレーのさまざまな企業の事例が載っており、その辺は参考になるが、ボリュームが多く、一気に読まないと内容を忘れてしまいがち。あとは図解が少なく、全体像を把握するのに若干時間を取られる気がする。

まだ転職して2ヵ月も経ってはいないのだけど、こういう新規事業に携われるチャンスが巡ってきた。転職活動中に『Yコンビネーター』を読んでいたのも影響してそこに引き寄せられていったのかもしれない。さらにもっと言えば、Yコンビネーターを読むきっかけとなったのは今年の年始に読んだ『戦略読書』であり、ここからリンクして今に至っている気がする。ちなみに『戦略読書』にも本書『リーン・スタートアップ』が起業・応用編として取り上げられている。

まだプロジェクト自体は始まったばかりで、要件定義や仮説を設定している段階で、MVPを回すまでに行っていないのだけど、いろいろな経験が積めそうで不安よりも期待のほうが上回っている。社内ベンチャー的でもあり、大変なのは間違いないが、ここでビジネス観点でもシステム開発観点でも経験値を積んでおきたい。

類似のリーン・スタートアップ本はいろいろあるが、オライリー社から出ているものがより実践的、システム開発よりの内容のようなので、こちらも合わせて読んでおきたいところ。

直近1年、このリーン・スタートアップを基本に新規事業を回せていけるかどうか、確かめていきたい。



リーン・スタートアップ
エリック・リース
日経BP社
2012-04-12

読むべき人:
  • リーンスタートアップについて知りたい人
  • アジャイル開発を経験したことがある人
  • スタートアップビジネスをやりたい人
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April 03, 2016

はじめよう! 要件定義

キーワード:
 羽生章洋、要件定義、開発、画面遷移図、システム
システム開発における要件定義のやり方がわかりやすく示されている本。以下のような目次となっている。
  1. 第1部 要件定義って何だろう?
    1. 要件定義=要件を定義すること
    2. 要件定義の基本的な流れ
    3. 定義すべき要件の内訳
    4. 3つの要素の定め方
  2. 第2部 要件定義の詳細
    1. 要件定義、その前に
    2. 企画を確認する
    3. 全体像を描こう
    4. 大まかに区分けしよう
    5. 実装技術を決めよう
    6. 実現したいことを整理整頓しよう
    7. 利用者の行動シナリオを書こう
    8. 概念データモデルを作る
    9. UIを考えよう
    10. 機能について考えよう
    11. データについて考えよう
    12. 要件定義の仕上げ
    13. 要件定義、その後に
(目次から抜粋)
要件定義をやろう!!と思い立った時に、今まで下流工程メインでしかやってこなかったので、要件定義のような上流工程は未経験で、はて、何をどうやればいいんだろう?と思ったので、買って読んでみた。

要件定義ってそもそも何?というところから始まって、要件定義の基本的な流れ、定義すべきことなどがイラスト付きで170ページほどでコンパクトにわかりやすくまとまっている。

そもそもシステム開発での要件として必要なことが以下のように示されている。
プログラマがソフトウェアを完成させるために必要な情報
(pp.18)
そして、これの元ネタがUI、機能、データとなり、それらを決めることが要件定義でのやることと示されている。なので、完成させるシステムのゴールから逆算して以下の順番でそれぞれの内容を決める必要がある。
  1. UIを決める
  2. 機能を決める
  3. データを決める
しかし、要件定義の準備段階が重要になってくる。何をやるべきかは省略して、それらを実施していれば、その成果物と以下が手元に揃っている状態であると。
  • 企画書
  • 全体像(オーバービュー)
  • 利用する実装技術
  • 実現したいこと一覧(要求一覧)
  • 行動シナリオ
  • 概念データモデル
3月に転職してから受注側から開発ベンダーに依頼する発注側の立場となった。僕の事業室の内部IT要員は実質自分1人だけなので、内部の要件とベンダーの橋渡しをうまくやらなければいけないという状況。要件定義が重要なのは身に染みているので、なんとなくこんな感じでよろしく!!と言ってベンダーに丸投げしてまともなシステムができるわけがないことは言うまでもない。

なので、自分である程度要件定義に近いことを内部でやっておく必要がある。まずはこの準備段階をきっちり決めることだな。案外ないものがある。企画書とか全体像とか要求一覧とか行動シナリオとか概念データモデルとか、というかほぼ全部ない!!wこのあたりをしっかり分析して用意しておいて、そこからようやく外部ベンダーにこんな感じで、と依頼できるかな。

発注側も要件定義の内容としてのUI、機能もある程度洗い出し、完璧とはいかないまでも考えるネタとして資料化、そんで外部ベンダーに引き渡して、外部ベンダーにブラッシュアップしてもらうことで要件漏れや手戻りもある程度防げるのではないかと思う。まぁ、ビジネススピード優先でかつ内部のIT要員が自分1人の状態というのもあったりでどこまでできるかはわからないけど、ここまでは意識としてやっておきたい。

理想は発注元もデータを決める、つまりDB設計までやればよいが、ここまでになるとUI、機能を決めるよりもより複雑になってくるので、外部ベンダーに投げてもいいのかなと思ったり。理想は完全内製化でDevOpsで行きたいところなのだけど、実際そんなことができないから外注するしかないのだけどね。

また、以下のDainさんの記事がとても勉強になるので、一度読んでおくとよい。本書は著者の携わった案件から、最近はやりのアプリやゲーム開発も考慮された内容となっている。要件定義の漠然としていた内容がすっきり整理されて、明日からの自分のタスクが明確になった。受注側の特に上流工程をやる人は読んでおくべきだし、発注側のベンダーとのやり取りをする人も絶対読んでおいた方がいい。すべては糞システムにしないために。




読むべき人:
  • 受注側の上流工程要員の人
  • 要件定義についてわかりやすく知りたい人
  • 発注側でベンダーとやり取りする人
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March 27, 2016

ストーリーで考える「見積り」の勘所

キーワード:
 中村秀剛、見積り、工数、コスト、勘所
システム開発時の見積りについて解説されている本。以下のような目次となっている。
  1. イントロダクション システム開発における「見積り」とは?
  2. 第1章 引き合いからヒアリングの準備まで
  3. 第2章 ヒアリングから提案方針の検討まで
  4. 第3章 提案方法のディスカッション
  5. 第4章 工数の算出
  6. 第5章 見積り金額の策定
  7. 第6章 全体を振り返って
  8. 第7章 より良い「見積り」のために
  9. 第8章 よくある落とし穴の紹介
(目次から抜粋)
本書は仮想のシステム開発案件をストーリー仕立てにし、システム開発をするときに必要な期間やコストを求める「見積り」方法が分かりやすく示されている。そして、見積りの流れとして以下のステップが示されている。
  1. 引き合い
  2. 資料の事前調査
  3. 客先訪問、ヒアリング
  4. 要件分析
  5. 実現方式検討
  6. 工数算出
  7. スケジュール検討
  8. 開発実費算出
  9. 見積り金額の合意
  10. 見積り提示
それぞれのステップで架空の登場人物たちのやり取りとサンプル成果物が示されていて、参考になる。

本書の主な想定読者は受注側のSI系企業の上流工程担当者である。なので顧客からの要望(RFP)に対してどのように提案していくか?、そしてそのときのシステム開発の見積りをどうやるか?を考えるときに参考になる。

見積り、といっても決定的な手法が確立されているわけでもなく、実際にプロジェクトを進めていくと要件が変わったり、使用する技術の不備などで開発工数が予想外に多くなったりで、スケジュールがずれてきて、結局当初の見積りからもずれることが多い。それでも経験を積んでいくしかないのだけどね。

そもそも本書を読んだのは、顧客側(発注側)の立場として開発ベンダーに開発要件を伝えた後に提示された見積りが妥当かどうか確認したいという理由からだった。要は、提示された金額は妥当かどうかを知りたかった。

しかし、『開発実費算出』の章で、「残念ながら金額の決定方法については、具体的な手順を説明することはできません。」と示されていて、肝心のところが載ってない!!と思った。そこは企業秘密的な部分であるし、会社によって人月単価は異なるから一般化できないところだろうから仕方のないところだけど、発注側としてはそこはサンプル的な数字でよいので示してほしかったかなと。

受注側が提示してくる見積り金額の妥当性をどうやってチェックするか?を考えてみると、適切な工数から算出されているか?を確認するしかないかなと。要は新規開発なり改修であったりするときの改修対象が網羅されているか、その対象の機能一覧がそれぞれどれだけの工数(人員とスケジュール、つまり人日、人月等)がかかるかを発注側もある程度計算するしかないかなと。そこで受注側の提示工数と乖離があるかどうかで判断する。競争入札の場合は、提案企業ごとに比較できるので、安い高いが判断しやすいが、1社単独の場合は、比較しようがないので、計算するしかない。

また、著者や著者の周りで何度か提案活動を進めていくなかで、「最低限これだけは必要ではないか」という見積り工数を算出するための元ネタになるドキュメントが以下のように示されている。
  • 作業内容一覧
  • WBS
  • スケジュール
  • 機能一覧
  • テーブル一覧、データモデル図
  • システム論理構成図
  • システム物理構成図
一部は設計工程で詳細に作るものなので、提案段階で詳細化はしないだろうが、それでも大雑把に作っておくことで見積りがわかりやすくなると示されている。受注側はこれらから見積りを実施すればよいし、発注側は見積りの根拠は何か?を問う時に受注側からこれらが提示されているかどうかで見積りの妥当性を確認できるのではないかと思う。

タイトルに『勘所』とあり、著者もイントロダクションで示すように、本書を読めば誰でもすぐに見積りが作成できるわけでもない。どうしても経験の積み重ねが重要になってくるが、何もわからない状態で経験を積み重ねるよりも、本書に示されている著者のこれまでの経験値としての『勘所』を基礎にして経験を積むほうがよいし、それぞれの章で示されるその『勘所』のコラムがとても勉強になる。

220ページほどで、内容もストーリー仕立てで会話調なので、すらすらと読めるし、分かりやすい。何とか1日で読了できた(実質4時間くらい)。僕のように発注側の人が読んでも勉強になるし、役立つ内容である。




読むべき人:
  • 上流工程を担当することになった人
  • 見積りの妥当性をチェックしたい発注側の人
  • ビジネス側の視点も強化したいSEの人
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March 21, 2016

Webエンジニアの教科書

キーワード:
 佐々木達也、Web系、概要、フルスタック、基礎
Webエンジニアが取得すべき技術の概要が網羅されている本。以下のような目次となっている。
  1. CHAPTER-01 Webエンジニアについて
  2. CHAPTER-02 Ruby on Railsでの開発
  3. CHAPTER-03 PHPでの開発
  4. CHAPTER-04 NoSQLデータベース
  5. CHAPTER-05 フロントエンドの実装
  6. CHAPTER-06 ログについて
  7. CHAPTER-07 データの可視化について
  8. CHAPTER-08 環境構築の自動化
  9. CHAPTER-09 便利な外部サービス
(目次から抜粋)
WebサービスやWebアプリケーションを開発するエンジニアが扱う技術領域は幅広くなってきており、各自の専門領域だけに目が行きがちで、他の領域も最低限知っておかなくてはいけないという意識があっても、なかなかキャッチアップができなかったりする。本書はWebエンジニアが知っておいた方がよい技術領域の概要が網羅されており、他領域のキャッチアップのきっかけになる。

内容について補足すると、2,3章はRuby on Rails、PHPの導入についての手順やフレームワークなどが紹介されている。4章のNoSQLではKey-Value型のRedis、ドキュメント指向データベースのMongoDBが紹介されている。5章のフロントエンドについては、CoffeScript、TypeScript、Angular JSなどが示されている。8章の環境構築の自動化については、Vagrant、Ansible、Serverspec、Dockerなど仮想化、プロビジョニングソフトが示されている。

どの章も概要とそれぞれのインストール方法、簡単な使い方が示されている。概要レベルを網羅しているだけなので、あまり深い説明などは載っていない。そこはそれぞれの専門書なりWeb上のドキュメントを見て詳細を把握していくしかないが、よくはてブなどで日々上ってくる、見たことあるけどあまり知らない技術やソフトの概要を知ることができたのでよかった。

3月から転職して、結果的にWeb系のエンジニアになって、しかも自分の所属部署でエンジニアが実質自分一人という状態である。さらに今後も新規開発をやりたいということで、なんでもある程度できるようにならなくてはいけないポジションにある。かっこよくいえばフルスタックエンジニア、ということなのだけど、Web系の技術に関しては大学時代にPHP+MySQL+SmartyでWebアプリケーション開発をやったことがあるくらいで、最近の技術はさっぱりついて行けておらず、さて何から勉強すべきか?を考えた時に、まずは全体像を知る必要があると思った。本書はその目的を十分に果たしてくれたと思う。

それぞれ何が流行っているのかをまず把握し、そこからどこを重点的に補強して勉強していくか?の優先順位付けをする必要があるなと思った。いくらフルスタックといっても全領域の技術を深く習得して使いこなせるようになることはないので、得意不得意、仕事での重要度を鑑みて決定していけばいいのかなと思う。とはいえ、どの領域もそんなに詳しくないので、せめて概要くらいは把握しておきたい。

また、本書が書かれたのは2015年4月なので、賞味期限は今年いっぱいという感じかな。

Web系のエンジニアとしては駆け出し状態だけど、IT知識や開発経験が0からスタートするわけでもなく、それなりに下地があるから速習できるはずでしょ!?と楽観的にかつWebサービス開発を楽しんでいけたらと思う。



Webエンジニアの教科書
佐々木 達也
シーアンドアール研究所
2015-03-26

読むべき人:
  • 2,3年目のエンジニアの人
  • 最新技術を目にするけど試せていないエンジニアの人
  • フルスタックエンジニアになりたい人
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March 13, 2016

村上春樹 雑文集

キーワード:
 村上春樹、雑文、小説家論、牡蠣フライ、物語
村上春樹のさまざまな種類の文章がまとめられた本。内容詳細は新潮社のページが一番わかりやすいので、そちらを参照。群像新人賞の受賞のあいさつから数年前話題になったエルサレム賞の『壁と卵』の全文、ジャズの話、しょうもないギャグ的なフィクション、翻訳について、にしん、アイロンのかけ方までいろいろ雑多な文章が1冊になっている。短い文章から割と長い文章まで。

以前図書館通いをしていたときに、これは借りて読もうと思っていたら昨年に文庫化されたので買った。特に村上春樹のエッセイなどはかなり好きな方なので、大体は読んでいる。すべてではないと思うけど。本書に収録されている文章は種類が多く、書かれている対象が多岐にわあり、全体像をまとめて紹介しようと思うとぼやけてしまうので、特に印象に残ったところだけを簡単に紹介しておこう。

その一つが一番最初の文章である『自己とは何か(あるいはおいしい牡蠣フライの食べ方)』について。これは小説家とは何か?というテーマに関しての文章となっている。細かい内容は省略するが、「自己とは何か?」について小説家は物語の形に置き換えていくことを日常の仕事にしているようだ。そしてあるとき読者から就職試験で『原稿用紙四枚以内で、自分自身について説明しなさい』という問題が出てしまい、自分自身を説明できなかった、村上さんはどうしますか?という質問が来た。

それについて以下のように回答している。一部抜粋。
自分自身について書くのは不可能であっても、たとえば牡蠣フライについて原稿用紙四枚以内で書くことは可能ですよね。だったら牡蠣フライについて書かれてみてはいかがでしょう。あなたが牡蠣フライについて書くことで、そこにはあなたと牡蠣フライとのあいだの相関関係や距離感が、自動的に表現されることになります。それはすなわち、突き詰めていけば、あなた自身について書くことでもあります。それが僕のいわゆる「牡蠣フライ理論」です。今度自分自身について書けと言われたら、ためしに牡蠣フライについて書いてみてください。
(pp.25)
別に牡蠣フライではなくてもメンチカツでも海老コロッケでもよくて、単に著者が牡蠣フライが好きだからのようだ。そしてそれは「牡蠣フライについて語る、故に僕はここにある」ということにつながるようだ。

奇しくも僕も牡蠣フライが大好物で、冬季はほぼ週1回ペースで牡蠣フライを食べている。そしてここを読んだ当時はまだ休職中で今後の方向性について模索していた時だったので、自己とは何か?と自問自答していた時でもあった。牡蠣フライについてぜひ書くべきだ、と催促されたような気がした。ということで、自分なりに牡蠣フライについて書いた。例え好物の牡蠣フライについて書くといっても、原稿用紙4枚以内に抑えて書くのはなかなか難しいものだと思った。雑記ブログに書く文章はたいていはそんなに推敲はしないのだが、この文章は日をまたいで推敲を重ねた。それだけ間接的に自分自身について書くことは、なかなか難しいということを体感した。

この牡蠣フライ理論の話の文章そのものは、ここだけを読むと漠然としすぎてよく分からないと思うけど(恣意的に取り上げているだけだし)、この本全体に通じる村上春樹の思考の核の片鱗を示すような重要な文章なので、ここだけのために本書を買って読む価値はある。もちろん牡蠣フライ好きな人ならなおさらだ。

雑多な文章が短いページ数で区切られているので、電車の中で読むのに割と適していた。もちろん、家でリラックスしながらジャズとかかけて、ソファにゆったりと座り、サイドテーブルにウィスキーを準備して読むのもいいと思う。僕はジャズもウイスキーもそんなに詳しくないけれど、まぁそんな雰囲気で。



村上春樹 雑文集 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社
2015-10-28

読むべき人:
  • 雑多な文書で気分転換したい人
  • 正しいアイロンのかけ方が知りたい人
  • 牡蠣フライが好きな人
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February 28, 2016

帝国ホテル厨房物語

キーワード:
 村上信夫、フレンチ料理、自伝、仕事、フルコース
帝国ホテルでフレンチシェフとして働いていた著者による自伝。以下のような目次となっている。
  1. 1 十二歳の旅立ち
  2. 2 元気な小僧、調理場に立つ
  3. 3 日本一の調理場へ
  4. 4 戦場のカレーライス
  5. 5 料理人として再出発
  6. 6 至高の味をパリで学ぶ
  7. 7 料理長は大忙し
  8. 8 帝国ホテルの味を守って
  9. 9 終わりに―夢持ち続けて
(目次から抜粋)
本書は日経新聞の『私の履歴書』の連載が書籍になったもので、著者は18歳から帝国ホテルで働き始め、専務取締役総料理長まで上り詰められたフレンチシェフとしての一生が自伝的に示されている。以下の本でプロフェッショナルの本質が学べる本として取り上げられており、気になったので買って読んでみた。最近はこの本が次に読む本のハブになっている。

著者は、1921年に神田の食堂で生まれるが、12歳ごろには両親を早くに亡くし、自立する必要に迫られて、洋食の軽食やお菓子を出す「ブラジルコーヒー」というところで住み込みで働き始めるところから料理人人生が始まる。そこから18歳になって運よく帝国ホテルに移って鍋磨きから始め、専務取締役総料理長までに至るまでの過程が、著者の示すようにまさに人生はフルコースという感じで波乱万丈である。

終始著者ならではの体験による面白いエピソードやフレンチシェフ、料理人として示されている鉄則などがとても勉強になり、それぞれたくさん線を引いた。それらをたくさん引用して紹介したいのだけど、あまりにも多すぎるので、控えめにしたい。

著者は帝国ホテルのシェフで出世すると同時に、日本のフレンチ業界を近代化した功績を残される。例えば、大型冷凍庫をうまく活用し、冷凍食材で調理工程の効率化を図ったり(しかもそのヒントを戦時中のシベリア勾留時に得たとか)、それまで帝国ホテルには共有されるレシピがなかったが、著者の働き掛けでレシピを共有し、それを今風にアレンジしていったり、NHKの「きょうの料理」に出演することで高級なフレンチを家庭料理にまで浸透させるきっかけになった。

また、後進の育成時には、楽しく働けるのが一番であるということもあって、私的鉄拳制裁の禁止で言葉で丁寧に教え、よいところを褒めていくという人材育成方法を取っていたらしい。さらに感情的にものを言ったり、怒鳴り散らしたりしないようにしていたのは、料理の味付けに影響するとのこと。なので、後輩には「朝、出社前に、奥さんとケンカするなよ」とアドバイスをしていたようだ。人財育成的な観点からもとても勉強になる。

さらに東京オリンピック開催時には選手村の料理長に就任したので、一度に大量の食事を作る必要があり、そのためにはも多くの料理人たちと協働する必要がある。それぞれの料理人の流儀があるが、調理手順を統一し、百人単位の大量調理マニュアルを作り、食味上の指令を徹底し、職場間の連携にも気を配り、効率的に無駄なく運営するシステム作りもされたようだ。大プロジェクトのマネジメントの観点からも学べる。

以下特に勉強になった部分をいくつか引用しておこう。
どんなことでも十分に準備しておけば混乱はしないで、お客様に喜んでいただけることも分かった。事前の用意や段取りがとても大事なのだと、身に染みて感じた。私はそれから、「段取り八分」が口癖のようになった。事前に用意しておけば、八割方は成功という意味で、たとえ小さな仕事でも、周到な準備が何よりも大切ということを協調している。
(pp.163)
いつも準備ができずに結果的になんだか微妙なことになるので、これは意識的に変えていきたい。といいつつも、完全に準備ができるまでやっていたらチャンスを逃すという側面もあるのだけどね。

また、若い料理人へのアドバイスとして以下のように示されている。
 若い料理人に与える言葉は何か、とよく聞かれるが、私は何よりもまず、「欲を持て」ということにしている。そして、もう一つの助言は、「急ぐな」である。
 流行に追われ、先を走りたがる若いコックが多いが、最も大事なのは基本だ。基本に尽きる。それをおろそかにして、目先の流行ばかりを追いかけていると、必ず中途半端になって、お客様に飽きられる。焦らず、慌てず、じっくりと一生懸命に勉強することだ。そして、現場を踏み、経験を重ねながら、お客様が喜ぶ料理を絶えず考え続け、工夫することが大事だ。
(pp.203-204)
ここは『料理』を変数として、自分の仕事に置き換えて考えておきたい。また、流行ばかりを追いかけていると、流行に左右されない真髄を見落としがちで、結局うまい料理は時代はやりを超えて生き残る、というのが著者の料理人人生の結論と示されている。

あと一つ最後に左右の銘についての引用しておこう。
 私の座右の銘は、「果報は寝て待て」をもじって「チャンスは練って待て」。コック人生は幸運の連続だった。人にも恵まれた。しかし、それは準備し、努力した結果でもある。新館料理長になって数年後から三十八年間、帰宅してから一日一時間、料理の勉強を欠かさない。八十歳の今も練って待つ夢があるのは幸せだと思う。
(pp.226)
著者の不断の努力は見習いたいと思うと同時に、今までの自分の勉強不足を反省せざるを得ない。

全体を通してまず感じるのは、著者の料理人としてのひたむきな姿勢、貪欲に研鑽を怠らない意識、そして常に前向きな考えや、謙虚で人柄の良さが現れているところだろう。料理人としての実力や文章からにじみ出るような人徳もあわさって、若くして総料理長に抜擢されていったのだと思われる。やるべきことをしっかりやって、努力を続けていれば必ず誰かが評価してくれて、よい方向性に導かれていくのだなと思った。

これらは料理人だけではなく、他の職業の人、一般的なサラリーマンにとっても学ぶべきことがとても多い。また特に僕のように明日の方向性も分からないときに、どうしようか?と道に迷っている人にとっては、何か方向性のヒントが得られ、元気な気持ちにもなれるし、何よりも著者のように身の引き締まる境地で明日からも仕事を頑張ろうと思える。

帝国ホテルで著者のフレンチ料理を食べてみたいと思わされるが、残念ながら10年ほど前に亡くなられているようだ。しかし、著者の料理の神髄を受け継いだシェフたちが今も働いているはずなので、いつか帝国ホテルでフレンチを食べたいと思う。

どのような職業の人であろうと本書を読んで何も学ぶこともなく感じることもない、ということはあり得ないほどに中身が濃く、そして著者のフレンチシェフの一生としての自伝としても面白くかつとても勉強になる良書だった。




読むべき人:
  • フレンチの料理人
  • フランス料理が大好きな人
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February 21, 2016

越境

キーワード:
 コーマック・マッカーシー、メキシコ、旅、世界、運命
メキシコを舞台とした青春小説。以下のようなあらすじとなっている。
十六歳のビリーは、家畜を襲っていた牝狼を罠で捕らえた。いまや近隣で狼は珍しく、メキシコから越境してきたに違いない。父の指示には反するものの、彼は傷つきながらも気高い狼を故郷の山に帰してやりたいとの強い衝動を感じた。そして彼は、家族には何も告げずに、牝狼を連れて不法に国境を越えてしまう。長い旅路の果てに底なしの哀しみが待ち受けているとも知らず―孤高の巨匠が描き上げる、美しく残酷な青春小説。
(カバーの裏から抜粋)
この作品は『国境三部作』と呼ばれるものの2作目で、前作はちょうど2年ほど前に読了していた。前作もとても美しく素晴らしい作品であったが、本作品も前作に劣らず、むしろ超えるような作品である。

舞台は1940年初めのアメリカニューメキシコ州で、牧場で父と母、弟と暮らす16歳のビリーが主人公である。牧場近くにメキシコからやってきた狼を捕らえるために近所の狩の名人のところに罠を借りて、身ごもった牝狼を格闘の末捕獲する。本来ならば狼は処分してしまう予定だったが、ふとその狼をメキシコに戻そうと思い、一人で馬に乗り、山を越えてメキシコに不法侵入する。

メキシコでは狼は商売の道具になるらしく、狼を狙うやつらがいたりするので、道行く人には犬だと言ってごまかしていくが、結局メキシコの警察署長たちといざこざがあって、狼が奪われて見世物にされてしまう。それまでの旅路で狼に対する愛着のようなものもあったので、それを阻止しようと奮闘するが、望んだ結果が得られず、結局アメリカの家に戻ることになる。

そして家に戻ってみると、いろんなことが変わってしまっており、14歳の弟のボイドと盗まれてしまった馬たちを探しに2度目の越境を経て、またメキシコに渡る。いろいろな街や村を二人で馬に乗りながら渡り歩き、野宿をしたり、村人の施しを受けたりし、馬を探し当てるが、馬の所有権を主張するやつらとの対峙を迫られる。

3度目の越境は、ビリーが20歳になったころで、今度は弟を探す旅になる。道中に立ち寄った村で、ビリーの待ち受ける運命について不吉な予感を告げる女と出会う・・・。

個人的な現状は相当暇で、時間が有り余っているのだけど、読了には2ヶ月以上かかった。それだけ長かった。1回に読める量は多くて数十ページ。コーマック・マッカーシー独特の1文の句読点が少ない文章とあまり抑揚のない短い会話が間に挟まり、道中の描写が淡々と続き、物語の起伏もあまりない。この文体に慣れずに表面的な物語のあらすじだけを追っていると、退屈さに挫折するかもしれない。

しかし、ある程度読み進められると、この作品のスゴさがだんだんと分かってくる。まずは圧倒的な美しい情景描写である。これは前作の『すべての美しい馬』も同様であった。どちらかというと、前作のほうがロマンス要素が含まれているので、その要素に対しての優美で印象的なシーンがある。『越境』はロマンス要素がなく、とても残酷な物語であるのできらびやかな美しさはないが、描写の美しさが一級品であることは間違いない。

なんというか、印象派の風景絵画が並ぶ美術館に足を踏み入れたような感覚だった。どの風景画にもビリーや躍動する馬、捕らえた狼、砂埃がまう干煉瓦で作られたメキシコの街並み、星空が降り注ぐ静寂な平原などが、ただただ美しく感嘆するようなものが一貫して描かれている。そしてその風景画にあたかも自分が取り込まれてそこに立っているような感覚に陥っていた。いろんな小説を読んできたが、ここまでの一級の芸術品のような描写は他にないのではないかというほどだった。

旅の道中でいろんな人と出会い、村の人から食べ物を分けてもらったりもするし、ビリーの運命を占いのように予感する人物もいたり、対立するやつらとも遭遇し、ジプシーとの対話もあり、また主人公のビリーが10代という少年期ということもあって、様々な体験を通して内面的に成長していく過程が描かれているビルドゥングスロマンのようでもある。ただ、ビリーの待ち受ける苦難が美しい描写とは対照的にあまりにも残酷である。

ビリーは16歳くらいにしては前作の主人公同様に大人びており、感情の起伏も抑えているようで、達観してさえいる。対照的に弟のボイドは無鉄砲というか、自分の子供っぽさを脱却してビリーに認められたくて少し無茶をしたりするが、兄のビリーから見れば馬の扱い方もうまく、頭もよいとある。兄の弟想いの様子が短い会話の連続でよく描かれている。

また、ビリーの達観した様子が示されており、特に共感した部分を引用しておこう。
人の一生が初めからどこかの本に書き込まれているのだろうと毎日毎日かたちづくられていくのだろうと同じことだ、なぜなら現実はただひとつ、それを生きていくだけのことだからだ。人が自分の人生をかたちづくっていくというのは本当だが人がたったひとつの形しか持てないというのも本当だ、ほかの形もあり得たといってもどうやってそれが分かるのか?
(pp.593)
ここはビリーの言葉であり、すでに起こってしまったことに対しては何も変えられないのだから、すべて受け入れるという境地のように受け取れる。そしてその対話の相手であるジプシーの男、キハーダは、ビリーの「人の行く末がどうなるかなんて分からないもんですね。」に対して以下のように答えている。
行く末がどうなるか分かるとしたら、それでも生きていこうとする人間などいるだろうか?よく人はこの先何が待ち構えているのかなどという。しかし待ち構えているものなど何もありはしない。今日という日は今日までに起こったことで出来あがっている。毎日新しく現れるものを見て世界それ自身が驚いているはずだ。たぶん神様だって驚いているだろう。
(pp.607)
ビリーの行動が直接的な要因ではないのだが、4年間の旅路の果てに大切なものが損なわれていき、10代の少年が受ける苦難にしてはあまりにも残酷な結末を迎える。しかし、コーマック・マッカーシーはそれでも苦難を乗り越えて生きろ、と暗に示しているような気がした。

魔の山』のようなビルドゥングスロマン的な小説は、読者の年齢が主人公の年齢と同じくらいの時に読むのが一番よい。『越境』であれば、16歳から20歳くらいが適当な年齢だ。ただ、高校生でこの作品に出会う人は少ないだろうし、かなり長いし、抽象的な論議も多く、最後まで読むのは難しいかもしれない。また、時間的にも精神的にも余裕がないと、緻密で豊饒な描写をゆっくり脳内で想像はできないかもしれない。よって、この作品の理想的な読書期間は、大学1,2年生の旅行に行くほどの金はあまりないかもしれないが、時間だけはたくさんある暇な夏休みが一番だ。

その時期に読んでおけば、これから自分自身のリアル人生で待ち受ける苦難に対しての精神的な防波堤の役割を果たしてくれるだろう。そしてまた何年かして大人になってから読み返すと、また違った感じ方、自身の成長を実感できるのではないかと思う。かといって、ある程度の年齢を重ねてから初めて読むことになったとしても、この作品のスゴさが損なわれるということは決してない。そして、焦らずにゆっくりと、1文1文を絵画を鑑賞するように読んでほしい。

この2ヶ月は、時間に余裕があったがどこにも旅行にも行かず(単に金欠で行けないというのもあるけれど)、この本を紐解くたびに、ずっとメキシコを馬とともに旅をしていたようだった。その長い旅がようやく終わり、3月から新たな転機を迎え、これから待ち受ける様々な出来事に対してもすべて受け入れる準備ができたような気がした。

この作品を最後まで読了できるということは、ある意味僥倖に巡り合うようなもので、それほどの傑作であり、スゴ本だった。

運命に翻弄される10代の主人公というテーマ性もあり、豊穣で美しい世界に取り込まれ、長い旅路の果てにあなたはビリーとなって、世界と対峙して涙を流すだろう。



越境 (ハヤカワepi文庫)
コーマック・マッカーシー
早川書房
2009-09-10

読むべき人:
  • 美しく長い旅を体験したい人
  • 弟がいる兄である人
  • 困難に立ち向かいたい人
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February 17, 2016

リーダブルコード

キーワード:
 Dustin Boswell/Trevor Foucher、コード、可読性、品質
読みやすいコードを書くための実践的な内容がわかりやすく示されている本。目次はオライリーのページに詳細が載っているのでそちらを参照と。職業プログラマであるなら、なぜ読みやすいコードを書く必要があるかは説明するまでもなく分かるでしょう。それなりの規模の開発になれば、自分一人だけがプログラムするわけでもなく、かならずチームで仕事をすることになる。そのときは人に自分のコードを理解して機能なりを拡張して、プログラムしてもらうことになる。

そんなときに変数名がhogeとか何が入っているかわからず、if文やwhile文が何重にも入れ子になっており、グローバル変数が使われていたり、1クラス、関数の行数が1万行を超えていたり、コメントにはコードの内容をそのまま翻訳しただけの無意味なものが設定されているようなソースコードを読んだりいじったりすることは、どれほど時間がかかり、そして品質に影響を与えるかは、似たようなソースを見たことがある人には腑に落ちるはず。本書はそれらのダメなポイントを列挙し、改善点が示されている。

大学生の時にC言語によってプログラミングを学び始めた時からなるべく本書のような文章読本的なものはそれなりに読んでいた。それなりにできているはずだ、と思って一昔前から話題になっていた本書を改めて読んでみたが、意外にできていない部分もあるなと思った。もちろん、グローバル変数は使わないとかコメントは意味のあるものを設定しようというような基本的な部分は大丈夫なのだけど、一番怪しいのは変数名の設定の仕方のところか。

変数名の設定について言及されている2章のまとめを抜粋しておこう。
  • 明確な単語を選ぶ。
  • tmpやretvalなどの汎用的な名前を避ける。
  • 具体的な名前を使って、物事を詳細に説明する。
  • 変数名に大切な情報を追加する。
  • スコープの大きな変数には長い名前をつける。
  • 文字列やアンダースコアなどに意味を含める。
特にやりがちなのは一時的な値を保持するだけのtmpという変数名を使うこと。それが何が入っているかわかりやすくべきとある。例えばファイル名ならtmp_fileがよいと。tmpを使うには、生存期間が短くて、一時的な保管が最も大切な変数にだけ使用しようとある。ついつい生存期間が長いものにまで使っていたので注意しよう。

変数名に具体的な名前を使用しようとあり、また最善の名前は誤解されない名前を使うべきとある。そのため複数の変数名を検討することが推奨されている。変数名は一般的に英単語を組み合わせると思うので、明確な単語を設定する必要があるなと。しかし、あまり時間がない時や追われていて余裕がない時は安直な名前にしてしまいがちだね。さらに適当な英単語を英辞郎などで調べようと思っても、ネットが遮断されているような客先常駐環境だとどうにもならなくなる。なので、普段から英単語を勉強しておくのがいいと思う。以下とお勧め。だいぶ前の過去最高スコアが610だった。今やったら450前後ですっかり忘れているなぁ・・・。

本書はそのタイトルの通り、読みやすく分かりやすいし、230ページほどで実践的な要点がまとまっているのでお勧め。また、あわせて読みたい本としていくつか類書が列挙されていた。その中で読了済みなのは以下。リーダブルコードも内容としてはよいが、もっと深く学んでおくべき内容なので、個人的にはCODE COMPLETEを強くお勧めする。値が張って読了にもかなり時間を要するが、それだけの先行投資の価値は十分にある。

あまり職場以外で人のコードを読む機会がなかったので、今年はもっといろいろと読んで勉強していこうかなと思う。あとはコードも晒すということもやろうかなと。ブログで駄文をさらしているのに慣れているのでソースコードくらいどうということはないはず。自分のコードはそれなりに美しく読みやすく心がけているので。また持論だけど、美しいコードを書くには普段から美術館で絵を見たり、旅行で美しい風景を見たほうがいいと思っている。

ともかく、何よりも読みやすく美しいコードがとても重要だね。職業プログラマでまだ本書を読んでない人はまず買って読もう。2週間もあれば読めるよ。




読むべき人:
  • プログラマの人
  • 1行でまとめて書くのがイケてると思っている人
  • 美しいコードを書きたい人
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February 05, 2016

ウォール街のランダム・ウォーカー

キーワード:
 バートマン・マルキール、株式投資、インデックス・ファンド、サル、ランダム・ウォーカー
経済学者によって株式投資のさまざまな手法をデータで分析し、その成果のよしあしが示されている本。よくネット記事で株式投資で参考になる本として必ず挙がるほどの株式投資についての名著らしい。8年くらい前に買ってずっと積んでいたのだけど、株で資産形成を図ろうと数年前から実際に株式投資を始めたので、時間をかけて読了。

約500ページほどあり、いろいろとグラフや表など学術的な記載もあって、難しそうなイメージなのだけど、本書の核になるメッセージは単純である。まずタイトルになっているランダム・ウォークについて以下のように示されている。
 ランダム・ウォークというのは、「物事の過去の動きからは、将来の動きや方向性を予測することは不可能である」ということを意味する言葉である。これを株式市場に当てはめると、株価が短期的にどの方向に変化するかを予測するのは、難しいということだ。言い換えれば、専門の投資顧問サービスや証券アナリストの収益予測、複雑なチャートのパターン分析などを用いても、無駄ということである。
(pp.19)
そして本書の一番のメッセージは冒頭で以下のように示されている。
個人投資家にとっては、個々の株式を売買したり、プロのファンドマネジャーが運用する投資信託に投資するよりも、ただインデックス・ファンドを買ってじっと持っているほうが、はるかによい成果を生む
(pp.1)
これを裏付けるために、テクニカル、ファンダメンタルなどの手法、プロのファンドマネジャーの運用成績データやインデックス・ファンドの運用成績などを分析した結果、そのような結論に至ったと示されている。

まず、株価のチャートの過去の動きから将来を予測しようとするテクニカル分析に関しては、過去の株価から未来の株価を予測などできるわけがないので、占いに過ぎないと示されている。チャート(テクニカル)分析の問題点の一つとしては、みなが同じチャートのシグナルに対して同じ行動をとるとしたら、どんなシグナルに基づいて売買したところで何の利益も得られないとある。

また、対象企業の財務諸表や現状の株価が割高か割安かなどのいろいろなデータ見るファンダメンタル分析についてもうまくはいかないと示されている。その理由の一つには、証券アナリストなどが得る情報や分析が必ずしも正しいとは限らないかららしい。さらにたとえ情報が正しく、将来の成長率も適切に予想されるとしても、アナリストがそれに基づく株価評価を誤る可能性があるらしい。

なので個人投資家にとっては、証券アナリストなどやプロのファンドマネージャーの勧める金融商品や個別銘柄を買って短期で売買して手数料を証券会社に儲けさせ、長期的には損失を出すのではなく、安定的に市場平均リターンを得られるインデックス・ファンドを買っておくべきと示されている。また、どうしても自分で有望銘柄で売買したい人は、ポートフォリオの中心部はインデックス・ファンドで運用し、残りを個別銘柄に賭けるという混合スタイルを強く勧めている。

全体を通してとても勉強になった。しかし、テクニカル分析的なものは確かに当てにならないなと実感しつつもファンダメンタル分析についてはもう少し自分なりにやって本当にそうか?を確認したいところかな。

今は個別銘柄にしか投資していないので、インデックス・ファンドもポートフォリオに組み込みたいと思うのだけど、種銭がそんなに多くなく、インデックス・ファンドを中心にしてもあまりリターンが望めないので、どうしてもギャンブルじみた個別銘柄に投資したくなる。数年前にソシャゲ銘柄などが数十倍になったのを目の当たりにしているとついね。ちなみに、保有銘柄の一つは4564で、2年前ほどから注目しているけど絶賛塩漬け中だ!!w

株式投資の本はビジネス書コーナーの近くに行くとたくさんあって、どれから読めばいいかわからないということがあると思う。どれももっともらしいことが書いてあるけど、たまたまうまくいった手法が再現性があるように書かれており、著者を儲けさせるだけの本が多い。株の本をたくさん読んでも株でうまくいっている人はあまりいないらしいので、読むべき本は名著と呼ばれる鉄板のものだけをまず押さえておけばいいのではないかと思う。

読了したのは第9版なので、書影には9版を取り上げているが、最新版は10版なので、買うならそちらをどうぞ。本書は2,484円と高めな値段設定だが、株式投資で売買を繰り返してすぐに損失が数万円以上になってしまうのに比べたらはるかに安く、読めば無駄に損失を出すことも少なくなり、また長期的にリターンをもたらしてくれるかもしれないので、株式投資を本格的にやろうと思う人は、先行投資として最初のほうに読んでおくのをお勧めする。読了まではちょっと面倒だけどね。



ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理
バートン マルキール
日本経済新聞出版社
2007-05-25

読むべき人:
  • 株式投資をやっている人
  • 株価は予想できる!!と思っている人
  • 年始から日経ヘイキンズにやられている人
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January 26, 2016

クリムゾンの迷宮

キーワード:
 貴志祐介、ゼロサム、ゲーム、サバイバル、深紅色
サバイバルゲーム小説。
藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目が覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。ここはどこなんだ?傍らに置かれた携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された……」それは、血で血を洗う凄惨なゼロサム・ゲームの始まりだった。綿密な取材と斬新な着想で、日本ホラー界の新たな地平を切り拓く傑作長編。
(カバーの裏から抜粋)
貴志祐介の作品はこれが初めてだった。本書は先日行われたスゴ本オフ『ゲーム』に参加し、じゃんけん争奪戦をすることなく不戦勝でゲットした本だった。ゲームブック的で凄惨なお話とプレゼンされて、またよく2chの面白い本まとめスレに挙がっていたので気になっていた作品であった。

主人公が目覚めると、奇岩が連なるクリムゾン色の景色が目に飛び込んできて、脈絡もなくなぜそこにいるのかがわかっていない。隣にはわずかな水と食料と携帯ゲーム機があるだけだ。なるほど、目覚めから始まって突然サバイバルゲームに参加させられるよくある設定だなと思って読み始めた。

これ系の設定の映画や漫画はよく鑑賞した。Amazonのレビューにあるように「バトルロワイアル」、「CUBE」、「ソウ」に似ているなと。さらに追加するなら、『パンドラム』要素もあるし、ゲーム的な要素なら『BTOOOM!』がより近い。ここまで示すと大体どんな内容なのかは容易に想像できるでしょう。強制的にゲームに参加させられて殺し合うという、よくある設定だ。

しかし、スタートはよくある設定で展開も結末もなんとなく想像がつくのだけど、ものすごく引き込まれていく。ゲーム機の指示に従って目的のチェックポイントに向かい、ゲーム的にアイテムを獲得し、主人公たちはいろいろと選択を迫られ、他プレイヤーとの駆け引きがあり、火星という設定の地球のどこかでのサバイバルの方法も勉強になりつつ、さらにゲームが進むにつれて主人公がゲームの目的に勘付きはじめたあたりから主人公がどんどん追いつめられていき、続きが激しく気になってページが一気に進む!!

難しい描写も説明もなく、割と短い文章と引き込まれる展開なので、読書スピードがそれなりに速い人なら集中して3,4時間で読めると思う。僕は寝不足で集中力が続かなかったので、2日に分けて読了したが、それでも約400ページの小説をここまで速く読めたのは本当に久しぶりで、かなり熱中できて面白かった。

お勧めされた通りのスゴ本だった。



クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)
貴志 祐介
角川書店(角川グループパブリッシング)
1999-04-09

読むべき人:
  • ゲームが好きな人
  • 小説を一気読みする経験をしたい人
  • サバイバルを疑似体験したい人
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January 22, 2016

Yコンビネーター

キーワード:
 ランダル・ストロス、ポール・グレアム、ハッカー、シリコンバレー、スタートアップ
Yコンビネーターというシリコンバレーのスタートアップ企業に投資するベンチャーキャピタルの実情が取材によってまとめられた本。以下のような目次となっている。
  1. 第1章 面接
  2. 第2章 YCパートナー
  3. 第3章 シリコンバレーに来い
  4. 第4章 女性起業家はなぜ少ない
  5. 第5章 クレージーだがまとも
  6. 第6章 アイデアに行き詰まる
  7. 第7章 新しいものを作り続けろ
  8. 第8章 エンジェル投資家
  9. 第9章 契約は必ず成立させろ
  10. 第10章 営業マン探しは難しい
  11. 第11章 プロトタイプ発表
  12. 第12章 ハッカソン
  13. 第13章 ピボットの決断
  14. 第14章 リスクと変曲点
  15. 第15章 共同創業者がすべて
  16. 第16章 残りあとわずか2週間
  17. 第17章 最終リハーサル
  18. 第18章 離陸準備完了
  19. 第19章 デモ・デー
  20. 第20章 最後の夕食会
  21. 第21章 ソフトウェアが世界を食う
(目次から抜粋)
Yコンビネーターというのは、ハッカーであり自身もスタートアップ企業Viawebを作成してYahoo!に買収されたポール・グレアムが率いるベンチャーキャピタルである。Yコンビネーターが投資して大化けした会社はDropboxHeroku Airbnb が代表格だ。Yコンビネーターはシリコンバレーにあり、スタートアップを志望する各ハッカーが所属するチームなりがこのベンチャーキャピタルのスタートアップ養成プログラムに応募する。そこでポール・グレアムたちによる面接で『新しいユーザがこのプロダクトを使ってみようと思う理由は?』など15の質問がされる。応募数約2000のチームから約64チームほどに選抜され、それらのチームは夏休みの3ヵ月間にそれぞれのアイディアを元に寝る、食べる、時々運動する以外の起きている間はひたすらプログラミングをしてサービスを作り上げる。

ポール・グレアムはスタートアップの創業者になるのに最適な時期を以下のように示している。
「32歳はおそらく25歳より優れたプログラマーだろうが、同時に生活コストがはるかに高くなっている。25歳はスタミナ、貧乏、根無し草性、同僚、無知といった起業に必要なあらゆる利点を備えている」
(pp.44-45)
集まってくるチームは大体20代が多く、一番若いメンバーでも18歳で、もちろん妻子持ちの30歳過ぎのメンバーもいる。参加者のほとんどはハッカーである。また、クラーキーというチームは面倒な法的な書類手続きを自動化するサービスを開発しており、メンバーはハッカーでかつ弁護士という強みを持つ。基本的にどのチームもプログラミングができるハッカーで構成されているが、他分野の研究者などでハッカーではないメンバーも含まれているチームもある。

Yコンビネーターは大学院の研究室のような集まりでもあり、オフィスアワーが設けられており、予約さえすれば各チームはポール・グレアムの助言を受けることができる。アイディアに行き詰まったチームは、ポール・グレアムに相談に行く。そして、アイディアを生み出すための3ヶ条としてポール・グレアムは以下のように示す。
  1. 創業者自身が使いたいサービスであること
  2. 創業者以外が作り上げるのが難しいサービスであること
  3. 巨大に成長する可能性を秘めていることに人が気づいていないこと
    (pp.127)
ポール・グレアムは客観的に時には過去の経験からの直観で各チームのアイデアや方向性に将来性がないものはダメだしをする。しかし、各チームのメンバーはダメだしされた後でも、ポール・グレアムとの相談のあとはやる気に満ちている。

また、ポール・グレアムは「急いでローンチしろ」が口癖である。
なにかアイデアを思いついたら最小限動くモデルをできるだけ早く作れ。作りかけのプロトタイプでもかまわない。とにかく現実のユーザーの手元に届けて反応を見る。そうして初めてそのプロダクトがユーザーが求めていたものなのかどうかがわかる。急いでローンチすることによって人が求めているものがわかるのだ。
(pp.142)
さらに「数字で測れるものを作れ」と示す。

各チームはそれぞれの当初のアイデアがそのまま進められるわけではない。大体3分の1ほどが方向転換を迫られて、急いで作り直しを要求される。そして3ヵ月の期間の最後のデモ・デーでは各チーム2分半ほどの時間が与えられ、他のベンチャーキャピタルなどが多数集まる前でプレゼンする。そこでうまくいけば、さらに数十~数百万ドルの資金を調達し、起業にこぎつけられる。2011年の学期ではデモ・デーの1週間前にはまともなコンテンツもなくプログラミング学習をオンラインでやるというチームがあったが、ローンチしてみるとユーザー数を劇的に獲得し、250万ドルの資金を獲得して成功した。それが Codecademyとなる。

これらのYコンビネーターのスタートアップ養成プログラムの内情が著者の綿密な取材によってノンフィクションとしてまとめられている。これはシリコンバレーに行ってそれぞれのスタートアップチームと一緒にひたすらプログラミングをし、行き詰ったらポール・グレアムのところに相談に行き、他のチームのプロトタイプ発表を聞きながら称賛を送ったり自分たちと比較して焦ったりし、最後のプレゼンでベンチャーキャピタルから投資を受けるまでを一緒に疑似体験しているような本で、これはスゴイ!!と思った。

60チーム近くのスタートアップが一同に集まってひたすら3ヵ月間缶詰になってプログラミングできるシリコンバレーのこの環境がとてもうらやましいと思った。別に僕はハッカーでもなく起業精神も皆無なのだけど、なぜこの場にいないのだろう!?と思わされた。こんな環境にいられたらたとえ失敗しても(ポール・グレアムはもほとんどは失敗するだろうと示している)人脈も含めて大きな経験になるだろうなと思った。また、このような場が提供されているからこそアメリカのスタートアップ文化は強いのだろうなと思った。

ポール・グレアムの的確な意見がとても勉強になっていろいろと線を引きまくった。ハッカーというとプログラミングだけに精通しているイメージがあるが、サービスなりをローンチして、顧客と話をしろ、営業に強くなくてはダメだという助言や人間系の部分や経営についても言及されており、スタートアップ起業家のハッカー像は全然別物なのだなとわかった。そして、それらの助言はWebサービスをやっている人やこれから起業しようとする人には間違いなく勉強になる内容だ。

また、本書を読んでいると自分も何かサービスなりを作って起業してみたいと触発される。しかし、ポール・グレアムは以下のように示している。
スタートアップの創業者、すくなくともYCが求めているようなハッカーの創業者は13歳ごろからプログラミングを始めている必要がある。
(pp.102)
むしろ13歳は遅いくらいだ、とも示していて、18歳からプログラミングを始めてそこまで入れ込んでプログラミングができない自分にはもう手遅れだなと思ったのであった。しかし、2015年の冬季では参加者の平均年齢が約30歳とあり、もしかしたら必ずしも13歳からプログラミングに触れていることが必須ではないのかもしれない。なので、今大学生くらいでプログラミングをガッツり勉強していて、将来は自分で起業したいと思う人は絶対これを読め!!と言っておこう。これを読んでシリコンバレーに行くという選択肢が目の前にあるということを知っておいて損はない。

ちなみに本書は前回読んだ以下の本で取り上げられていたので、気になって買ってみた。また、本書を読む前提としてポール・グレアムがどういう人物かを知っておくのがよいので、以下のエッセイをあわせて読むのがよい。本書はアメリカのシリコンバレーのスタートアップがどのように生まれているのかがよく分かるノンフィクションであり、またWebサービスなどを従事している人にはとても勉強にもなるし、アメリカのスタートアップへのベンチャーキャピタルの実態も分かるし、起業経営的な部分も勉強になるし、Yコンビネーターのプログラムを疑似体験しているようですごく面白い。なによりも、読んでいると野心に火をつけられるような、そんな1冊。

大抵のビジネス書はそんなにお勧めはしないのだけど、これは絶対勉強になるし面白いのでMust Buyだ!!




読むべき人:
  • ハッカーを目指している人
  • 将来Webサービスなどで起業したい人
  • くすぶっている野心に火をつけたい人
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January 11, 2016

戦略読書

キーワード:
 三谷宏治、戦略、読書、資源配分、オリジナリティ
戦略的に読書をする方法が示されている本。以下のような目次となっている。
  1. はじめに
  2. 序章 戦略読書のススメ――読書には戦略が必要なのだ
  3. 第1章 読書ポートフォリオ・シフト――セグメント管理で資源配分を変える
  4. 第2章 セグメント別戦略読書――読み方を変えて効率的にリターンを得る
  5. 楽章1 ボクたちは読んだものでできている――私的読書全史
  6. 第3章 発見型読書法――5つの視点で5倍読み取る読め方革命
  7. 第4章 知のオープン化――書斎と本棚と魔法の1冊
  8. 楽章2 みんなと同じ本を読んではいけない――オリジナリティを育てる珠玉の12冊
  9. 終章 知と行のサイクル――読書→思索・行動→発信→スキル
  10. おわりに
  11. 付録 セグメント別ブックガイド――独自の視点と思考をつくるための424冊
(目次から抜粋)
著者はBCGで戦略コンサルタントからキャリアをスタートさせており、あるとき仕事の場で同僚とまったく同じことを言っていることに気づく。それは同じようなビジネス書ばかりを読んでいたからであり、自分自身をコモディティ化させず、オリジナリティを確保するためには、他の人と違う本を読むべきと示されている。そして社会人のどのタイミングで何を重点的に読むとよいかが図解や書評、著者の生い立ちを含めた読書遍歴などを交えてわかりやすく示されている。

本書の目的が端的に示されているところが「おわりに」にあるのでそこを抜粋。
  1. 読者諸氏が自らの読書に「戦略」を持ち込み
  2. そこでスキルと経験を効率よく得て、自己を改造し
  3. 量産機(コモディティ)にならず、オリジナリティのある存在(量産機改造型試作機)になること
    (pp.367)
そのためには、社会人1年目はビジネス書(自分の専門分野)を1年で100冊読み、2〜3年目はビジネス系と非ビジネス系(趣味や教養書)を1対1の割合にし、社会人5〜10年目からは100冊を目標としつつも量より質重視でビジネス系よりも非ビジネス系の割合を増やし、キャリアチェンジ準備期間はその行き先のビジネス系をメインで読み、慣れてきたら非ビジネス系も復活させる、というようなポートフォリオを意識して読むべきとある。

著者の示す戦略的な読書論はとても参考になるし、特に異論はない。僕が社会人になりたての頃に本書に出会っていたら、読む本に迷ったり悩んだりしなかっただろうと思う。また、ビジネス書ばかり読むことに対する危機感もあったりで、オリジナリティを意識して多様に読むようにはしてきた。しかし、本書のような戦略的な読書をできる人は一体どれだけいるのだろうか?これはある意味戦略系コンサルタントになるための大リーグ養成ギブスのような、相当しんどい読書指南書でもあるような気がする。

この読書ブログは社会人になりたての4月から継続してきてやっているから言えるのだけど、年間100冊読むのは結構しんどい。もともと読書に慣れていない人が月8冊以上読むのは難しいだろうし、本書に示されているようなビジネス書は戦略系の本とかマーケティングの本とか難しめでページ数の多いものばかりである。これをフルタイムで働きながら読みこなすのは大変だろう。もちろん精読する必要はないし、著者も示すように雑誌もカウントしてよいとのことだが。

どのようなジャンルの本をどれだけ読むかの資源配分を意識して読むべきと示されているが、その資源には自分の時間とモチベーションも考慮する必要がある。仕事、睡眠、食事、風呂などの生活に必要な時間やゲームやネットなど余暇の時間もきっちり意識的に配分していかなくてはいけない。それをそこまで徹底的にやるときに、どれだけモチベーションを保てるかが鍵になるだろう。僕は読書ブログを継続することで何とかできたが、それでも著者の示す理想的な戦略には程遠い結果となった(それはこのブログの左のサイドバーの図書リストリンクから知ることができるが)。

現在大学生で将来は戦略系のコンサルタントになりたい、もしくは社会人の1年目くらいの人はこの戦略読書に従って読むのがよい。特に何も考えずにやってみることをお勧めする。実際に自分が戦略コンサルに向いているかどうかわかると思う。仕事が激しく忙しい合間にそれなりに難解な本を継続的に読み込まなくてはいけないので。おそらく著者の示すとおりに実行できる人は100人に1人いるかどうかではなかろうか。

ある程度の社会人歴のある人やそんなに読書に慣れていない普通の人は本書を読んでどう活かすか?については、それぞれ著者が示すお勧め本を元に自分なりのポートフォリオを組んでいくのがよいと思う。著者の示す読書戦略をみっちりやるには若干手遅れ感があるし。かといって今からみっちりなぞってやることが無駄だということはないが。

本書ではビジネス書と科学、SF、歴史書、プロフェッショナリズムが啓発される本という軸でお勧め本が435冊ほど示されている。SF小説は結構コアのものが多く示されているし、読んだこともある本もあったりで共感できる。逆に科学本はほとんど読んだことがないものばかりなので、そこは自分のポートフォリオとしては弱いところなので強化していきたいと思った。また『バガボンド』、『寄生獣』、『MASTERキートン』、『動物のお医者さん』など漫画もたくさん紹介されているので、読んでみたいと思う本が多く見つかると思う。それをAmazonのほしいものリストに突っ込んでいくとさらによい。

とはいっても、海外文学やエッセイなどはほとんど紹介がなかったり、歴史系の漫画で『チェーザレ』、『ヒストリエ』が紹介されているのに『キングダム』とか『ヴィンランド・サガ』はないの!?というような突っ込みたいところは随所に出てくる。そういう自分ならこのテーマではこれを推薦する!!みたいなことを考えられるのも面白いと思う。

ちなみにKindleの無料お試し版というのがあるらしく、それにはお勧め本435冊がすべて載っているらしいので、お勧め本だけ知りたい人はまずはこちらを読んでみるとよい。また、お勧めされている本で過去にこのブログで取り上げた本は以下となる。9冊と案外少なかった。

2016年の1冊目は本書となった。なるべく戦略的に読書していこうかなとは思う。一応キャリアチェンジ期間にあたるので、その分野の本(技術書)をメインで読むべきなのだけど、どうなるかは終わって見ないことにはわからない。読書に限らず資源配分はもう永遠の課題。科学本などあまり読んでこなかったジャンルを含めつつ今年はなるべく多様に読みたい。今年の目標は50冊の予定。週1更新。ということで、今年もよろしく!!



戦略読書
三谷 宏治
ダイヤモンド社
2015-12-18

読むべき人:
  • 戦略コンサルタントになりたい人
  • ビジネス書ばかり読んでいる人
  • 読むべき本を探している人
Amazon.co.jpで『三谷宏治』の他の本を見る

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December 13, 2015

ワーク・シフト

キーワード:
 リンダ・グラットン、変化、働き方、コミュニティ、未来予想
近未来の働き方について示されている本。以下のような目次となっている。
  1. プロローグ 働き方の未来は今日始まる
  2. 序章 働き方の未来を予測する
  3. 第1章 未来を形づくる五つの要因
  4. 第2章 いつも時間に追われ続ける未来―三分刻みの世界がやって来る
  5. 第3章 孤独にさいなまれる未来―人とのつながりが断ち切られる
  6. 第4章 繁栄から締め出される未来―新しい貧困層が生まれる
  7. 第5章 コ・クリエーションの未来―みんなの力で大きな仕事をやり遂げる
  8. 第6章 積極的に社会と関わる未来―共感とバランスのある人生を送る
  9. 第7章 ミニ起業家が活躍する未来―創造的な人生を切り開く
  10. 第8章 第一のシフト―ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ
  11. 第9章 第二のシフト―孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ
  12. 第10章 第三のシフト―大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ
  13. エピローグ 未来のために知っておくべきこと
(目次から抜粋)
本書が書かれたのは2012年ともう3年前である。2012年の当時に2025年の生活環境がどう変わって、それに伴って働き方をどのように変えていくべきなのか?という未来予想とともにいろいろと示されている。Kindle版が安かったので、Kindle版を買って読んだ。

世界のグローバル化がより進み、家族の形態も変わり、それぞれが別の国に住んだりするようになり、高度IT化も進むので、働き方や生き方について以下の3つの点でシフトさせるべきとある。
  1. ゼネラリストになるのではなくスペシャリストとして、専門技能の習熟に土台を置くキャリアを意識的に築くこと
  2. せわしなく時間に終われる生活を脱却しても必ずしも孤独を味わうわけでもなく、いろいろな分野の人が集まるコミュニティなどに所属して緩い人間関係を構築して協業すること
  3. すべての時間やエネルギーを仕事に吸い取られて、消費をひたすら追求する人生を脱却し、情熱的になにかを生み出したりやりがいを味わえてバランスのとれた働き方、人生に転換すること
大雑把にまとめるとこのようになる。僕自身、働き方そのものを根本的にそろそろ変えなければいろいろと破綻したり消耗するだけの人生に終わってしまうという危機感があったので、これらの提言は参考になった。いくつか本当にそうか?と思う部分もあるけれど。

第1のシフトについては、確かに世の中スペシャリストになるべきと言う傾向はあるかもしれないけど、スペシャリストの職がIT化がどんどん進むと消えてしまうというリスクも考慮しなくてはいけないし、必ずしも専門分野を絞りすぎない方がいろんな可能性もあるのではないか?とも思う。もちろん複数分野を同時にやっていくと仕事で使えるほどのものにはならないので、ある程度絞る必要はあるけど。2つくらいなら戦士+魔法使い=魔法戦士、みたいな組み合わせで違う方向性にも可能性が広がるとも思う。もちろん同時にやるより1つずつやったほうがいいかもだけど。

第2のシフトで自己再生のコミュニティの重要性が示されている。SNSの発展などネット上でつながりはあってもどこか孤独に陥ってしまいがちになると。そのためリアルでの人間関係が重要であると。これについて言及されているところを抜粋。
 この点で重要性を増すのが「自己再生のコミュニティ」だ。この種の人的ネットワークは、バーチャル空間の人間関係でないという点でビッグアイデア・クラウドと異なり、自分と同様の専門技能の持ち主で構成されるわけではないという点でボッセとも異なる。自己再生のコミュニティのメンバーとは、現実の世界で頻繁に会い、一緒に食事をしたり、冗談を言って笑い合ったり、プライベートなことを語り合ったりして、くつろいで時間を過ごす。生活の質を高め、心の幸福を感じるために、このような人間関係が重要になる。
(pp.309)
これは最近特に重要だなと実感する。休職中だと基本的に人に会う機会がなく、家で1人で過ごしたりすることが多く、どうしても孤独を感じてしまうが、リアルで会える友人たちがいるので、週1回は最低でも会って食事をしたり飲んだりして精神的な健全を保てている。その友人たちというのは、高校、大学という半自動で形成される人だけではなく、社会人になって意識的に築いた人間関係の人たちが多い。

例えば、僕が主催者の1人である同学年の集まりである83年会などでは、月1回必ず主要メンバーと会っている。今年は各自の仕事の分野などをメンバーに紹介したりするという勉強会を月1回継続してやってきた。これは結果的に8年前くらいの25歳の時にこの会を作っておいて本当によかったと思う。メンバーのバックグラウンドも多様なので知らない世界を知ることができたりととても刺激になる。ちなみに同学年(1983年4月〜1984年3月生まれ)の新規メンバーは常時募集なので、参加してみたい人はよかったら左のサイドバーのメールアドレスにどうぞ。

あとはスゴ本オフ(Book Talk Cafe)など、仕事とは関係ない趣味系のコミュニティに属するのもよい。そこから人間関係も広がっていくし、やはり楽しいと思うし。社会人になると人間関係が仕事関係とかこれまでの学友などで固定化しがちになってしまう。新しい人間関係を意識的に築くのは億劫だし、人見知りが激しかったりするといろいろ大変だけど、一歩踏み出していそういうコミュニティに行って見ればよい経験になると思うし、人生が好転するかもしれない。

第3のシフトについては過労気味ではダメなので好きなこと、情熱を持てる分野の仕事をしようというようなことが示されているのは納得できた。まだ好きなことを仕事にはできていないので、これはそろそろ意識的にシフトしていく予定。とはいえ、好きなことを仕事にしないほうがいいという説もあるけど、とりあえず自分が試にやって見ないことには何とも言えない。少なくともまったく興味のない金融システムとかバッチでデータを右から左へ流すだけのシステムを作ったりするのは嫌になってきたので、転職することにした。

キャリアについて意識的に変えていけるところは変えた方がいいのは言うまでもない。しかし、自分自身や世界の未来について確実に何がどうなるか?は誰にもわからないし、自分が予定していたキャリアを順調に進めることもないだろうと思う。運とか偶然の要素に大分左右されるのが常だし。ある程度の方向性を確定してから、柔軟にいろいろな状況に対処できるようになっておきたい。あと仕事し過ぎな生き方は勘弁だなと。もちろん、仕事そのものを楽しめればいいのだけどね。

本書の未来予想はどれだけ当たるかはわからないけれど、将来の自分の働き方を考えるきっかけにはよいと思う。ちなみにこの記事投稿時点でKindle版は810円と63%オフになっているのでお買い得なので、ぜひ。




読むべき人:
  • 自分のキャリアを考えたい人
  • 転職しようと思っている人
  • 過労気味で人間関係が希薄だと思っている人
Amazon.co.jpで『リンダ・グラットン』の他の本を見る

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December 06, 2015

Rのつく月には気をつけよう

キーワード:
 石持浅海、グルメ、酒、ミステリー、宅飲み
短編グルメ・ミステリー小説。以下のようなあらすじとなっている。
湯浅夏美と長江高明、熊井渚の三人は、大学時代からの飲み仲間。毎回うまい酒においしい肴は当たり前。そこに誰かが連れてくるゲストは、定番の飲み会にアクセントをつける格好のネタ元だ。今晩もほら、気持ちよく酔いもまわり口が軽くなった頃、盛り上がるのはなんといっても恋愛話で…。ミステリーファン注目の著者が贈る傑作グルメ・ミステリー。
(カバーの裏から抜粋)
著者の作品は一度も読んだことはなかったが、実家の近所の郊外型大型書店で読んだら食べたくなる本、としてお勧めされていた。そしてこのタイトル。牡蠣好きならおやっと思わせられるタイトル。食に対する執着が人より強いこともあり、牡蠣以外のグルメ系のエッセイなども好んで読むので、買わないわけにはいかなかった。なんとなく最近は短編小説な気分でもあったし。

主な登場人物たちは大学時代からの飲み仲間で、長江高明のマンションの部屋で宅飲みが開催される。そのときに必ず3人のうちの誰か知人や友人などのゲストが招かれ、そこで飲みながらいろいろと語るうちに、そのゲストがその時に食べる料理にまつわる小事件が起こったことや問題を抱えているという状況にある。それを頭脳明晰な長江高明が話の内容から推理して、事の真相を解明する、というグルメ・ミステリー調の短編小説集である。

話の内容は以下の7編となる。
  1. Rのつく月には気をつけよう
  2. 夢のかけら 麺のかけら
  3. 火傷をしないように
  4. のんびりと時間をかけて
  5. 身体によくても、ほどほどに
  6. 悪魔のキス
  7. 煙は美人の方へ
それぞれのタイトルに出てくる料理と酒は以下となる。
  • シングルモルト・ウィスキーと生ガキ
  • ビールとお湯なしチキンラーメン
  • 白ワインとチーズフォンデュ
  • 泡盛と豚の角煮
  • 日本酒とぎんなん
  • ブランデーとそば粉のパンケーキ
  • シャンパーニュとスモークサーモン
各章のイラスト、表紙にそれぞれのお酒の絵が描かれているのもポイント。

肝心の内容なのだけど、読んだ後に食べたくなったかと言うと若干微妙な気がした。料理と酒はミステリーの導出のためにあるので、そこまで詳しい描写でもなく、薀蓄が載っているわけでもない。どちらかというとそれぞれの登場人物の人間関係の説明がほとんどで、ミステリーの解明を楽しむような内容かな。また、長江高明は話し手の会話だけで真相解明をするのだから頭よすぎでしょ!?とか突っ込みたくはなるけど。

それぞれの話が独立しているので割と気軽に読める。一応主要メンバー3人は毎回出てくるけど。そういう人間関係もいいなと思う。お勧めは最後の『煙は美人の方へ』かな。「煙も眉目よい方へならでは靡かぬ」ということわざがあるらしく(今ググって初めて知った。意味はここ参照。)、それをなぞったお話。爆発しろ案件なので最後に読むのがよろしいw

食べたくなるかは微妙だけど、なんだか友人たちと宅飲みしたくなる短編小説だった。



おまけ
今日は日比谷公園のこれに行ってきた。

全22種類が大集結「ご当地鍋フェス@日比谷公園」が3日間限定で開催されてるぞーーー! 外で食べる鍋ウンメェェェエエエエッ!! | ロケットニュース24

そこで食べた牡蠣の土手鍋が(゚д゚)ウマーだった。

nabe

やはり冬場の宅飲みは鍋に限る。17時くらいからダラダラ飲みつつ、鍋を食べて、眠くなったらちょっと寝るみたいなのが特によろしい。さらにこたつがあれば最強!!w




読むべき人:
  • 牡蠣が好きな人
  • お酒が好きな人
  • 友人同士で語りながら飲みたい人
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November 30, 2015

ジョコビッチの生まれ変わる食事

キーワード:
 ノバク・ジョコビッチ、グルテン、小麦、食事、自伝
ジョコビッチによるグルテンフリー推奨健康本。以下のような目次となっている。
  1. 序章 私を生まれ変わらせた食事―わずか18カ月でドン底から世界王者へ
  2. 第1章 バックハンドと防空壕―すべてのプロテニス選手が富裕層のカントリークラブから出てくるわけではない
  3. 第2章 夢を叶えた、私の食べ方―私はどうやって世界一のテニスプレーヤーになったのか?
  4. 第3章 オープンマインドになるだけで体は変わる―あなたの人生を激変させる14日間
  5. 第4章 あなたの動きと思考を邪魔するもの―頭と体を密かに鈍らせているものの正体
  6. 第5章 食事に関する、私のルール―勝利するための食卓
  7. 第6章 圧倒的成果を出す、思考のトレーニング―集中力強化とストレス解消戦略
  8. 第7章 誰でもできる簡単なフィットネスプラン―ビジネスにも日常にも活かせるエクササイズ
(目次から抜粋)
ジョコビッチ、と言う人はテニスプレイヤーだというくらいの認識しかなかった。どこの出身で世界ランキング何位かも全く知らなかった。食事に関して学ぶところがあると、お勧めされて読んでみた。ジョコビッチは上位テニスプレーヤーであったが、どうしても勝ちきれないでいた。試合中に動きが鈍り、胸は締め付けられて、呼吸もできなくなり昏倒してしまうということがあった。トレーニングを見直し、メンタル面も強化しても同じようなことが続き改善しないでいた。いろいろあって、原因は普段食べている小麦に含まれているグルテンという物質であり、そのグルテンを摂取しない食事を心がけたところ動きが改善されて世界ランク1位になれたとある。

本書はジョコビッチの食事内容をそのままトレースするようなものではなく、食事からフィジカル、メンタルまで総合的に見直しをして健康的になりましょうという本。ジョコビッチ自身も示しているように、肉体は一人ひとり違うので、ジョコビッチの最高の食事をそのままとってもらいたいわけではなく、読者にとっての最高の食事が何かを知る術を伝えたいとあった。

そもそもグルテンは小麦やライ麦、大麦などの穀物に含まれているタンパク質で、これを食べることによって速く血糖値を上げてしまい、そこで大量のインシュリンが体内で必要になり、内臓脂肪が蓄積され、毒物を放出し肉体のさまざまな部分に炎症を起こし、長期的に健康に影響をもたらすらしい。よってジョコビッチのような一流のアスリートだけではなく、普通の人もグルテンフリーの食事が推奨だと示されている。

そしてグルテンが含まれている食べ物はパン、パスタ類、ケーキ、ドーナツなどのスイーツ全般、小麦で作られたスナック類、ビールや麦芽から蒸留されたアルコール飲料、ソーセージなどの加工食品、一部の卵・ナッツ製品、マリネおよび調味料、一部の乳製品、加工チーズ、揚げ物の肉と魚などにまで多岐にわたる。これらをまず2週間できるだけ摂取しないようにすると、ジョコビッチの体の動きは各段に改善されたようだ。

本書の医学的根拠の説明の部分があまり詳しく示されていないので、本当に正しいのか?という部分は若干気になるところである。東洋医学的の研究例として、ポジティブな言葉をかけた水とネガティブな言葉をかけた水の違いが云々という記述などはいかがなものかと思うが、そこはジョコビッチ自身研究者でも専門家でもなく、本書全体を通して自分がうまく行った事例を紹介しているだけなので大目に見るべきところか。グルテンフリーの仕組みや根拠については別の本を参照したほうがよさそうだ。

僕は腎臓障害を患っているので、1日のタンパク質の摂取量を合計40gまでにする食事制限をしなくてはならないから、結果的にある程度グルテンフリーになっている。乳製品は極力取らず、パンもほとんど食べず、お菓子も基本的に食べない。パスタやビールは好んで飲み食いしてしまうので、それらを制限して2週間断つくらいはできる。しかし、揚げ物、特に大好物である冬場のカキフライを2週間も断つことはできるだろうか!?と激しい葛藤に襲われるwころもをつける前に小麦粉をまぶしたり、ころもそのもののパン粉に小麦粉が使用されているからね。ということで、実際にグルテンフリーをやるなら春以降かな。

日々の食事が自分の体にどれだけ影響を与えているのかを見直す良いきっかけになった。もしかしたら普段何気なく食べているものがアレルギー反応を起こして持病に影響している可能性も無きにしも非ずなので、ジョコビッチがやったように食物アレルギーの検査でもしようかと思ったりした。

本書はグルテンフリーや睡眠やストレッチについて主に言及されているが、ジョコビッチのセルビア・ベオグラードでの戦争下での生い立ちやテニスプレーヤーになるまで、テニスで勝つためにはコーチも含めたチーム戦であるということなどの逸話も興味深く読める。また、ジョコビッチの人徳というかプロフェッショナリズムがにじみ出てくるような内容で、そういう部分が健康志向とは別に参考になった。



ジョコビッチの生まれ変わる食事
ノバク・ジョコビッチ
三五館
2015-03-21

読むべき人:
  • グルテンフリーに関心がある人
  • 日々の食事を見直ししたい人
  • テニスプレイヤーの人
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November 14, 2015

ペンギンの憂鬱

キーワード:
 アンドレイ・クルコフ、皇帝ペンギン、追悼、疑似家族、不条理
ウクライナの作家によるロシア語小説。以下のようなあらすじとなっている。
恋人に去られた孤独なヴィクトルは、憂鬱症のペンギンと暮らす売れない小説家。生活のために新聞の死亡記事を書く仕事を始めたが、そのうちまだ生きている大物政治家や財界人や軍人たちの「追悼記事」をあらかじめ書いておく仕事を頼まれ、やがてその大物たちが次々に死んでいく。舞台はソ連崩壊後の新生国家ウクライナの首都キエフ。ヴィクトルの身辺にも不穏な影がちらつく。そしてペンギンの運命は…。欧米各国で翻訳され絶大な賞賛と人気を得た、不条理で物語にみちた長編小説。
(そでから抜粋)
新潮クレストブックは好きなレーベルであるが、大型書店でもまとまって置いてあるところは少ない。本書は地元の紀伊國屋書店で面陳されていた。タイトルとイラストを見て、もうこれは直観的に面白いに違いない!!と思ってジャケ買いした。

主人公は40歳くらいで、売れない小説家で、短編小説ならいくつか書いたことがあるが、長編は書いたことがなかった。一人暮らしで、動物園で規模縮小のために引き取った皇帝ペンギンを飼っている。しかし、その皇帝ペンギンは後になって憂鬱症を患っていると知る。また、主人公は新聞社に短編小説を売り込みに行ったら、文才を認められるが、生きているわけありの大物の人物たちの追悼記事を書く仕事を依頼され、淡々と書いて、新聞社に届けていたところ、あるときその人物たちが次々と実際に死に始める。

また、新聞社の編集長の知り合いの男が友人の追悼記事を書いてくれとやってきて、その男の4歳くらいの娘、ソーニャを預かってくれと言い、主人公は引き取ることになる。後でソーニャのペビーシッターとして20歳くらいのニーナという娘も加わり、皇帝ペンギンと幼女と若い女性との共同暮らしが始まって淡々と日常が進んでいくが、次第に主人公の周りで事件が起きていく。

不思議な雰囲気の生活が描かれている小説だなと思った。ウクライナの首都キエフ - Wikipediaというところはなんとなくロシア的な陰鬱な街並みなのだと勝手に想像するけど、そこで主人公は派手な暮らしでもなく、かといって貧乏というほどでもなく淡々と追悼記事を書いている。朝目覚めてコーヒーを飲み、ハムとかの食事を作り、皇帝ペンギンのミーシャには冷凍のタラとかサケを皿に入れてやると勝手に食べる。時折風呂場に水を貼ってやると水浴びしたりする。ソーニャがやって来てからはペンギンと出かけて散歩したり遊んだり、ソーニャはミーシャの意思が分かるようでもある。

皇帝ペンギン(コウテイペンギン - Wikipedia)のミーシャは1メートルくらいの背丈であるが、物言わずペタペタと部屋の中を歩き回っている。犬のように特に主人公に対して愛情表現とか従順な態度を見せるわけでもないが、たまに主人公の膝当たりを抱きついたりする。本来南極で群れで生活するらしいが、1匹だけ南極より暖かいところにいるので憂鬱症を患っているらしい。そういうのも含めて、この物語はミーシャがとても重要な役割を担っている。また、ペンギンを飼うのもいいな、と思うけど、ペンペンではあるまいし現実的ではない。

何気ない生活を送っている主人公なのだけど、やはりこの作品は不条理作品であるので、人が死んだり、主人公が自分のあずかり知らぬところでいろんなことが勝手に進んで巻き込まれていく。そういうのが僕の好みの展開とテーマ性であった。そして訳者のあとがきに以下のように示されている。
 最近、村上春樹の作品が数多くロシア語に訳され、ロシア語読者の間ではたいへんな人気なのだが、クルコフも『羊をめぐる冒険』が気に入っているとのこと。じつは、本書を訳している最中、どことなく村上春樹の雰囲気に似ているような気がしてならなかった。読者の皆さんはいかが感じられたであろうか。
(pp.315)
これは中盤あたりから感じていた。会話とか日常生活の描き方とかコーヒーを飲んだり、「やれやれ」と言う部分とか。ここら辺は読んでみればわかると思う。また、この雰囲気がやはり僕の好きな感じでもあった。

今年に入ってから新潮クレストブックを多く読んでいる。ほとんど当たり。以下読んだものを列挙。表紙と紙質がとてもよく、もちろん中身もよいので上質な小説を読んでいるっていう体験ができる。これは電子書籍では味わえない感覚である(もちろん電子は電子の良さはあるけどね)。

僕の直観は正しかった。面白かったし、不条理作品で何とも言えない読後感が残った。



読んでいるときについついペンギンが見たくなって、上野動物園に行って見てきた。いるのはケープペンギン - Wikipediaで一回り小さい。

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本物の皇帝ペンギンを見ようと思ったら南極に行くのがよいのだけど、旅費で最低100万円はかかるらしいので無理そうなので、現実的にはアドベンチャーワールド名古屋港水族館で見れるらしいのでそこに行くべきかな。いつか行こう。




読むべき人:
  • 不条理系作品が好きな人
  • ウクライナでの不思議な生活を体験したい人
  • ペンギンが好きな人
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November 08, 2015

その幸運は偶然ではないんです!

キーワード:
 J.D.クランボルツ、キャリア、偶然、自由、行動
心理学者によって偶然を味方にしてキャリアを切り開いていく方法が示されてる本。以下のような目次となっている。
  1. 第1章 想定外の出来事を最大限に活用する
  2. 第2章 選択肢はいつでもオープンに
  3. 第3章 目を覚ませ!夢が現実になる前に
  4. 第4章 結果が見えなくてもやってみる
  5. 第5章 どんどん間違えよう
  6. 第6章 行動を起こして自分の運をつくりだす
  7. 第7章 まず仕事に就いてそれからスキルを学ぶ
  8. 第8章 内なる壁を克服する
(目次から抜粋)
一般的に仕事などでキャリアプランを考えるときには、30歳までに係長になって、40歳までに成果を出して課長になろうとか計画的に考えることが一般的である。そのときに30歳までに部下をマネジメントできるようになる、売上を10%増やすなど目標も立てることが推奨される。

しかし、現実的にはキャリアは自分の計画通り、思い通りに行かず、想定外の出来事に見舞われてこんなはずでは・・・となったりする。そこで本書では自分の周りに起こることはコントロールできないが、自分の行動をコントロールし、偶然の出来事からより良い結果が得られる確率を高めることはできると示されている。以下概要が示されている部分を抜粋。
 この本を通して私たちがあなたに伝えたいのは、結果がわからないときでも、行動を起こして新しいチャンスを切り開くこと、偶然の出来事を活用すること、選択肢を常にオープンにしておくこと、そして人生に起きることを最大限に活用することです。私たちは、決して計画を立てることを否定するわけではありません。ただ、うまくいってない計画に固執するべきではないと考えているのです。
(pp.2)
そして各章に2,3人行動によってキャリアを好転させた事例が示されている。例えば、報道番組の仕事に就きたいと思っていて、イタリアに留学していたエレナという女性は、交通事故にあってしまい、入院してしまう。しかし、そこで出会ったボスニア戦争で負傷したボスニア兵と知り合い、その後資金援助をしことがきっかけで、自分が本当にやりたかったことは難民援助であり、非営利組織でボランティア活動を行い、その組織の理念に沿ったプロモーションビデオを制作するようになるという事例がある。いろいろな人のキャリアの好転事例は読んでいて面白い。

また、各章の最後には練習問題として自分自身のことを考えるための問いが用意されており、書き込むことができる。これは実際に全部書き込んでやってみたが、やってよかったと思う。ついつい読みっぱなしで考えるのを怠ってしまうので。せっかくだから1章の練習問題の内容と回答を示しておこう。

1. 子供の頃になりたいと思っていた職業・やりたいと思っていた仕事を三つ挙げてください
  • サッカー選手
  • 科学者
  • ゲームクリエイター
2. 実際にその仕事に就いたことはありますか?
⇒いいえ

3. 2の答えが「はい」の場合、子供の頃に持っていたその仕事のイメージと現実はどれくらい同じですか?
⇒選択肢は、ほとんど同じ、すこし違う、とても違う、の3つだけど「いいえ」なので未回答。

4. あなたが今の仕事(もしくは一番最近の仕事)に就くにあたり、最も影響を与えた想定外の出来事は何ですか?
⇒高校3年生のときにセンター試験をしくじりまくって、当時の担任の勧めで情報系の地方公立大学に進学する(ちなみに後期試験で、過去問も一切やらずにぶっつけ本番だったけど、入試成績は1番だった)。

5. その出来事を経験することになったのは、その前にあなたがどんな行動をとったからですか?
⇒もともとゲーム制作の専門学校に行こうかと思っていたけど、見学に行ったらなんか違うなと思って、高校3年生の7月くらいに急遽受験勉強を開始して一応大学進学を目指したから。そして担任(高校3年間同じだった)を信じたから。

6. その出来事がもたらしたチャンスを活かすために、その後あなたはどんなアクションを取りましたか?
⇒高校生のときにもっとしっかり勉強しておけば将来の選択肢に困ることはなかった!!と反省して、大学生になってほぼ勉強しかしなかった。あとは専門バカになってしまうと将来の選択肢に困ると思って、大学の図書館に引きこもってたくさん読書した。

7. あなはた今の生活にどれくらい満足していますか?
□とても満足している
■部分的には満足している
□満足していない

8. 今の生活に満足度をさらに高めるために、質問5や6であなたが取った行動をどのように応用できるでしょうか?
  • 自分の直観に従うこと
  • ダメ元で挑戦してみる
  • 時間をかけて自分を熟成させる
就職先も大学で学んだことを活かそうと思って決めた。しかし、10年近く働いてきて、やはり今違うなと思っているところ。そして以下の部分がとても参考になった。
 人生のある一時期に行った選択が、もはや適切なものではなくなったと気づく人は少なくありませんが、その状況に罪悪感を感じる必要はまったくありません。人生の早い時期に行ったひとつの選択に縛られる必要はないのです。あなたにはたくさんの選択肢があるのですから。
(pp.37)
大学でプログラミングやシステム開発を学んで、職業もSEになって、ITを軸にしてきたけど、ずっとITに縛られる必要はないんだということで。SEが向いてないなら他に行ってもいいんだよ、と後押しされた気がした。ずっとITでなくてはいけないという囚われから解放されたのは大きい。精神的に楽になれた。今後の展開は自分でもまだよく分からないけどね。

いろいろとサンプル事例が載っていて、本当にそんなすべてうまくいくか?と思うかもしれないけど、想定外の出来事を柔軟に受け入れて、良い方向になるように随時行動していけばいんだよというような本で、一般的なキャリア論よりも少し毛色が違うが、僕には合っている気がした。また、以下の本のキャリア・ドリフトという考えにも似ている。こちらも偶然を受け入れていこうという本で、お勧め。

本書はスゴ本オフの『ハッピー』がテーマの時にたまたま存在を知り、そして最後にじゃんけん争奪戦で買って得られた。それは本当に偶然の出来事のようなもので、そして読んでみると今後の自分の方向性をどうしようか?と漠然と考えていたところなので、良いタイミングであったし、内容も今の自分にピッタリな内容であった。



その幸運は偶然ではないんです!
J.D.クランボルツ
ダイヤモンド社
2005-11-18

読むべき人:
  • 転職しようと思っている人
  • 思ったほど計画的なキャリアを歩めていない人
  • 行動して幸運をつかみ取りたい人
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November 02, 2015

投資バカの思考法

キーワード:
 藤野英人、投資、お金、未来、人間
ファンドマネジャーによるお金と投資の本。著者は投資のプロとしての25年間の経験と知識を1冊に凝縮し、予測不可能な未来に対してどのように捉えて決断していくべきかを以下の7つの力として示されている。
  1. 洞察力…主観を排除し、情熱をフラットにとらえる力
  2. 決断力…やらないことを捨てる力
  3. リスクマネジメント…変化を受け入れる力
  4. 損切り…過去にとらわれず、今を評価する力
  5. 時間…時間を味方につける力
  6. 増やす力…経済とお金の本質を知る力
  7. 選択力…未来の希望を最大化する力
すべての力について詳細に紹介はできないので、一部だけ紹介していこう。

まずなるほどと思ったのは、日経平均株価の予測は誰にもわからないのだから、日経平均株価だけを判断するのはギャンブルに他ならないと。なので、個別に会社が伸びるか伸びないかを判断する必要があり、そのときに長期的に「営業利益と株価は、ほぼ一致する」と示されている。あまり営業利益を見ずに銘柄をチェックしていたので、これは注視していきたい。

また、会社の価値は、会社を取り巻くすべての人たちの思惑と行動で成り立っているので、安定した投資家として勝つためには「人間に対する理解」が不可欠とある。これはなるほど!!と思うと同時に、なんとなく僕も同じようにそんなことをぼんやりと考えていた。

そして人間観察のセンスは「読書」、特に著者の読書経験から文学作品から磨かれたとある。これはやはりそうだよねと思った。Amazonで何かの投資本のレビューで、投資で勝つにはドストエフスキーを読むのがよいと書いている人がいて、マジか!?と思ったことがあったけど、今ではそうかもしれないなと思ったりする。結局は会社といえど、社長、従業員、その会社の顧客もすべては人だから、著者の示すように、人に対する理解が重要なんだと思う。

さらに勉強になるのは、決算書などの情報はワンテンポ遅れた情報で、リアルタイムで実情を知るには街を歩いて情報収集するのがよいとある。そのときのポイントとして以下が示されている。
  • 大手家電量販店を定点観測する
  • 話題の店に行ってみる
  • 電車やバスの車内で、乗客を観察する
  • 聞き耳を立てる
  • 写真を撮る
聞き耳を立てる、以外はなんとなくやっていたけど、もっと意識的にやってみよう。特に電車内で観察するのはお勧め。例えば、スマフォ片手にゲームをしている人が多いけど、男性はだいたいパズドラをやっているけど、女性はどちらかというとディズニー ツムツムをやっている人が多いという印象がある。そういうのを観察しながら次に来るソシャゲ銘柄はどこか?と考えたりするのは面白いと思う。

著者の示す投資方法は最低でも3~5年は期間を見ましょうという感じなので、ファンダメンタルよりでもあるし、ファンダメンタルのようにPER、PBR、ROEなどの各種表面的な数値の指標だけに頼っていない、もっと人間的な部分に注目しているのが特徴だった。デイトレやテクニカル分析をメインとしたスイングトレードなどの短期のトレードにはチャートや気配値、出来高などをチェックしていくので、人に対する理解などと悠長なことは言ってられないだろうけど、各自好きな投資スタイルに合わせて適宜取り入れていくのがいいと思う。

僕としては、著者の考え方と似ているというか、人間的な部分に注目して投資し、中長期でやっていくのがあっていると思うので、この本の内容は結構勉強になるし、実践してみようと思った。

また、著者の以下の本もお勧め。実際に株式投資を2年前くらいから少額で始めているけど、投資を始める前はそんなリスクは負えないと思っていた。しかし、やってみると信用取引とかやるのではない限りそこまでリスクではないし、著者も示すように資産を貯金だけで保有していることの方がリスクだと分かってきた。また、世の中に対する理解とか関心とか、見え方も少しずつ変わってきて、面白くなった気がする。何よりも金儲けと考えるよりも、ゲームだと思ってやるとさらに面白い。

かといって、常勝できるわけでもなく、今年の6月ごろにボーナスを某ソシャゲ株に突っ込んで3倍になってキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!!!と思ってしばらく静観してたら、突然下がりまくって売り時を逃して結局マイナスになって泣く泣く損切りもしたけどね・・・。買い時はなんとなくわかってきたけど、損切り、利確タイミングはいまだによく分からい。

そもそも投資をしようと思ったのは、持病もあるのでいつまでまともに自分の労働だけで収入を確保できるかわからないという危機意識があるから、早めに対策を立てておきたいというのもある。ということで、株式投資を初めていろいろと試行錯誤している状態。個人的には今年の相場は年末までまた一波乱ありそうかなと思う。11月4日に郵政銘柄各種が上場するしね。

本書は読みやすいし、難しい株式の知識などは特に不要で気軽に読める。株式投資だけの話でもなく、お金や生き方などの考え方全般を変えるきっかけになるような本だと思う。



投資バカの思考法
藤野 英人
SBクリエイティブ
2015-09-11

読むべき人:
  • 投資について気軽に学習したい人
  • 資産を貯金でしか保持していない人
  • ライフプランを見直ししたい人
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October 29, 2015

多読術

キーワード:
 松岡正剛、読書、多読、編集、フラジャイル
博覧強記の著者による読書本。以下のような目次となっている。
  1. 第一章 多読・少読・広読・狭読
  2. 第二章 多様性を育てていく
  3. 第三章 読書の方法を探る
  4. 第四章 読書することは編集すること
  5. 第五章 自分に合った読書スタイル
  6. 第六章 キーブックを選ぶ
  7. 第七章 読書の未来
  8. あとがき
(目次から抜粋)
本書は2009年に出版で、買ってから5年くらいは積んでおり、積読消化ということもあるし、また今何をどのように読むべきか?とふと思ったので、読んでみたわけだ。

松岡正剛氏は千夜千冊の本のラインナップを見ていると、博覧強記でもはや雲の上のような本読みな人であり、どこか近寄りがたく高尚なイメージがあった。しかし、本書を読んでみると松岡正剛氏の生い立ちや家庭環境からどのように読書にはまっていたのか、どうやって本を選んで読んでいくかなどがインタビュー形式ということもあり、わかりやすく、良い意味でもっと自由に読書してよいのだ一押ししてくれたような本だった。 ちなみに、千夜千冊は書評や批評ではなく、批判したりケチをつけたりしないというポリシーらしい。ほかにも土日は更新せずに一人の著者から一冊、同じジャンルのものを続けないなどの縛りがあるようだ。ほとんどはかつて読んだ本を読み直してから書かれているらしく、そこから「本は二度以上読まないと読書じゃない」と思われるようになったらしい。再読せず、二度以上読むことはあまりないので、これはちょっと反省というか、考え直そうか。

再読しないのは、ほとんどの本は特に記憶に定着しておきたいと思うことはないし、理解できないところがあってもいいかと思ったりするからかな。小説なども読み直す時間がおしくてその分ほかの本を読みたいと思ったりもする。特にこんな読書ブログをやっていると次の本を読んで更新しなくては!!と思ったりもするので。とはいっても、資格勉強本とか技術本などは最低3回繰り返さないとものにならないと経験的にわかっているから、なるべくそうしている。

読み方として、理解できるかどうかわからなくてもどんどん読む、読むペースはどんどん変えていく、マーキングしながら読むなど割とほかの読書本にあるようなことも示されている。他にも多読術としては、ジャンルにこだわらずに好きにいろいろ読んで本に浸かるとよいとあった。また、特に本書で一番良かった部分は以下。
 だから、人にはそれぞれの本の読み方があり、好きに読めばいいんです。ベストセラーは読む、経済小説は欠かさない、新書は月に一冊は買う、SFは極める、推理小説はベストテン上位三冊を追う、古典に親しみたい、子供のために良書をさがす。いろいろあってオーケーです。
(pp.131)
やはり著者への先入観から高尚で難解な本を読まなくてはいけないのではないかと思っていたけど、著者も示すように読書は神聖なものとか有意義とか特別なものとか思わずにもっとカジュアルなものでいいと示されて、意外に思うと同時に、今の読み方でよいのだなと後押しされたような気がしてよかった。

千夜千冊と同じように、このブログは書評ではなく、個人的な読書記録、備忘録、感想みたいなものなので、よほどのことがない限りケチをつけたりはしない。何をいつどのようなタイミングで読んで、そこから何を考えたか?を書ける範囲で綴っている感じ。まともに本の内容で評価できるのは自分の専門技術書や資格試験本などで、それらが使えるか使えないかくらいかな。それらが一番このブログで売れるジャンルなのだけど、そればかりだと飽きるし勉強だけの読書はつまらないし、もっと小説とか他の本も楽しんで読みたいので。ということで、今まで通り、好きな本を読んで好きに書き続けよう。

どうすれば自分の「好み」の本に出合えるか?という問いに著者は誰かのおススメに従ってみる、特に自分よりも深くて大きそうな人の推薦に従ってみるとたくさんのものに出会えると答えている。これはそうだよねと最近実感している。昔はおススメされていても自分の好みとちょっと違っていると、合わないと思ったりして読まなかったのだけど、最近は素直に従って読んでみると良かった確率が高いとわかってきたので、従うようにしている。あとは、自分と似た嗜好(志向)性の人の読書ブログをチェックする、スゴ本オフに行って自分が全く読まなかっただろう本、もしくは知らなかった本と出合うのも面白いし、幅がどんどん広がるのを実感している。

それなりにたくさん読んでも本の読み方、選び方はいつだって現状でいいのか?と迷ったりするので、定期的に読書本について読んで、適宜読み方を微調整していきたい。本書はかなり読みやすい本なので、気軽に読んで多読、読書について考えられるのでとてもよい。



多読術 (ちくまプリマー新書)
松岡 正剛
筑摩書房
2009-04-08

読むべき人:
  • 本の読み方を見直したい人
  • 役に立つ読書ばかり求めている人
  • 読書を楽しみたい人
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October 27, 2015

フリーエージェント社会の到来

キーワード:
 ダニエル・ピンク、働き方、FA、仕事、多様性
フリーエージェントについて書かれた本。以下のような目次となっている。
  1. 第1部 フリーエージェント時代の幕開け
    第2部 働き方の新たな常識
    第3部 組織に縛られない生き方
    第4部 フリーエージェントを妨げるもの
    第5部 未来の社会はこう変わる
(目次から抜粋)
ずっと前に買って放置(7年くらい?)していた本で、暇だし、今後の展開をどうしようか?と考える必要があるので読んでみた。出版されたのは2002年とひと昔前である。新装版が出ているが、旧版で読んだので、こちらを取り上げる。

かつてのアメリカの大多数の労働者は大組織のために個性や個人目標を押し殺して、組織から定収入と雇用の安定、社会における居場所を提供されるような「オーガニゼーション・マン(組織人間)」であった。しかし、次第に本書で示されているようなインターネットを使って、自宅でひとりで働き、組織の庇護を受けることなく自分の知恵だけを頼りに、独立していると同時に社会とつながっているビジネスを築き上げた「フリーエージェント」として働く人が徐々に増えているということが示されている。

アメリカに限らず、本書の出版当時よりフリーで働く人のためのサービスは日本でも徐々に充実していると思われる。貸しオフィスや電源付きカフェ、PC機器の軽量化やwifi設備の充実、PayPalなどの支払いシステムも整備されて、ノマドワーキングといって数年前にバズワードにもなっていた。そしてこの当時よりもfacebookなどのSNSが発展しているので、人ともつながりやすくなっている。さらに資金調達のために個人で株式を発行するというものが本書に載っていたけど、今ではクラウドファンディングが出てきている。なので、この出版当時よりもフリーエージェントとして働きやすいインフラは整っていると思われる。しかし、どれだけフリーエージェントが日本で増えて、そして順風満帆に満足に仕事ができているかは別の調査資料などを当たらないと本当のところはわからないけど。

著者によってフリーエージェントの労働倫理が以下のようにまとめられている。
 遠い将来のご褒美のために一生懸命働くのは、基本的には立派なことである。けれど、仕事そのものもご褒美であっていいはずだ。いまやどの仕事も永遠に続くものではないし、大恐慌が訪れる可能性も大きくない。それなら、仕事を楽しんだほうがいい。自分らしくて、質の高い仕事をする。自分の仕事に責任をもつ。なにをもって成功と考えるかは自分で決める。そして、仕事が楽しくないと感じることがあれば、いまの仕事が間違っていると考えるのだ。
(pp.95)
まぁ、理想はこうだけどね。自分の今後の方向性の一つとしてはフリーエージェントもありかなと思うけど、いきなりすぐにこのようにはいかないだろう。

自分で稼げる仕事のネタを持っていないといけないし、本書で示されていたように、フリーエージェント同士の人的ネットワークがかなり重要と示されていた。従来のような会社組織の縦の強い関係ではなく、横のつながりで、それはちょっとした知り合い程度の弱い絆のネットワークである。弱い絆であるからこそ、自分とは縁遠い考え方や情報、チャンスに触れる機会を与えてくれるらしい。そういう人的ネットワークがセフティーネットにもなっているとあった。

会社組織で働くことが向いていないなと思っていきなり独立してしまって、コミュ障だったらフリーエージェントとして詰んでしまうなとも思ったw

facebook上の友達の中にはフリーでやっている人が結構いたりする。なので、その人たちに直接どうやってフリーになったのか、どうやって仕事をしているのか、気を付けることなどを気軽に聞けるかもしれないなと思った。まずは身近なフリーの人に話を聞くのがいいかもしれない。そして自分の仕事のネタや方向性をよく吟味して、よし、フリーでいけるぞ!!とある程度確信できたらフリーになればいいかなと。そうでない場合は、準備を粛々と整えるしかない。

ダニエル・ピンクの本は以下もおすすめ。まぁ、個人的には持病も抱えており、会社組織での働き方が合わないのではないかと思うのだけど、かといって今すぐフリーになれるような状況でもないので、今後の展開の可能性の一つの参考として読んでみた。まずはもっと情報収集をして、仕事のネタをしっかり仕込むこと、人的ネットワークを増やすことだろうなと思った。あとは、その仕事1本だけに収入を依存せずに、株式投資などで副収入を確保しておけばいいと思ったり。

フリーエージェントとしての働き方、自分の今後の働き方を見直したいと考えている人には参考になると思われる。




読むべき人:
  • フリーで働こうかと思っている人
  • 転職しようと思っている人
  • 自分の働き方を見直したい人
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October 15, 2015

案外、買い物好き

キーワード:
 村上龍、買い物、海外、シャツ、ライフスタイル
村上龍の買い物エッセイ。2003年から2007年に雑誌連載されていたものが書籍になったもの。海外でいろいろなもの、例えばイタリアでシャツ、自転車バイク、マウイ島でゴムぞうりや新宿のホテルのセレクトショップでジャケット、ソウルのデパ地下のお菓子などなどいろんなものを買った経験について3ページごとに語られている。

村上龍の本は『新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)』くらいしかまともに読んだことがなかった。他にもいろいろエッセイがあるけど、それらはなんだか時代錯誤というか、いろいろ物議をかもしそうな内容のものが多いらしく、そういう過激!?なものは置いておいて、もっとわかりやすくて読みやすくて関心がもてそうなものを図書館で発見して借りた。ということで、また図書館で借りたエッセイ。

村上龍はサッカーの中田英寿選手と親交があったことから、たびたびサッカー観戦のためにイタリアを訪れていたようだ。そしてイタリアの街にいる男たちを見ていると、みんな長袖のシャツを着ており、どうやらイタリアの男のファッションの基本はシャツにあるということに気づき、ファッションにまったく興味がなかったところからシャツに目覚めたらしい。あるときなどはミラノのシャツ屋に行き、25分間で13枚も買いこんだとか。ちなみにイタリアの男の基本はブルーのシャツらしい。やはりブルーがいいね。

ネクタイとシャツのシミュレーション」というタイトルのものでは、24歳で群像新人賞をとるまでネクタイなんかしたことがなくて、ネクタイなんかしている人間は全員頭がおかしいと思っていたらしいが、好きなシャツのためにネクタイを締めるようになったようだ。そして、イタリアシャツはほとんどがブルー系のストライプかチェックなので、ネクタイ選びが楽しいらしい。朝起きて寝室の衣装ケースからシャツとネクタイを組み合わせて、さらにスーツと合わせるのが日課らしい。しかし、スーツを着る機会は基本的にテレビ出演時のみで、小説執筆時は普通にTシャツなど楽な格好なので、シャツを着る機会が少なくて残念とか。

ネクタイとシャツのシミュレーションは割と楽しいので共感できる。シャツに目覚めるのも分かる。自分のシャツのサイズは首回り36cm、袖丈84cm、肩幅45cmなので、既製品ではまずサイズがない。なので、まともにしっくりくるシャツはオーダーしかない。ということで、以下の本を参考に伊勢丹でオーダーしたらすごくよかった。今まで着ていた既製品のシャツは一体なんだったんだ!?というくらい着心地がよかった。シャツがよいものになると、それに合わせるネクタイ選びもいろいろあれこれ考えて買いたくなるね。基本はドットと無地しか買わず、レジメンタルは避ける。締め方はディンプルが一番優美な形になるダブルノットのみ。

一生の間続くいい気分」というものでは、小説家らしい内容である。長編小説を何年も書いてきて、それが脱稿した後は感慨もなく、高揚感も喜びの興奮も一切ないらしい。しかし、非表に静かでしっかりとした充実感や達成感が1ヵ月は続くらしい。執筆前には箱根の別荘の付近の成城石井でチーズやコーヒー、ヨーグルトや蜂蜜、肉まん、クッキーをよく買いこんでいたので、脱稿後にそれらを見ると不思議な実感がわいてくるらしい。執筆中は別荘で缶詰め状態なので、ひげが伸びっぱなしで、浮浪者みたいに見えるらしく、近所のスーパーに行くと周りから不審人物のように見られるらしいのだけどw

初めての大きな買い物は、『新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)』がベストセラーになった印税で得た100万円をおろして買ったステレオセットらしい。ちなみに、「限りなく透明に近いブルー」は寝食を忘れて1週間で書き上げたとか。なんだ、天才か、と思った。

買い物ネタの他に、ミラノ、ローマ、パルマ、フィレンツェなどのイタリアの各都市、パリ、上海、ソウル、ハバナ、マウイ、フランクフルトなどに訪れた時の雑感などが書き下ろしで追加されている。各都市いろいろな特徴があるようだ。例えば、フランクフルトのブランド店はどこも控えめで「マルティン・ルターの宗教改革を生み、実質剛健が自慢のドイツでこんなに贅沢で高価なものを売ってごめんなさいね」という雰囲気が店内に満ちているらしい。行って確かめたくなる。

村上龍はなんというか、個人的な先入観では武勇伝を語ったり、もっと突飛な感じがする印象があった。しかし、この買い物エッセイを読んでみると、あまり肩肘を張らずに自然体で、男性作家のエッセイにありがちな虚栄心のようなものは全くなかった。ありのままの買い物感をさらけ出しているようで好感が持てた。

海外に行って、買い物を楽しみたくなる感じだった。特にイタリアでシャツを買いたくなる。




読むべき人:
  • 買い物が好きな人
  • 小説家のライフスタイルを知りたい人
  • 海外旅行が好きな人
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October 14, 2015

馳星周の喰人魂

キーワード:
 馳星周、エッセイ、美食家、狂乱、旅
小説家による食エッセイ。目次は多いので省略。著者はハードボイルド系の小説を多く書いているらしいけど、まったく読んだこともなく、なんとなく図書館で食エッセイが読みたいと思ってこれを借りてみた。日本の地方や東南アジア、サッカー観戦のついでに寄ったヨーロッパ各地で食べたおいしそうな料理について、著者の様々なエピソードとともに1項目3,4ページで示されている。

とても興味深く読んでみたわけだが、なんだかとても羨ましいというか、ズルい!!みたいな感想を抱いた。食べているものが割と高級なものが多く、普段生活していたら食べられないようなものがほとんどだったから。

例えば『奇跡の料理人』というタイトルでは、編集者にとんでもなくうまいレストランに行こうと誘われて訪れたお店でオムレツリゾットというものが出てくる。これは元アメリカ大統領のクリントンが来日した時に、そこのシェフが提供して「信じられない。こんなに美味しい料理を食べたのは生まれて初めてだ」といわしめたらしい。このオムレツリゾットにはフォアグラとトリュフが含まれており、著者もクリントンと同様の感想を抱いたようだ。本書の冒頭に一部の料理のカラー写真が載っているが、このオムレツリゾットがとてもおいしそうである。一応お店の名前が載っており、どうやら以下のお店らしい。いつか食べてみたい。食べログを読んでみると、客単価3万円くらいで、一見客はコースのみしか食べられない高級店のようだ。

香港では広東料理のレストランで食べたマンゴープリンによって新しい世界が広がったが、1年後また訪ねてみたらシェフが変わっていて、味も変わってしまい、楽しみにしていたのに食べられなくなった話もある。また、フランスW杯の日本代表の応援のためにマルセイユに7月ごろ滞在した時は、生牡蠣を食べようと思ってお店に行ったら、シーズンではないので、ないと言われるが、生で食えるものとしてムール貝を食べたら爽やかな風味が口の中に広がり、「うまっ!」と感嘆したとか。

いつも高級店ばかりかというとそうでもなく、タイ・バンコクでは伝説の牛すじ麺を探し求めてスラム街のようなところのハエがたかっている狭いお店に行ったりもしている。そのお店の夫人が提供する牛すじ麺に著者はうまい!と感嘆するが、それは本来の味ではなく、真の味は店主の夫が出せるが、いろいろあってもう作らないと言っているらしく、結局真の味にはたどり着けずにがっかりしているエピソードもある。

また、いつも美味しいものばかり食べているわけでもなく、イングランドにスポーツ雑誌の企画でカメラマンなどと仕事で行ったときは、著者はイングランドは美味しいものがないと分かっていてホテルのレストランでチキンを頼み、カメラマンはペンネ・ゴルゴンゾーラを頼む。チキンはまぁ食えないほどではないが、ペンネは煮すぎてすいとんのようになっていて、味がしなくて食えたものではなかったとか。著者曰く、パスタは基本的にイタリアと日本以外は美味しくないらしい。覚えておこう。

軽井沢のレストランの話では、冒頭のオムライスリゾットを作るシェフの弟子が作った最高級の仙台牛のみすじ肉のステーキが出てくる。これは若きシェフが思いつきで揚げてみたら美味しいのではないかと試してみたらびっくりするくらい旨かったとか。いったいどんな味がするのだろうか?これは想像できない。

著者はハードボイルド系作家だけになんだか傲慢な物言いも示されている。とにかくうまいものに対しては妥協せずに貪欲でどこまでも行くというようなタイプ。そんでまずいものを食わされたら激怒するような、手におえないような美食家。読んでいて本当に美味しそうなものばかり(たまには外れも)出てきて、本当に羨ましい限り。食事制限しなくてはいけなくて、好きなものを自由に食べられない身としては特に。

小説家らしく、いろいろなエピソードもあったり、料理にたどり着くまでの話も面白いし、何よりも無性に食べたくなるような描写となっている。写真が載ってないものがほとんどだけど、食べたときの味まで想像できそうな気がする(フォアグラとかトリュフとか最高級の肉とか天然で上質の松茸や鰻なんか食べたことなんかないけどね)。

著者はさんざんたらふくおいしいものを食べてきて、最後に行きつくところはマクロビオティックだった。そこかよ!!と思ったりw そこはハードボイルド系作家としては食いたいものを好きなだけ食べて、痛風になったり糖尿病になったり、健康診断でいつも数値がやばいけど美食ためには後悔はない!!というくらいに突き抜けてほしかったが、まぁ健康のほうが大事だよねと。

著者曰く、肉、魚を食べる量を減らし、野菜、玄米を食べて、調味料に砂糖を使わないという食事を続けたら半年で7キロも自然と痩せて体調も良く、たまに外食で肉や魚を食べるととてつもなくおいしく感じられるとか。これは食事制限をしているからなんとなくわかる。減塩生活をしていると味覚が鋭くなって、何食べてもおいしく感じられるよ。

普段満足に食べられないから、このような食エッセイを読みながら脳内補完して精神的に食べているみたいな感じだった。著者が終始うまい!と感嘆しているのが続いて、無性に美味しいものが食べたくなるので、特に空腹時に読むのは危険な1冊。

そして、世界中に存在するまだ見ぬ未知のおしいものを食べる旅に出たくなる。



馳星周の喰人魂
馳 星周
中央公論新社
2013-05-24

読むべき人:
  • 美味しいものに目がない人
  • 色気より食い気な人
  • 世界中を食べ歩きしたい人
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October 03, 2015

職業としての小説家


キーワード:
 村上春樹、自伝、小説論、意志、開拓
村上春樹の自伝的な小説を書くことについてのエッセイ。以下のような目次となっている。
  1. 第一回 小説家は寛容な人種なのか
  2. 第二回 小説家になった頃
  3. 第三回 文学賞について
  4. 第四回 オリジナリティーについて
  5. 第五回 さて、何を書けばいいのか?
  6. 第六回 時間を味方につける──長編小説を書くこと
  7. 第七回 どこまでも個人的でフィジカルな営み
  8. 第八回 学校について
  9. 第九回 どんな人物を登場させようか?
  10. 第十回 誰のために書くのか?
  11. 第十一回 海外へ出て行く。新しいフロンティア
  12. 第十二回 物語があるところ・河合隼雄先生の思い出
    あとがき
(目次から抜粋)
村上春樹の作品の最初の出会いは高校卒業直後の18歳のころだった。何とも言えないもやもやしたいろんな気持ちを抱えて、何でか忘れたけどどこかのお勧めとして『ノルウェイの森』を近所の書店で読んだ。イスと机があるような大型書店だったので、ほとんど座り読みでタダ読みしてしまったのだけど。それまで上下巻のような長編小説をまともに読んだことがなかったのだけど、むさぼるように読んだ。読み終わって何とも言えない達成感とカタルシスのようなものを内に抱いていたと思う。それから読書、特に小説を読むきっかけになって、こんな読書ブログを書くまでになった。

ということで、村上春樹というのは僕にとっては別格というか、特別な作家に間違いない。長編作品をすべて読んだ作家は、安倍公房と村上春樹しかいない。それくらい村上春樹の作品というのは、自分の中での小説の一つの基準のようなものになっている。そして、大抵の主人公たちは、よく分からない出来事に翻弄され、超現実的な存在や悪と対峙せざるを得なくて、喪失感とどこか失望を抱いてハッピーエンドに結末を迎えない。そういう不思議でよく分からないものが出てくる物語がとても好きというか、自分にとてもあっていたのだと思う。

さて、本書は、著者が小説を書くことに関するこれまでの作家生活35年に渡る集大成みたいなのものが示されている。確かにそうだと思った。ところどころ他の本に示されているようなこと、例えばよく出てくるのは、ヤクルトスワローズの試合を神宮球場の外野席で見ていた時に、天啓のようにそうだ、小説を書こうと思って小説を書いて、夜な夜なキッチンで書いていたとか、ジャズバーを経営してた時に大変だったとか、お金がなくてちょうど3万円必要なときに道端で拾って借金を返せたとか、7年くらいかけて早稲田大学を卒業したといった小ネタなどが出てくる。

しかし、小説の書き方、これまでどのようにして小説を書いてきたのか?、そして自作について何を意識して書いてきたのか?、さらには小説家になるために何が必要か?といった、他の本にはほとんど書かれていなかったことが書かれている。これは一ファンとしてはとても興奮するというか、ずっと読みたかったような内容が書かれている!!!と思った。ついつい蛍光ペンで線を引きまくった。

例えば、まずデビュー作はとなった『完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望というようなものが存在しないようにね。』と始まる『風の歌を聴け (講談社文庫) [文庫]』は、小説の書き方も分からない状態だったので、感じたこと、頭に浮かんだことを好きなように書いていたらしい。その時に「普通じゃないこと」を意識して、最初は英語で書いていて、そこから何も難しい言葉を並べなくてもいいんだと気付いたというエピソードがあった。これは知らなかった。

また、小説家に必要な資質は、小説を書かずにはいられない内的なドライブ、長期間にわたる孤独な作業を支える強靭な忍耐力が必要とある。小説家になるためには、とりあえずたくさん本を読むことで、次は書くよりもまず自分が目にする事物や事象をとにかく子細に観察する習慣をつけること、素早く結論を取り出すことではなく、マテリアルをできるだけありのままに受け入れ、蓄積すること、さらには長期間書くためには心は強靭にしておき、そのためには入れ物である体力を増強し、管理維持することが不可欠とあるようだ。ここら辺はそうやってこれまでの作品を書かれてきたのだなと分かってよかった。

個人的には村上春樹の生活スタイルにあこがれを抱いてしまう。早朝の日の出くらいから起床し、コーヒーを飲みながらそこから執筆を開始し、5,6時間かけて10枚書く。それ以上書けてもきっかり10枚でやめて、午後からは泳いだりランニングしたり、読書をし、夜は早目に就寝し、それを毎日淡々と続ける。締め切りに追われるのではなく、自分に合ったスケジュールで自分の好きなように書きたかった、とあった。とても自由な感じで羨ましいなと思った。僕もそんな生活をしたいなと思った。まぁ、休職という期間限定で半分実現してはいるけど、ずっとは無理だな。

本書で特に参考になったのは、「第十回 誰のために書くのか?」で、いろんな人が読んで好き勝手評価するのだから、それらを全部納得させる作品など書けっこないので、自分の書きたいものを書きたいように書いていこうと考えられたようだ。そこに続く以下の部分が特になるほどと思った。
 もちろん自分が楽しめれば、結果的にそれが芸術作品として優れているということにはなりません、言うまでもなく、そこには峻烈な自己相対化作業が必要とされます。最低限の支持者を獲得することも、プロとしての必須条件になります。しかしそのへんさえある程度クリアできれば、あとは「自分が楽しめる」「自分が納得できる」というのが何よりも大事な目安になってくるのではないかと僕は考えます。だって楽しくないことをやりながら生きる人生というのは、生きていてあまり楽しくないからです。そうですよね?
(pp.254)
暇で今後の自分の仕事を含めての生き方をどうしようかな〜?と模索している身としては、これはやはりそうだよね、と納得した。もう好きなことして生きていってもいいじゃないか!?と。そういう小説に限らない仕事の考え方、生き方もとても参考になる。

小説家になりたい人はぜひ読んでみるといいのではないかと思った。ただ、著者も示すように、自分のやり方を書いただけで一般化できないかもしれないとあった。まぁ、そうだよねと思う。このやり方を踏襲してどれだけの人が小説家になれるんだろうか?とも思った。

小説家は身近な職業ではないし、知り合いにもほとんどいないし、なんだか不思議な職業だったりする。作品を発表しても酷評されたりもするけど、著者はそれでも常に全力投球していて、プロ意識が高く、常に作品を書くときに新しいことに挑戦されていたりする。日本だけにとどまらずにアメリカをはじめとして、再度新人のような状態で海外展開を独自に考えてやっていったということも書いてあった。そういう部分もとても勉強になった。

何というか、本書は映画DVDなどの特典映像に監督の作品解説とかメイキングシーンが含まれているような本だと思った。好きな映画だったら、そういう監督や脚本家が何を意識して映画を作っていたのかが分かったりするととても面白くかつ興味深く見れるし。そのような内容を読者に語りかけて講演をするように、そしてわかりやすくかつ面白く示されていた。

読んでよかった。大満足だ。



職業としての小説家 (Switch library)
村上春樹
スイッチパブリッシング
2015-09-10

読むべき人:
  • 村上春樹の作品が好きな人
  • 小説家になりたい人
  • 仕事や生き方を模索している人
Amazon.co.jpで『村上春樹』の作品を見る

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October 01, 2015

困ってるひと

キーワード:
 大野更紗、難病、エッセイ、ビルマ、生きる
難病を患った著者による闘病エッセイ。以下のような目次となっている。
  1. 第一章 わたし、何の難病?──難民研究女子、医療難民となる
  2. 第二章 わたし、ビルマ女子──ムーミン少女、激戦地のムーミン谷へ
  3. 第三章 わたし、入院する──医療難民、オアシスへ辿り着く
  4. 第四章 わたし、壊れる──難病女子、生き検査地獄へ落ちる
  5. 第五章 わたし、絶叫する──難病女子、この世の、最果てへ
  6. 第六章 わたし、瀕死です──うら若き女子、ご危篤となる
  7. 第七章 わたし、シバかれる──難病ビギナー、大難病リーグ養成ギプス学校入学
  8. 第八章 わたし、死にたい──「難」の「当事者」となる
  9. 第九章 わたし、流出する──おしり大逆事件
  10. 第十章 わたし、溺れる──「制度」のマリアナ海溝へ
  11. 第十一章 わたし、マジ難民──難民研究女子、「援助」のワナにはまる
  12. 第十二章 わたし、生きたい(かも)──難病のソナタ
  13. 第十三章 わたし、引っ越す──難病史上最大の作戦
  14. 第十四章 わたし、書類です──難病難民女子、ペーパー移住する
  15. 第十五章 わたし、家出する──難民、シャバに出る
  16. 最終章 わたし、はじまる──難病女子の、バースデイ
(目次から抜粋)
以前から気になっていた本で、図書館にあったので借りて読んだ。なんかいろいろスゴイと思った。

著者は上智大学に通いながらビルマの難民支援活動を積極的にやっていたところ、原因不明の病気になってしまう。常に38度以上の発熱があり、節々が痛く、杖をついて歩かなくてはいけないという状態にまでなり、いろいろな病院に行って検査をするも、原因が分からず。たらいまわしにされてある病院で診察してもらったところ、自己免疫疾患の一種である皮膚筋炎および筋膜炎脂肪織炎症候群と診断されて、通称オアシスと呼ぶ患者を大リーグ養成ギブスで鍛えるような病棟で9か月の入院、退院までがエッセイ調に示されている。

何というか、読んでいてとても辛い感じだし痛々しいなと思った。痛々しいというのは著者が受けた検査や病状の話で、麻酔があまり効かない状態で筋肉を切り取られたり、骨髄の髄液を取る検査では釘のようなものを刺されるし、おしりが腫れてそこから膿とかが1リットルくらい流れ出て激痛だったとか…。

他にも病状としては24時間365日インフルエンザに羅漢しているようなしんどさで、筋力も体力も免疫力もなく、ステロイドの影響で感染症や怪我に気をつけなくてはいけないし、紫外線も浴びれないし、皮膚や体の組織が弱っているので洗剤などにも触れられないらしい。

著者は入院中に最初のほうはステロイド(商品名はプレドニゾロン - Wikipedia)を1日60mgも服用していたらしい。そして全身痙攣、体が動かせず、話せずな危篤状態に陥ったらしい。さすがに1日60mgはきついだろうなと思った。なぜなら僕も現在進行形で同じものを服用しているからよく分かる。とはいえ、今は少し量が増えて2日に1回20mg(1錠5mgを4錠)で、過去最高でも1日30mgしか飲んだことはないけど、ただでさえ少量でもうんざりするような副作用があるのだから、60mgは発狂しそうなほどだろうなと思った。(これを書いている今も微妙に副作用で気持ち悪くて(^q^)な感じw)

後はいろいろと難病認定を得て公的な援助を得るためには山ほど書類を書いたりしなくてはいけないし、役所にいろいろと手続きがあって大変そうだなと思った。難病といってもいろいろと認定されたりされなかったりで、公的制度としても完全ではないのだなと思った。僕もいつかお世話になる可能性があるので、今からどうしようか?割と真剣に考えておく必要がありそうだ。あとはどうしてもお金がたくさんかかるのも大変そうだなと思った。

読んでいてとても大変そうだなと思う反面、どこか面白いと思って読んでいた。別に著者の境遇が面白いというのではなく、著者を取り巻くいろんな先生がいたり、出来事があったり、ノリツッコミがあったり軽快で悲壮さをあまり感じさせない文体で一気に読めた。

著者ほどではないけど、完治しない病気を患っていると、何でこうなったんだと?思う。でもなってしまったのだから、これからどうしようかとサバイバルするしかないなと。たまたま『難』のくじを引いてしまっただけで、生きるのがしんどくなって、希望もなく絶望してしまうのもよく分かる。でもほんの少しのきっかけで生きていけると決意する部分も共感できた。

著者にとっての生きていける希望は、同じ病棟で難病を患っていた電車の乗り方も分からなかったけどDIYが得意な人との出会いだったらしい。デートしたいという純粋な気持ちで退院して生きていきたいと。そういうのはいいなと思った。恋愛は生きる希望になるなと。見習おうと真面目に思った。

あと個人的には病んだ時にお勧めの本は以下だね。病気は何らかのメッセージというのがなんだか救いがあった。

余談だけどちょっと自分の病状が若干悪化しているので今日から実質休職になる。なので本書を読んでみたわけだ。著者は84年生まれと同世代だし、自分よりももっとしんどい難病を患っている人の話は何か生きていく上でヒントがあるかなと思って読んだ。読んで面白かったし、いろんな人の助けがあって生きていけるのだなと思った。僕も誰かの助けが必要になるときが来るかもしれないので、それまでは「情けは人の為ならず」を実践しておけば、きっと誰かが助けてくれるだろうと期待している。

あとは本書を読んで自分もがんばろう!!と思う反面、いやいや、がんばるのはもうよそうと思った。がんばらなくてはいけない局面はあるけど、常時がんばる生活に疲れたというか、がんばらなくても楽に生きられる道を模索したいと思うこのごろ。

本書を読めば共感できる部分も参考になる部分も、反発を覚える部分もあるかもしれないが、何かしら生きること死ぬこと、そういうものをいつもよりも深く考えられると思う。いきなり難病を宣告された人が本書を読める境地になれるかはわからないけど、病んでしまったら、もしくは病む前にいろいろな意味で保険として読んでおくのもありな本だった。



困ってるひと (ポプラ文庫)
大野更紗
ポプラ社
2012-06-21

読むべき人:
  • 難病を患ってしまった人
  • ビルマなどの難民支援に関心がある人
  • 生きるのがしんどいと思っている人
Amazon.co.jpで『大野更紗』の他の本を見る

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September 29, 2015

孤独のグルメ2

キーワード:
 久住昌之 / 谷口ジロー、孤独、ランチ、開拓、自由
久しぶりの漫画カテゴリの更新は、18年ぶりに新巻となる孤独のグルメ2巻目。今回は13話収録で、以下の料理が出てくる。
  1. 静岡県静岡市青葉横丁の汁おでん
  2. 東京都新宿区信濃町のペルー料理
  3. 東京都品川区東大井の冷やし中華とラーメン
  4. 東京都三鷹市下連雀のお茶漬けの味
  5. 東京都世田谷区下北沢路地裏のピザ
  6. 鳥取県鳥取市役所のスラーメン
  7. 東京都世田谷区駒沢公園の煮込み定食
  8. 東京都文京区東京大学の赤門とエコノミー
  9. 東京都千代田有楽町のガード下の韓国料理
  10. 東京都渋谷区松濤のブリ照り焼き定食
  11. 東京都千代田区大手町のとんこつラーメンライス
  12. 東京都荒川区日暮里繊維街ハンバーグステーキ
  13. フランス・パリのアルジェリア料理
前作は東京以外もあったけど、大体定食的な料理が多かった。今回はペルー料理、韓国料理、アルジェリア料理など異国料理も含まれている。

最近ではグルメ漫画はいろいろあるけど、グルメ漫画にはまるきっかけになったのは間違いなく前作の影響だ。読んだのは7年前だけど。なんというか、1人で好きなものを食べることの自由さに大分共感できた。今作もそれは変わらない。

主人公の井之頭五郎はいつも腹を空かせていて、その時の気分の思うままにお店を吟味し、いざよさそうなお店を見つけると入るのに若干躊躇するときもある。そして入ってみると外れかなと思ったりで、メニューを吟味して迷いながら注文し、食べてみたら案外行けるぞ!!ということでさらに追加注文する。冷やし中華を食べた後にラーメンを食べたり、スラーメンの後にカレー、ハンバーグステーキの後にハムエッグを食べて、いつも食いすぎている。

また、他のグルメ漫画のようにキラキラしたコマで(゚д゚)ウマーと言っているような過剰な演出ではないが、控えめだがとても満足そうにそして精神的にも満たされて食べているのがいい。そして各話の最後のコマはどこか余韻と哀愁がただようのも孤独のグルメってかんじでよい。

孤独のグルメを読む(もしくはドラマを見ても)と、知らないお店に入って冒険したくなる。10代のころは1人でご飯を食べるとなると、マックとかファーストフード店でしか食えなかった。怖くて1人で定食屋とか入れなかったから。20代ではいろいろなお店に入れるようにはなったが、それでも昭和な感じの大衆食堂みたいなところは入りづらかった。30代になった今ならそういうところも冒険して入れるようになってきたね。ただ、さすがに赤ちょうちん的な居酒屋に1人で行くのはまだやったことがないので、いつかできるようにはなりたいけど。

また、ドラマ版は全然見てなかったが、最近になってAmazonプライムの動画見放題サービスでシーズン1~4が見れるようになったので、今シーズン1を毎日夕食を食べながら見ている。ドラマ版はやはり料理が映像としてわかりやすいのがいいね。あと見ていると腹が減ってくるので、空腹時には見ないのがいいねw

孤独のグルメは、日常のありふれた何気ない料理を食べる楽しみを気付かせてくれるような漫画。特に僕のように食事制限しなくてはいけない身としてはね。朝と夜はあまり食べず、ランチに1日の食事のすべてを込めているような、そんな境地。なので、五郎のように好きなものを好きなだけ食べられるのがとてもうらやましくも思った。



おまけ

今日のランチは孤独のグルメっぽく開拓してみた。前から安いメニューが気になってたお店。肉野菜炒め定食。550円。

grume

肉量が思ったより少ないのが肉があまり食えない身としてはよかった。あと野菜炒めの下によく弁当に入っているパスタが入っている。孤独のグルメ2にもハンバーグステーキの回で五郎が『この付け合せの具無しスパゲティくんがどういうわけか俺 大好き』と言っている。改めて同じくと思った。あと味噌汁に細く切った大根が結構入っていてよい。さらに写真には見えないけど、のりたまふりかけが置いてあったのもよかった。

カウンター席だけで広くはないお店だけど、年配のおじさんが昼間から瓶ビールを飲んでいる自由さもいいなと。さらにおそらく定年退職した近所の常連のおじさん3人組がやって来て、店主と世間話しながら食べている感じもよかった。店主の客への気遣いもよかった。次回はハンバーグを食べたい。

行ったお店は以下。後で調べてみたら、テレビに取り上げられたりするような有名店だったようだ。

クロンボ - 高円寺/洋食 [食べログ]

一見怪しいお店も入ってみると案外よかったというのが、孤独のグルメっぽくて、次のお店の開拓につながるね。それが最近のふらふらした生活の地味な楽しみだったりする。



孤独のグルメ2
久住 昌之
扶桑社
2015-09-27

読むべき人:
  • 食べることが好きな人
  • ランチをいろいろ開拓したい人
  • 自由に食事を楽しみたい人
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September 27, 2015

バビロンに行きて歌え

キーワード:
 池澤夏樹、兵士、都会、ロック、歌
オムニバス的な小説。以下のようなあらすじとなっている。
一人の若き兵士が、夜の港からひっそりと東京にやって来た。名もなく、武器もなく、パスポートもなく…。突然、この海のような大都会に放り込まれ、さまよい歩く異邦人。その人生の一場面で彼とすれ違い、あるいはつかの間ふれあい、そして通り過ぎていく男や女たち。彼を中心に、この不可思議な大都会と、そこに生きる様々な人間像を鮮やかに、感動的に描いて新境地を拓いた長編小説。
(カバーの裏から抜粋)
図書館で借りた本。なんとなく著者のエッセイを借りようかと思っていたのだけど、文庫コーナーに行くとこの小説を発見した。あらすじを読んでみると面白そうだと思って借りて読んだら、当たりだった。さすが自分の直観だな!!と思った。

主人公はターリクというベイルートから東京に密入国した20歳くらいの兵士である。故郷での作戦行動によってまずい立場となり、亡命してきた形で船で東京にたどり着くが、頼れる先もパスポートもなく、日本語も分からない状態である。そのため、まずは寝床を探し、捨て犬を使って散歩しているように歩くことでアラブ系外国人が1人いることの不自然さを中和し、警察に捕まって強制送還されないように隠れるように生きていくしかない。そんな状態でいろんな人に助けられながら、次第に歌うことで大都会東京での自分自身の生き方を確定していく。

主人公は変わらないのだけど、12編の短編小説が連なって長編作品になっているような作品となっている。各章ごとに人物の視点は変わり、主人公ターリクそのものが登場しない章もあるが、必ず間接的にターリクとつながった話になっている。

最初はターリクが東京に来る章(「夜の犬」)、次にターリクが拾った捨て犬が交通事故にあったことから世話になる獣医との関係の話(「老獣医」)、ターリクが受け取るはずだったパスポートの発行先の某国大使館員の話(「ブループレート」)、ターリクが出会った女性プログラマー兼経営者との恋愛模様(「恋の日々」)とどんどんつながっていく。

ターリクはもともと声質がよかったということもあり、居候している先のロックバンドをやっているメンバーからヴォーカルをやらないかと言われて歌い始める。その歌は、アラブ的で、戦争をしている故郷についての郷愁とか大都会での行き場のない自分自身の気持ちなどを乗せて、次第に人を惹きつけていく。そういうロック的な描写もよく、感情移入できた。

基本的には主人公ターリクの物語であるのだけど、その中心の外にターリクを取り巻く人々の物語も同時に描写されているのがよかった。それぞれが生き方の方向性を模索しているようで、ターリクに直接的にしろ間接的に出会ったことでよい方向に変わっていく。また、ターリク自身は故郷と違って狙撃されたりする心配はないが、大都会で生き延びていく必要があり、いろんな人に助けられて物語が進んでいくのが温かい感じがしてよかった。

なんというか、とても読みやすい小説だと思った。描写がすんなり頭に入ってきて、それぞれの章で視点や登場人物が変わってもターリクが主人公であるという横串のようなものは変わらず、自分の感覚と波長が合っていて、違和感もなく素直に受け入れられるような、そんな作品。大抵の小説はそうはならないのだけどね。

著者の作品、本は他に以下を読んだことがある。他にも小説とか旅行記があるらしいのでいろいろ読んでみたい。あとエッセイも。

本作品の読了後は、暖かい気持ちになれて、とても心地よいものだった。




読むべき人:
  • 心地よい作品を読みたい人
  • ロックバンドをやっている人
  • 大都会東京でサバイブしている人
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September 23, 2015

お菓子とビール

キーワード:
 サマセット・モーム、伝記、小説家、奔放、愉悦
サマセット・モームの小説。以下のようなあらすじとなっている。
亡くなった文豪の伝記執筆を託された友人から、文豪の無名時代の情報提供を依頼された語り手の頭に蘇る、文豪と、そしてその最初の妻と過ごした日々の楽しい思い出…。『人間の絆』『月と六ペンス』と並ぶモーム(一八七四‐一九六五)円熟期の代表作。一九三〇年刊。
(カバーのそでから抜粋)
丸善の文庫コーナーでビールが飲みたくなる本として置かれていて、気になったので買って読んだ。ちなみに原題は『CAKES AND ALE』。ALEは簡単に言えばイギリスの伝統的なビール醸造方法だね。あらすじを簡単に補足すると、主人公のアシェンデンは冒頭ではもう50歳を過ぎていて、小説家として一定の評価を得ているらしい。そこで友人で作家のアルロイ・キアから電話をもらい、ドリッフィールドという作家の伝記を書くことになったので、アシェンデンに情報提供に協力してくれという依頼だった。

というのも、主人公アシェンデンはイギリスの地方、ブラックスタブルで15歳のときにその文豪ドリッフィールドに出会っており、そのときからドリッフィールドの妻、ロウジーとも親しかったといういきさつがある。そして、ドリッフィールド夫妻との何気ない生活の回想が始まる。

一言で言うと、大人な作品だなと思った。別に官能的な情事が赤裸々に描写されているというものではなく、登場人物が最後にはみなよい歳になって、人間関係について、人生について改めて晩年に振り返っているような感じだった。

文豪の妻であるロウジーは、主人公が15歳くらいのときは何とも思わなかったのだけど、主人公が20歳を超えたあたりから美しく感じたらしい。そのときロウジーは40歳くらいだろうけど、そこから主人公との関係があったり、結局文豪と離婚して金持ちの別の男と結婚してアメリカに行ったりと奔放な感じがした。奔放だがどこか憎めない描写となっているが、それでも個人的にはそういうのは若干受け入れられないタイプだなと思った。

解説によれば、ロウジーはスー・ジョーンズという駆け出しの舞台女優がモデルらしく、モームが本気で結婚しようとしていた相手らしい。そのため、モーム自身本書が一番好きな作品と言っていたらしい。また、タイトルになっている『お菓子とビール』はシェイクスピアの『十二夜』などにある句で、「人生を楽しくするもの」、「人生の愉悦」を意味しているらしい。作品中には別にお菓子とビールそのものはあまり出てこなかったので、丸善のもくろみは若干外れたわけだ。

モームの作品は以下2つは読んだ。両方とも感情を揺さぶられて衝撃を受けるようなスゴ本であったのだけど、「お菓子とビール」はそういうものがあまりなく、ゆったりと田舎の田園風景を列車の車窓から眺めているような、そんな落ち着いた作品だった。ある程度もっと歳を重ねてみると本書のよさがわかるのかもしれないので、そのときにまた読み返したい。



おまけ

たまたま今日は以下の日本全国の地ビールが飲めるイベントに行ってきた。

けやきひろば ビール祭り さいたま新都心

原題に沿ってエールビールを選択した。ブルーマスターという福岡の地ビール。

THE BREWMASTER 公式サイト

brewmaster_re

ラガービールと一味違った、透き通るようなのど越しで上品な味でおいしかった。ちなみにこれは小カップ210mlで300円と安い。来春もイベントがあるらしいので、また行きたい。



お菓子とビール (岩波文庫)
モーム
岩波書店
2011-07-16

読むべき人:
  • 落ち着いた小説を読みたい人
  • エールビールが好きな人
  • 人間関係を振り返りたい人
Amazon.co.jpで『サマセット・モーム』の他の作品を見る

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September 19, 2015

ぼくは本屋のおやじさん

キーワード:
 早川義夫、本屋、奮闘記、客、仕事論
元ロックミュージシャンが書店経営を22年間やった奮闘記エッセイ。単行本は1982年に出版され、この文庫版は2013年と出版となる。

著者は23歳のときにロックグループを辞めて、生活のことを考えた時に本屋を始めることになった。その動機も単純で、会社勤めが向いていないようなので、店は小さく、たばこ屋兼本屋みたいな、できれば、好きな本を集めて、あまり売れなくてもいいような、ネコでも抱いて1日座っていればいいようなのどかで楽なものを夢見ていたようだ。しかし、やってみると現実は全然違って大変だった、ということがいろいろなエピソードとともにエッセイ型式で示されている。まず、売りたい本が必ず回ってくるわけではないという仕組みがあるらしい。これはどういうことかというと、書店が売り上げスリップという本の間に挟まれている短冊の半券を1年間に何枚出版社に送ったかで、出版社はその書店をランク付けする。そして、新刊配本の部数を決められて、取次から送られてくるらしい。なので、本屋というのは、売れなければ欲しい本が回ってこない仕組みになっているらしい。今もそうなっているかは知らないけど。

また、本屋にはいろんな人がやってくるらしい。銀行やレジスター、床磨き、新聞などセールス関係の人がよく来て、自分が何者かを名乗ることなく、いきなり責任者の方いらっしゃいますかとくるらしい。しかも自分が主人でレジをやってても、ご主人に会わせてくださいとか言われるから大変だ。

他にも変な客としては、いつも酔っぱらってお店に来て自慢げに偉そうなことを言ったりして、他の従業員を泣かせたりして嫌な客であるが、毎日やって来て、割と結構買っていく上客でもあったりする人や百科事典で調べるようなことを訪ねてきて、ただ見ちゃ悪いからといって袋詰めの飴を置いていき、一度も買ったことがない客もいるようだ。あとは立ち読みしに来たり、本が綺麗ではないとクレームをつけられたり、この本まだ入ってきてないの?と尋ねる書店として普通の客も当然来る。

僕もよく本屋さんやってみようかなとか妄想したりする。著者と同じように、小さいけれど好きな本、売りたい本だけ並べて、お店は他の従業員に任せて自分はどこかでひたすら読書しているという道楽的なものを。でもこの本を読んでみると、本屋さんは大変だなと思う。取次とか出版社との昔からの商習慣で売りたい本がなかったり、ダンボールで配本された本を整理するのは肉体労働だし、接客業だからいろんな人と対面しなくてはいけないのだし。そんな個人書店の苦労とか本屋の仕組みがとてもよく分かる。しかし、苦労だけが書店経営ではないということもちゃんと示されている。

著者がまた歌手に戻ろうと22年間経営していた書店を閉店するときについて、以下のように示されている。
閉店の日、僕は泣いてばかりいた。棚を見ているだけで、涙がこぼれて来た。これまでに、一度も喋ったことのないお客さんからも「寂しい」と言われたり、「残念です」とか「元気でね」と声をかけられた。花束や手紙をもらった。いつもよりずっと長くいて、棚をひとつひとつ丁寧に見て回る人もいた。何も語らず、たくさん本を買っていく人もいた。
 本屋での「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」の世界にも感動はあったのだ。小説や映画やステージの上だけに感動があるのではない。こうした何でもない日常の世界に、それは、目に見えないくらいの小さな感動なのだが、毎日積み重なっていたのだということを僕は閉店の日にお客さんから学んだ。
(pp.237)
なるほどと思った。

解説は大槻ケンヂ氏で、その解説もすばらしい。一部抜粋。
 どんな仕事も楽じゃありません、でもね、どんな仕事にも良さがあるんです、だから、がんばりましょうよ、と、早川さんの教える本書は、やはりシンプルでストレートなメッセージに満ちた素敵な一冊であると思う。
(pp.244)
そうだよねと同意したくなる。大槻ケンヂ氏も24歳の時にバンドを辞めて本屋さんになりたいと思ったそうだが、本書を読んで辞めたらしい。その理由もまぁそうだよねと納得したのであった。

本屋をなんとなくやってみたらどうなるのか?と脳内妄想(シミュレーション)したときの一つの参考事例がこの本に示されている。結局僕も本屋さんやっていくのは大変そうだし、今のところやることはないだろうなという結論になる(でも将来のことは分からないよ)。気楽にこのブログで好きな本について書いている方があっているし、何も面倒なことはあまりない。ただし、金にはならないからこれだけで食っていくのは現状無理だけどね。

自分で本屋をやりたい人は絶対読んだほうがいい。あとは本好きな人は小さな個人書店に対する意識も変わって、そこで本を買いたくなるかもしれない。本を書く人、編集する人、売る人、買って読む人など本に関わる人みんな読めばいいね。




読むべき人:
  • 本屋さんをやりたいと思っている人
  • 大型書店ばかり利用している人
  • 本が好きな人
Amazon.co.jpで『早川義夫』の他の本を見る

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September 18, 2015

モナリザ・オーヴァドライヴ

キーワード:
 ウイリアム・ギブスン、スプロール、モナ、マトリックス、爆走
サイバーパンクSF小説、スプロール3部作の最終章。以下のようなあらすじとなっている。
13歳の久美子は単身、成田発ロンドン直行便に乗り込んだ。だが、《ヤクザ》の大物の娘である彼女は知るよしもなかった――やがて自分が、ミラーシェードを埋めこんだ女ボディガードや大スターのアンジイ、そして伝説的ハッカーのボビイらとともに、電脳空間の神秘をかいま見る冒険に旅立つことになろうとは!全世界注目の作者が、疾走感あふれるシャープな展開でマンを持して放つ、ファン待望の《電脳空間》三部作完結編
(カバーの裏から抜粋)
SF映画とかアニメが好きなので、ニューロマンサーをはじめとするこのスプロール3部作はぜひ読んでおきたかった。しかし、ニューロマンサーは新装版が出ているけど、2作目のカウント・ゼロと3作目の本書、モナリザ・オーヴァドライブは絶版になっている。Amazonのマーケットプレイスだと送料込で1500円近くもする。だが近所の図書館に幸運にも3作とも置いてあったので、借りた。借りたのは2回目で初回は読む余裕がなく返したけど。

ニューロマンサーを最初に読んだときは面食らった。まったく内容が頭に入ってこなくて。大抵の小説は一読すれば頭に映像が浮かぶ。たとえそれがSF小説で未知のものであったとしても。しかし、ニューロマンサーは例外だった。独特の世界観とそれを損ねることなく現した優れた翻訳にもかかわらず、ストーリーを体系的に追うことができなかった。次は続編のカウント・ゼロだ。こちらは4人の登場人物の視点から物語は進む。さすがにニューロマンサーに慣れていたこともあり、読みにくさはあるが、なんとなくはストーリー展開を追うことができ、面白いと感じることができた。そして、最終章の本書、モナリザ・オーヴァドライブ。一番タイトルが躍動感があってカッコいい。カウント・ゼロ同様に4人の視点から物語は進む。舞台はカウント・ゼロのおよそ7年後の世界で不忍池(シノバズ・ポンド)や秋葉原、新宿といった日本的なものも前作同様に出てくる。さすがに前2作で文体と世界観は慣れたはずだ、きっと楽しめるだろうと思っていたが、予想外にさっぱりよく分からなかったぜ!!w

前作の主人公、ボビイも出てくるし、ニューロマンサーのモリイも出てくる(最初はサリイと名乗っている)し、続編というワクワクする要素がちりばめられているが、やはり前作に比べてかなり難解に感じた。相変わらず余計な説明はなく、世界観やガジェットやサイバーパンク的な要素は既知なこととして進み、それぞれの人物がパズルのピースのように最後に収束してはまっていくような、そんな物語構造のはずだ。結局マトリックスは自律的なAIだったのか!?みたいなよく分からなさの余韻は残る・・・。

まぁ、いいんだ。SF、サイバーパンクものが好きな人でもこのスプロール3部作を全部読んでいる人は少数派だろうし、完全に理解している人はもっと少ないだろう。事実、ニューロマンサーのAmazonレビューは最近の日付まで更新されて、レビュー数も多いが、カウント・ゼロ、モナリザ・オーヴァドライブとなると、書店で手に入らないというのもあって、レビュー数も少ない。

また、モナリザ・オーヴァドライブに関してググってみても、作品について言及しているブログなどはやはり少なく、また内容の詳細に触れているところはあまりない。その気持ちはよく分かる。難解すぎて何も深く書きようがないのだから!!wとはいえ、会話のテンポと描写はなんだか詩的な印象を受けた。

本書は、SF小説が好きというある種の虚栄心を見たし、話のネタとしてギブスンのスプロール3部作を最後まで一応読み通したことがあるんだぜ!!っていう自慢ができる作品か。まぁ、残り「クローム襲撃 (ハヤカワ文庫SF)」の短編集が残っているが。こちらはニューロマンサーの前のお話で一応書店でも買えるはず。

もしスプロール3部作を読み通すなら、3部作をとりあえずすべて手に入れて、勢いで一気読みがいいかも。分からなくてもとりあえず進む。そしてまた読み返せばいいはずだ。

想像力の限界に挑戦して、マトリックスの世界に没入(ジャック・イン)だ!!



モナリザ・オーヴァドライヴ (ハヤカワ文庫SF)
ウィリアム・ギブスン
早川書房
1989-02

読むべき人:
  • サイバーパンクSF作品が好きな人
  • 自分の想像力と理解力を試してみたい人
  • 収束していく物語が好きな人
Amazon.co.jpで『ウィリアム・ギブスン』の他の作品を見る

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September 16, 2015

牡蠣礼讃

キーワード:
 畠山重篤、牡蠣、宮城、紀行文、森
牡蠣のことが一通りわかる本。以下のような目次となっている。
  1. 第1章 Rのつかない月の牡蠣を食べよう!?
  2. 第2章 おいしい牡蠣ができるまで
  3. 第3章 世界の牡蠣を食べる
  4. 第4章 知られざる「カキ殻」パワー
(目次から抜粋)
のっけからどうでもいいことを示すと、僕はいつからかカキフライが好物になってしまった。初めてカキフライをタルタルソースで食べてからというもの、そのジューシーさが口の中に広がる旨さにすっかり虜になり、飲食店でカキフライが食えるときはとりあえず食べるというくらいになった。それくらいカキフライが好きで、9(SeptemberとRのつく)月に入ったということもあるので、牡蠣についてのこの本を取り上げる。

著者は宮城県気仙沼市唐桑で牡蠣養殖業を営んでおり、牡蠣の生体や旬、宮城県のカキ養殖の礎を作った人々の歴史、世界の牡蠣養殖についてなどなどがとても面白くエッセイ調に示されている。

まず、牡蠣の旬については、一般的に英語で『Oyster should not be eaten in any month whose name lacks an "r".』という”Rのつかない月の牡蠣は食べるな”という諺があるように、5月(May)から8月(August)は旬ではないとされている。その時期は、産卵期で食べてもまずいし、食中毒の影響があるからと言われている。著者曰く、これはヨーロッパヒラガキの産卵期の身の状態から生まれた諺らしい。曰く、5月から8月のヨーロッパヒラガキを開けてみると、ドロドロとした液状の卵が流れ、見た目も白、灰色、黒と変化して食欲も減退し、おいしくないようだ。

日本で食されている大部分はマガキ(カキ (貝) - Wikipedia)で牡蠣本来の味が出てくるのは、厳寒の2月、3月らしい。また、日本列島は南から北まで長いので抱卵する時期がかなりずれるらしい。よって産地によって食べられる時期が違うようだ。気仙沼も3月が旬で、水温の低いところに垂下しておけばマガキでも6月いっぱいまで楽しめるらしい。そして暑い季節に冷やしたワインと生ガキの取り合わせは最高だって。羨ましいかぎりで。

今ではオイスターバーなどに行けば、基本的に年中牡蠣が食べられるようになっている。養殖技術が発達しているというのもあるし、世界中の産地から輸入してくるというのもあるだろう。しかし、カキフライとなると、僕の観測だと定食屋がカキフライを提供しているのは大体9月から3月までとなっているね。一部海鮮系のお店は年中食べられるが、それは産地ごとの違いで取り寄せているか、もしくは冷凍保存で食べられるようになっているのだろうね。

あとイワガキは5月以降の夏が旬らしい。しかし、大きくなるには3,4年かかり、全国的に天然イワガキ資源が枯渇しているらしく、大きめのものなら東京だと1個千円はする高級品らしい。これはまだ食べたことがないので、いずれ試してみたい。あと逸話として松尾芭蕉はイワガキの産地を行程に選んでおり、イワガキを堪能していたのではないかという説は面白かった。

世界の牡蠣の話としては、50年以上前にフランスはヨーロッパヒラガキが多く獲れていたが、ウイルス性の病気によってほとんど全滅状態になってしまったらしい。そのときに世界的に知られた牡蠣博士、今井丈夫が宮城にいたことから、宮城産のマガキがフランスに輸出され、フランスの牡蠣生産者を救ったらしい。へーっと思った。今でもフランスでは宮城産が原種のマガキ獲れるようだ。

牡蠣が育つには豊富なプランクトンが必要で、そのプランクトンは海の水質がよくないとダメらしい。それには、河口に流れ出る水質が汚染されてはダメで森林の腐葉土を通った養分が海に流れてくるのも不可欠なようだ。そのため、著者は『森は海の恋人』と銘打って大川上流の山に広葉樹の植林運動も地道にされているようだ。食物連鎖だね。

本書は牡蠣全般が詳しく分かると同時に、著者の紀行文のようにも読める。世界の牡蠣の生産地で会いたい人がいると、とりあえず出たとこ勝負で行ってみると必ず会えるという引き寄せが何度もあったりで面白い。また、エッセイ調の文体がとてもよく、読ませる内容となっている。ところどころ著者の人柄が分かる小ネタがあって読んでいて飽きない。

牡蠣料理もレシピとともに随所に示されている。これはと思ったのは、オイスターショットというもの。アメリカのオイスターバーで提供されているもので、グラスにオリンピアガキを5個ほど入れて、トマト味のジュースを少しと5種類のスパイスを入れ、最後にウォッカのストレートを注いで一気飲みするらしい。これはいつか絶対試してみたい!!

本書は2006年出版となる。なので、2011年の東日本大震災のことは当然ながら示されていない。やはり東日本大震災で被害にあわれたようで、それからの復興については最近出版された以下の本に示されているようだ、こっちも読んでみたい。

本書は牡蠣好きなら間違いなく堪能できる1冊だし、何よりも著者の牡蠣への熱意というか愛情があふれる内容だった。



おまけ
都内の牡蠣がおいしいお店をちょっとだけ紹介。

カキフライに関しては、チェーン店が意外に健闘してて、個人的にはやよい軒がお勧め。ただし10月の中旬から3週ほどしか実施しない期間限定メニューなので注意。

また、カキフライ発祥のお店が銀座の煉瓦亭 (レンガテイ) - 銀座/洋食 [食べログ]にあって、一回行ったことがある。恐ろしいことに時価という値段設定だけど!?、実際にはカキフライ定食で2000円ほどするので高め。老舗価格。味は、思ったより驚きがなかったが、カキフライマスターになるためには行かなくてはだったw

ここのカキフライが一番おいしい!!と思ったのは西新宿のOYSTERS, INC. - 新宿/オイスターバー [食べログ]というお店。個人的にはオイスターバーのカキフライはどこもおいしくないと思っていた。なぜなら揚げ物料理がメインではないので、とんかつ屋とか定食屋に比べて揚げ方がいまいちだから。しかし、ここは本当に(゚д゚)ウマーだった。1粒300円もするけど、大粒で食べて損はない。

あと、しゃれたオイスターバーで生ガキとシャブリでマリアージュを楽しんだりするならオストレア Ostrea|Oyster Bar & Restaurantがいいかな。値段高めだけどどれもおいしい。Ostreaというのはラテン語で牡蠣を意味するんだ、とか薀蓄を垂れるにはよいデート向け!?のお店w

意外にもカキの天ぷらがおいしいと思わせてくれたのは、牡蠣と魚 海宝 高田馬場店 - 高田馬場/魚介料理・海鮮料理 [食べログ]。和食系で、カキフライ以外はどれもおいしかった。

他にもいろいろと地味に開拓したい。あとは気仙沼や広島などの日本の各生産地、さらにフランスやアメリカなどの世界の各地の牡蠣を堪能したいなと思う。



牡蠣礼讃 (文春新書)
畠山 重篤
文藝春秋
2006-11

読むべき人:
  • 牡蠣が好きな人
  • 紀行文のようなエッセイを読みたい人
  • オイスターバーで薀蓄を垂れたい人
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September 13, 2015

賭博者

キーワード:
 ドストエフスキー、ルーレット、破綻、賭博狂、女狂い
ドストエフスキーの実体験が元になっている小説。以下のようなあらすじとなっている。
ドイツのある観光地に滞在する将軍家の家庭教師をしながら、ルーレットの魅力にとりつかれ身を滅ぼしてゆく青年を通して、ロシア人に特有な病的性格を浮彫りにする。ドストエフスキーは、本書に描かれたのとほぼ同一の体験をしており、己れ自身の体験に裏打ちされた叙述は、人間の深層心理を鋭く照射し、ドストエフスキーの全著作の中でも特異な位置を占める作品である。
(カバーの裏から抜粋)
この作品で777冊目の更新となる。なので、その数字にふさわしいのがなんかないかと積読本を探してみたら、半年前ほどに買って半分ほど読んで、時間的に余裕がなくて読むのが面倒になって放置していた本作品があったので、改めて読み返してみた。一気に読んでみるとなかなか面白かった。

解説を読むと、ドストエフスキーの実体験が元ネタになっているらしい。1860年代に最初の妻マリヤが結核で死にかけているところに、ドストエフスキーよりも20歳も若い学生のアポリナーリヤに出会って急速に仲が良くなる。二人はパリに旅行をするのを夢見ていたが、いろいろあってアポリナーリヤだけがパリに行っているときに、アポリナーリヤがスペイン人の医学生を好きになったが、棄てられて心に深い傷を負っていたらしい。ドストエフスキーはショックを受けて、結局アポリナーリヤを慰め「兄と妹」という関係でパリからイタリア旅行に行ったらしい。

その旅行中にアポリナーリヤの態度がよそよそしく冷やかになっていくので、ドストエフスキーにとって心苦しいものであったらしく、訪れる各地でルーレットの勝負をし続けたらしい。そしてたまたま会ったツルゲーネフから借金をしたり、時計やアポリナーリヤの指輪を質にいれたりしてまでルーレット狂いになっていたらしい。この体験が元になって本作品、「賭博者」が書かれたようだ。主人公アレクセイは25歳の家庭教師で、ある将軍につかえている。その将軍を義父とするポリーナに惚れているが、ポリーナから全然相手にされていない。あるところにポリーナからもらった金でカジノで儲けてきてと依頼され、そこからアレクセイはルーレット狂いになり、しまいには破綻していく…。

主人公アレクセイのルーレットによるギャンブル狂いの顛末がメインで示されていると思ったら案外そうでもなく、主人公を取り巻く人間と金の主従関係が濃密に描かれていた。将軍は借金を抱えており、伯母の遺産を目当てにしているが、伯母は将軍に相続する気はまったくなく、見せつけるように持っている金をルーレットで散在する。ポリーナはデ・グリューというフランス人侯爵に債権を握られており、金が要る。主人公アレクセイは金よりもポリーナが振り向いてくれることを切望している。それぞれの欲がカジノのルーレットのように回っているような、そんなイメージ。

カジノのルーレットで勝ちまくるシーンの描写は臨場感あふれ、なんだかこっちも勝っているような気にさせてくれるが、賭博狂いの行きつく先は負けと破滅なんだなと教訓が得られる。しかし、実態はルーレットによる金儲けのための賭博狂いになったというよりも、惚れた女のために狂っていったということだろう。勝ち続けて得た大金で更に勝負をするときにふと我に返って、自分の全生命がかかっている!!と気づくほどに。

そして決してその女は振り向いてはくれず、主人公に冷淡な態度をとったり、他の男に気があることをほのめかしたりして終始翻弄する。本作品は賭博狂いが表面上のテーマなのだけど、本質は主人公の一途な恋心を描いた恋愛小説だなと思った。

ドストエフスキーの作品は最初の50ページくらいまで読むのは面倒だけど、慣れれば会話ベースの物語なので、すらすらとページが進んでいく。勢いをつけて読むのがいいね。そのためには時間的にも精神的にも余裕がないと無理そうだけど。一応以前にこのブログで取り上げたドストエフスキーの作品は以下。他にも読んでない作品が多いので、地道に読んでいきたい。

777冊目として幸運の要素を含むようなギャンブル的な作品を意図的に選んで、今後の自分の人生を好転させるようにあやかりたいと思ったのだけど、内容は賭博狂いで破滅していく男の作品で、自分の人生のこの先が思いやられる気がしたw それでも惚れた女のために命さえも賭けられる男の気概を間接的に得たのだということにしておこう。あとは賭博、ギャンブルをやるなら余剰資金でやりましょうということだね。引き際も大事。

一応結末は希望のある終わり方だったし、面白かったのでよかった。



賭博者 (新潮文庫)
ドストエフスキー
新潮社
1969-02-22

読むべき人:
  • ギャンブルが好きな人
  • 借金がある人
  • かなわない恋をしている人
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September 11, 2015

はじめての文学講義

キーワード:
 中村邦生、文学、小説、読む、書く
中高生向けの文学講義がまとめられた本。以下のような概要となっている。
読むことを楽しむにはどんな方法がある?魅力的な文章を書くにはどうしたらいい?その両面から文学の面白さ、深さを構造的に探っていく。太宰治をはじめ多種多様な文学作品をテキストにしながら、読むコツ、書くコツ、味わうコツを具体的に指南する。「文学大好き!」な現役の中学・高校生を対象にした「文学講義」をまとめた一冊。
(カラーの裏から抜粋)
なんとなく書店の新刊コーナーで見かけたので買った。岩波ジュニア新書は分かりやすくて、読みやすいものが多いので。

「文学作品」と示すといかにも明治、大正の文豪が書くような、教科書的なものをイメージしがちだけど、もっと単純に小説ととらえるとよいだろう。しかし、文学作品、小説を好んで読む人は勝手に読むが、読まない人は実用書だけでまったく読まないという人も多い。そういう人が大抵考えることは「文学は実生活では役に立たない」である。

著者曰く、単純な役に立つ/立たないという二項対立そのものの有効性を疑い、問題の前提そのものを突き崩し、文学は虚構の言語によって新たな現実を突きつけるとある。そして、世の中に流通している価値観への疑念を提示する役割があると。例えば善と悪に関してならば、本当に分かりやすい勧善懲悪なのかと問いただし、その単純な対立の構図を超えた向こう側を示すものとある(文学作品ではないけど、分かりやすい作品例で言えば、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の自ら救世主と名乗っていたイモータン・ジョーは本当に悪か?とかね)。文学はそういうものが丸ごと面白いのだと示されていた。

個人的な考えていえば、役に立つ/立たないという面では、表面上役に立たせることはできる。初対面の人との話のネタ(合コンとかでw)になったりして、意外な側面を演出することもできるし、他にも会社とかで上司がやたら文学好きだったら飲みの席でその話に合わせれば気に入られて仕事がしやすくなるかもしれないし。あとは、齋藤孝氏が小説を読むことによってあらゆる人物への接し方のシュミレーションになるとかなんかの本で示しており、その通りだなと思った。

あとは、やり直しがきかず一回性の人生を生きる上で、自分以外の生き方はできないが、小説を読むことで他人の人生を間接的になぞったりすることができ、不要な失敗や選択ミス、こう生きたくない、この方向性で生きたいと教訓を得ることができ、結果的に即効性はないがより良く生きるために役にたつだろう。まぁ、これは実際に読んで実感してみないことにはなかなかわからない感覚かもしれないけどね。

単純に読んでも面白いものが多いし(もちろん途中で投げるのもあるけど)、あぁ、読んでよかったと心の底から思える文学作品に出会うと、望外の喜びを得ることもごくまれにある。そういう経験を一度でもすると、文学作品を読まないで生きるという選択はもうできないだろう。上記の作品は本当に読んでよかった。また今が転換期だから読み返してみるか。

あとは、物語の構図に関してや比喩の楽しみ方などが各作品を引用しながらわかりやすく示されている。また、読むだけではなく、実際に小説を書いてみることも読むことの一方法であるなどなど示されており、参考になる部分が多い。

書評を利用し、ファイルを作る』という節では、新聞の書評欄を読む習慣をつけ、印象に残ったものに実際にメモを書いてみるとよいと示されている。また、好きな書店を持ち、その書店を定点観測するのがよいと示されている。これは僕もやっている。そして以下のように示されている。
 私は若い人たちにもよく言うのですが、新刊本というのは生鮮食品なんですよ。だから、書店に足を運ぶか運ばないかで、思考力と感性への栄養に違いが生まれます。そういう習慣さえもてば、自分が読むべき本、いずれ役に立つ本、人に薦めたい本が自然とわかってくるようになります。読むべき本を自分がすぐれたソムリエになって選択していく能力をつけていくと、日々の生活に深度が増してくることは間違いありません。
 本というものは、最高の対話の相手であり、頼りがいのある味方です。問いかければ、いつも何かを語りかけてくれます。
(pp.102-103)
生活の深度がどれだけ増したかは自分ではわからないけど、自分が読むべき本、いずれ役に立つ本、人に薦めたい本はさすがにわかってきたかな。

中高生向けに講義している内容なので、とてもわかりやすくさくっと読めて、小説や文学作品に対する向き合い方が変わると思う。お勧めのブックリストもそれなりに示されているので、そこからまた文学の世界にダイブすることもできる。

中高生でこれを読める人は羨ましく思う。もちろん、大人になってあまり文学作品を読まない人が読んでも、文学作品を読みたいと思う気にはなれるだろう。そしてよりよい人生を。




読むべき人:
  • 中高生の人
  • 実用書しか読まない人
  • よりよく生きるヒントを得たい人
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September 08, 2015

掏摸

キーワード:
 中村文則、スリ、支配、塔、運命
スリをテーマにした小説。以下のようなあらすじとなっている。
東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎―かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは…。大江健三郎賞を受賞し、各国で翻訳されたベストセラーが文庫化。
(カバーの裏から抜粋)
最近は時間的に余裕があるというか、暇なので図書館に行った。借りたい本はあらかじめ決めていたが、文庫コーナーの本棚の中に少し隙間があるところに本書が置いてあって、なんとなく惹かれるように手に取って裏のあらすじを読むと、なかなか面白そうなテーマなので借りて読んでみた。

タイトルの読みは「スリ」で、主人公は東京で金持ちばかりをカモに狙う天才スリ師である。電車の中やデパートで身なりの良いカモに目をつけ、財布のありかを把握し、そっとカモに近づき、時には相手に軽く接触したり自分の身にまとっているコートで周囲の視界を遮り、親指は使わずに人差し指と中指でカモの財布を気付かれないように素早く抜き取る。財布から現金だけを抜き取り、財布をポストに入れておけば持ち主のところに自動的に届けられる。主人公は、スリは生計を立てるためというよりも、その瞬間にスリルと生きがいをどこかに感じているようでもある。

ある日、主人公はかつてのスリ仲間に会い、その男から別の仕事、強盗をやるように依頼される。正確にはスリ仲間を使っている別の男、木崎という男がある政治家の家から現金と重要な書類を手に入れる計画を立てており、主人公は木崎に魅入られ断ることもできずにその仕事を引き受けてしまう。そして主人公の生殺与奪、今後の人生が木崎に握られてしまう・・・。

スリの描写がとても生々しく感じて、本当に著者が経験してきたかのようだった。主人公曰く、スリは本当は1人でやるものではなく、3人が基本で、ぶつかる役、周囲からその瞬間を隠す役、取る役と分担するのがいいらしい。そういうテクニックとか他にもスーパーでの万引きのやり方などもなんだか説得力があるので参考になった(もちろん実際にやるわけないし、やってもそんな簡単にうまくいくはずないし、ばれてタイーホされるでしょw)。一応最後に参考文献が載ってた。『スリのテクノロジー』とか。しっかり研究されているようだ。

あとはスリよりも重罪で凶悪な、強盗、殺人などを裏社会で仕切っている木崎という主人公よりも絶対的な悪、支配者が出てくるのが不気味だが、物語に重要な人物として出てきてよかった。この男が主人公に3つの仕事を強制させるが、主人公は断ることができない。断れば主人公が死ぬからだ。木崎は他人の人生を意のままに操ることをほかのどんなものよりも快感としている。そして木崎は主人公にこう言う。『お前は、運命を信じるか?お前の運命は、俺が握っていたのか、それとも、俺に握られることが、お前の運命だったのか。

裏社会の様相やそこに出てくる人物たち、そして自分のテリトリーではないやばい世界に足を突っ込んでしまった主人公の緊張感が何ともハラハラさせられ、ページも一気に進んだ。こういうのは『闇金ウシジマくん』みたいな感じで、怖い世界だなと思った。

この作品の兄妹編として『王国』というものがあるらしい。気になるのでこっちもチェックしてみよう。

著者の作品は他に読んだこともなかったので、本書はあまり期待してなかったけど、最近読んだ中で一番熱中して読めた作品かな。187ページと多くないのでさくっと読めるし、後半戦からスリルが増していって、なかなか面白かった。



掏摸(スリ) (河出文庫)
中村 文則
河出書房新社
2013-04-06

読むべき人:
  • スリ師の手口を知りたい人
  • 闇金ウシジマくんが好きな人
  • 運命に翻弄されている人
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